富士通は、心臓シミュレータのデータをVRにより立体的に表示する心臓ビューアーを、東京大学の大学3年生を対象とした医学部の心電図講義(講師:獨協医科大学ハートセンター 中島敏明教授)に提供すると発表した。
同講義において、学生は、心臓の興奮伝播(ペースメーカー細胞からの電気刺激が心臓全体に伝わる現象)をVRにより360度立体的に確認。心電図が興奮伝播過程でどのように生成されるかを理解する。また、心筋梗塞などのコンテンツを用意し、正常時と疾患時による興奮伝播の違いも確認する。
心臓ビューアーのコンテンツには、富士通と東京大学が共同で開発を行っているスーパーコンピュータ「京」やPCクラスタを用いた心臓シミュレータの出力データが用いられる。
富士通は、今回の講義で得られる知見を踏まえ、2017年度中に教育機関や医療機関向けに心臓ビューアーを教材ソフトウェアとして販売する予定だ。
<背景>
現在、心臓病は世界の先進各国における死因の上位(日本2位、米国1位)を占めており、様々な治療法、治療機器が日々研究開発されている。
心臓は体内の中でも最も難解な構造を持ち、複雑な動きや血流の動きを文献などで学ぶのは難しいとされている。なかでも、医学生が初期に学習する心電図の示す波形と興奮伝播の相関についての理解が困難であると言われる。
心電図は、心臓の中に存在するペースメーカー細胞からの電気刺激によって心筋に興奮が伝わり、心臓が収縮する現象を信号で捉えたものだが、心電図自体はグラフによる表示が一般的だ。一方、興奮伝播は複雑かつ立体的に心筋内に広がるため、教科書や従来の教育向けコンテンツでは、その伝播過程を忠実に伝えることができないという課題があった。
<講義概要>
- 実施日:2017年9月13日(水曜日)
- 実施場所・クラス:東京大学本郷キャンパス 心電図講義(講師:中島敏明教授)
- 受講者:3年の医学部生 約110名
- 概要:学生は、プロジェクターで映し出された心臓のシミュレーションモデルを、立体的に見ることができる。講師は、正常時と異常時の興奮伝播の3Dモデルを、360度回転させたり、断面の状態を見せるなど、簡単な操作で動かしながら説明を行う。
<心臓シミュレータの概要>
- スーパーコンピュータ「京」で生成した精巧な3Dモデルを実現
富士通と東京大学が開発している心臓シミュレータは、実際のMRIやCTで撮影された心臓の画像を元にスーパーコンピュータ「京」あるいはPCクラスタで、心臓の拍動を心筋細胞のレベルから精密に再現される。今回、教材向けに用意した、心臓シミュレータのデータを立体的に見ることができる専用ビューアーを活用し、心臓の内部・外部の構造をはじめ、リアルな心筋の挙動、詳細な血管網や血流の様子、興奮伝播の拡散などを、3Dモデルで学ぶことができる。
- 多様な視点からの観察と様々なシミュレーションが可能
内部までリアルに再現された3Dモデルを、回転や拡張、断面など、多様な視点から観察することができる。また、健康な心臓のほか、心筋梗塞、致死性不整脈、左脚ブロックなど疾患時のシミュレーションデータも用意されているため、正常時の心臓の挙動と比較しながら学習を進めることができる。
【関連リンク】
・富士通(FUJITSU)
・東京大学(The University of Tokyo)
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技術・科学系ライター。修士(応用化学)。石油メーカー勤務を経て、2017年よりライターとして活動。科学雑誌などにも寄稿している。