東京大学大学院工学系研究科のMoh Hamdan氏と、島添健次准教授、東北大学の野上光博助手、人見啓太朗准教授らは、株式会社ジャパンディスプレイ(以下、JDI)と協力して、新たに臭化タリウムを直接変換膜とした高精細・高感度なX線イメージセンサの作成手法を確立したと発表した。
X線を用いた画像診断は、医療応用ではレントゲンやマンモグラフィー、産業用途では異物検査や内部構造の検査など広範囲で用いられる重要な技術だ。
今回発表された手法により、X線検出の高感度化やそれに伴う低被ばく化、イメージセンサの大型化、フレキシブル化などが期待されている。
臭化タリウムは、高原子番号のタリウムと臭素の組み合わせによる高い密度(7.56 g/cm3)により、X線やガンマ線への感度を持つ化合物半導体だ。
今回の研究グループは、その低融点を利用して、蒸着技術を用いて臭化タリウムを精度の高い結晶変換膜として広範囲に形成する技術を確立した。
具体的には、X線の直接変換材料として高原子番号と高い密度を有するTlBrに着目。TlBrの低融点である特徴を用いて、蒸着手法によるX線イメージセンサの実現可能性と結晶膜の品質の向上を目指した。
実験では、形成した臭化タリウムによる厚さ50µmの変換膜が、1010Ωcm以上の高い抵抗率を有し、低い暗電流で動作可能なことが確認された。
また、235µmピクセルのJDI製のLTPS(Low Temperature Poly Silicon)型FPD上に臭化タリウム膜を形成することで、250 µm の空間解像度が得られることが確認された。

さらに、開発したX線イメージセンサを用いて、ニボシの画像を取得し、内部構造を高精細に可視化できることがわかった。

この研究により、臭化タリウムを、蒸着方式によって広範囲に品質を落とすことなく形成する技術が確立された。
加えて、この変換膜を、JDIの有するX線の撮影などで用いられるピクセル化された検出器「FPD(Flat Panel Detector)」による微細ピクセル読出技術と組み合わせることで、高感度なX線イメージセンサを実現する技術の開発に成功した。
これにより、将来の開発が期待される大型X線装置への展開や、形状が特殊なフレキシブル型、さらに微細化したピクセルによる高精細X線イメージセンサなどへの応用も考えられ、多くの展開が想定されている。
なお研究グループは、「この手法は、大規模なイメージセンサへの応用や、平面以外への形成も可能である」としている。
また、この研究の成果は、2024年5月9日に米国科学誌「Nuclear Instruments and Methods in Physics Research Section A: Accelerators, Spectrometers, Detectors and Associated Equipment」のオンライン版に掲載されている。
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