脳MRI画像をAIで解析する医療画像解析ソフトウェア「EIRL aneurysm」 -エルピクセル島原氏インタビュー

医者の「代わりになる」ではなく「補助する」AI

小泉:御社で作られている製品だと動脈瘤があるかどうか、人が見るよりも見つけやすいということでしょうか。

島原:医師単独よりもAIを活用すると検出率が約10%上がるというような性能試験結果が出ています。これは、医療機器として効果効能が十分あるでしょうということで、厚労省に認可、いわゆる薬事承認をいただいています。

小泉:なるほど。2年前にお話をうかがった時も医者の代わりをやるわけではなくて、医者では見つけられないところを見つけてあげて、医者もそれを見てさらに判断をするようなものを作るという話もされていましたが、そこはあまり変わらないのでしょうか。

島原:そうですね、補足すると、今までの医療機器の進化とは、新しい医療機器が出来る、ということはすなわち今まで出来なかったことが出来るようになる、革新があるということなのです。例えばX線を活用して体の内部を二次元で見るとか、CTを活用して3次元で見れるようになったとか、見つからなかったものが見つかるようになりますというストーリーが多いのですが、私たちが開発しているものはそれとは少し違います。

人間はどうしてもばらつきもあり、ミスします。AIというのは、そこを一定の割合で防ぐことができるというもの。出来なかったことが出来るようになるという点でいえば、見逃していたものが見つかるということはありますが、基本的には診断のレベルを効率的に保つ、というところがバリューになっていくのですね。

小泉:3次元の画像を見るというと読者の方はなかなかイメージがつかないと思うのですが、立体を見ているわけではないのです。立体がスライスされているものを見るような感じでしょうか。

島原:立体再構成した画像を見る感じですね。

小泉:さらにその画像から再構成してこの辺がちょっと問題があるよ、みたいなこともわかるようなイメージなんでしょうか。AIがわからない人からすると、AIが判断して「ここに癌があります」とピコーンと表示が出るようなものを想像してしまうと思いますが。

島原:そうですね、イメージは近いです。実際に見ていただきたいと思います。

脳MRI画像をAIで解析する医療画像解析ソフトウェア「EIRL aneurysm」 -エルピクセル島原氏インタビュー
脳の動脈のMRI画像のキャプチャー

島原:これが実際のMRI画像ですけれども、動脈を示しています。180枚ほどのスライス画像で立体を撮れるのですが、正直わからないですよね、一般の人にはどこに瘤があるか。

小泉:お医者さんはこれをみたらわかるんですか。

島原:そうです。このMIP画像というのが血管を立体化したものです。

画像認識AIの学習は量より質を重視

脳MRI画像をAIで解析する医療画像解析ソフトウェア「EIRL aneurysm」 -エルピクセル島原氏インタビュー
瘤の疑いがある部分がハイライトされている

小泉:この黄色い枠はこのシステムが出してるんですよね。

島原:そうです。AIが認識した瘤の疑いがある部分がハイライトされます。非常にシンプルです。

小泉:AIがこれを学習する時はどうしているんでしょうか。こういう画像を見せていってここが瘤だと教えてあげるんですか。

島原:瘤になっているところにバウンディングボックスというものを作って、画像を学習させています。

小泉:初めは相当な数の画像を用意されたんでしょうか。

島原:そうですね。やっていくとわかるのですが、量よりも質が大事なのです。数十万枚にリーチはしたとしても、実際に使うものは数千枚くらいのこともあります。下手な画像で学習しすぎるとオーバーフィッティングといって、過学習してしまい、性能が落ちることがあります。そういったものを取り除かなければならないです。

IoTNEWS 石井庸介(以下、石井):上市した後も継続的に学習していくんでしょうか。

島原:継続的な学習機能は持っていません。医療機器の性質上、性能をフィックスさせて、安全性を担保した状態で市場に出さなければならないのです。

学習して良くなることはイメージがつきますが、悪くなるということも当然考えられ、追加学習によって製品の安全性が下がるということがゼロではないのです。

そのため、現在の法的枠組みでは継続的に学習する製品は認められていません。こういった法規制で一番進んでいるアメリカのFDAでも同様です。しかし、個人的にはこの数年以内に新しい方針が出るのではないかと考えています。

