数十年以内の発生が予測されている南海トラフ巨大地震などによる津波災害は、甚大な被害をもたらすことが想定されている。そのような津波から身を守るためには、適切な情報活用に基づく迅速な避難行動が必要となる。
近年のスーパーコンピュータの高速化やAI技術の発展により、観測に基づくリアルタイムな津波の浸水予測が可能となりつつあるが、それらの情報を市民に広く伝達する仕組みが整備されておらず、また、情報の捉え方やデジタルリテラシーにおける個人差が社会実装に向けての課題になっている。
例えば、AI予測によりこれまでにない具体的な情報が得られる一方で、自然現象ゆえの不確実性により予測が外れるリスクもあるため、情報を受け取る際には、そのような不確実性を踏まえた情報の理解および利活用が求められる。同時に、情報を提供する際には、受け取る側のデジタルリテラシーの違いを考慮したインクルーシブな提供方法を検討する必要がある。
国立大学法人東北大学災害科学国際研究所、国立大学法人東京大学地震研究所、富士通株式会社、川崎市は、2014年に川崎市と富士通が締結した持続的なまちづくりを目指した包括協定の一環として、2017年より「川崎臨海部におけるICT活用による津波被害軽減に向けた共同プロジェクト」を進めている。
このほど4者は、2022年3月12日に行われる川崎区総合防災訓練において、スーパーコンピュータ「富岳」の津波シミュレーションで構築したAIによるリアルタイムな浸水予測データを活用する避難の実証実験を実施する。
同実証実験では、富士通が開発した専用のスマホアプリを通して、スーパーコンピュータ「富岳」を用いて構築したAIによる津波浸水予測情報を、避難訓練の参加者に配信する。その際、AIによる予測情報の不確実性を含めて同実証実験の事前説明を受けた参加者(以下、災害情報リーダー)には、AIが予測する津波到達時間や浸水の高さなどの詳細な情報が、その他の参加者には、自身がいる場所に浸水予測が出ていることを示すテキストメッセージがアプリの画面上に表示される。
避難時には、災害情報リーダーがコミュニティ内の参加者の現在位置を確認し、逃げ遅れている参加者にスマホアプリのメッセージ送信機能を使って注意喚起を行うことができる。これにより、コミュニティ内の情報共有を活性化させ、参加者が一丸となって協力し合う、より安全かつ効率的な避難を目指す。
さらに、これまでに実施した実証実験で有効性が確認された、避難経路上の通行困難地点の情報を投稿し共有する機能や、避難所に集まった人数をリアルタイムにシェアする機能も搭載されている。
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