小泉:一回フィックスしてしまわないと良いも悪いも評価できないということなんですね。ちなみに「EIRL aneurysm (エイル アニュリズム)」はなんでこの名前なんでしょうか。

島原:EIR(エイル)はギリシャ神話に出てくる援助や慈悲という意味を持つ医療を支援する女神の名前からとっています。

AIの活用が期待される「予防医学」と「救急」の現場

小泉:今後はこういった色々なパターンに対応した製品を出していくのでしょうか。

島原:その予定です。まず最初に脳からはじめたというのは、もちろん市場があるから、というのもあるのですが、熱意のある先生に出会ったからというのが一番の理由です。

現在進めている開発テーマとしては、大腸内視鏡からポリープの検出、肺がん、マンモグラフィーなど、部位を少しずつ増やしています。

切り口としては予防医学が注目されていますので、スクリーニングをして早期発見を支援する取り組みを進めています。

早期発見する為には、患者さんに定期的に検査を受けていただくことが必要ですが、医師にとっては検査数をこなさなければならず、どんなに数が増えたとしても検査の品質を一定に担保する必要があります。

その点はAIが効果や価値を発揮しやすいところだと思っています。1人の医師が集中して1枚の画像を10時間も見ることが出来れば異常を見逃さないはずですが、医師数が不足している状況では難しいと言えます。数をこなすためにAIのサポートを受けて診断をする、というのはAIを活用すべきところのひとつになると思います。

脳MRI画像をAIで解析する医療画像解析ソフトウェア「EIRL aneurysm」 -エルピクセル島原氏インタビュー
開発中の肺溝の疑いのある個所を示すAIの画面

もう一つの観点からいうと、エマージェンシー(救急)でもAIが活用できます。現状夜間救急の場で専門医が検査画像を見ることはほとんどありません。専門医が居なくても専門医と同等の診断が出来る、診断を担保できるというところにAIの価値が発揮されます。

スクリーニングと救急、この二つの切り口から展開をしていこうと思っています。

小泉:もともと画像で診断できる先生が少なく、そこに対してサポートするようなものを作りたい、と前回のインタビューで伺ったという経緯があるので、現在も考え方は変えずにぶらさずにやられているんだなと思いました。これは病院側が購入されたら使用されるとのことですが、診断される側からするとこれを使用しているか、していないかは言って欲しいなと思います。

島原:本当は患者さんの意識が変わることが非常に重要だと考えています。このような機器を使用することはある種、「献血」のような面もありまして。AIが活用された機器を使うことは自分の診断データを将来の研究に生かせるということになります。

AIがある施設を「こちらの方が嬉しい」とか「社会貢献になるから」という感覚で、患者さんに選ばれるようになれば良いですね。

小泉:私もそう思っています。いわゆる「機械だけにやらせるわけではない」というところがミソですよね。機械だけに任せると不安だという方もいらっしゃるじゃないですか。でもこれは機械だけでやろうとしているわけではなくって、人もいて構わないし、一緒に相互依存しながらより高度な診断を出来るようにしていこう、という話だと思うので、そういう意味ではデジタルアレルギーみたいな人でも関係ないですもんね。

島原:飛行機のオートパイロットと一緒です。

小泉:私の父も大腸がんになりましたが、早期発見できたので大事には至りませんでした。父は偶々見つけられたから助かったといっていましたが、偶々みつけられない人の方が圧倒的に多いという話と聞いていると、こういったものが健康診断の一環として活用され、AIが入り込んでいって、専門医の方がいなくとも健康診断を普通に受けている中で早期発見できるような形になってくるといいなと思います。

脳MRI画像をAIで解析する医療画像解析ソフトウェア「EIRL aneurysm」 -エルピクセル島原氏インタビュー
IoTNEWS代表 小泉 耕二

島原:大腸は、肉食が多い方や血縁者ににがんが見つかっている方は検査をしたほうが良いという報告があります。ポリープが小さい内は問題ないのですが、大きくなると悪性化し、がん化するというものもあります。検査を受けていれば早期に発見できると思いますが、検査でも見難い襞の裏に隠れている場合もあるので、当てはまる方は一定以上検査をする必要があると言われています。

小泉:健康診断での活躍にますます期待がかかりますね。

島原:そうですね、年に一回のチャンスで見逃さないようにすることが大事ですね。

次ページは、「医療機器とリスク管理