「属人化」は、人口減少や業務効率化の課題とともに語られ、しばしば企業のリスク要因として問題視されます。
人口減少や労働力不足が進む中で、属人化が進行すると、業務の効率性や生産性に深刻な影響を与える可能性があります。
また、属人化は情報の偏りや継続的なノウハウの蓄積を妨げ、企業の競争力低下を招くこともあります。
そこでこの記事では、属人化がなぜ起こるのかといった原因や、企業に及ぼす問題やデメリットに加え、その弊害をどのように解消するか、具体的なアプローチや事例などを紹介します。
属人化とは
「属人化」とは、業務の進め方やノウハウが特定の個人に依存してしまう状態のことを指します。
属人化すると、他の人が同じ業務をスムーズに遂行できない可能性が高まります。
例えば、「この業務は○○さんにしかできない」「担当者が休むと仕事が止まる」といった状況が発生してしまうのです。
属人化のメリット
一方、属人化しているということは、特定の人が長期間業務を担当することによって、その分野に関する深い知識やスキルが蓄積されている状態です。
そのため、その担当者が業務を行っている環境下においては、経験やノウハウに基づく判断により、高い品質を維持したり、スピーディな意思決定をしたり、臨機応変な対応をしたりといったメリットを得られる可能性が高いのです。
これまで、担当者がこの先もまだ在籍するだろうとされていた時代や、担当者が新人に教えることができる環境が整っていれば、属人化することでのメリットを享受することができたかもしれません。
しかし、昨今の高齢化や人口減少に伴い、担当者が退職してしまったり、教える新人がいなかったりする中で、属人化を解消したいと考える企業が増えています。
属人化の問題点やデメリット
では、昨今の高齢化や人口減少といった環境下において、属人化が企業に及ぼす具体的な問題やデメリットについて紹介します。
業務のブラックボックス化
業務の進め方やノウハウが特定の担当者に依存していると、何をどのように行っているのかが明確でなく、他の人が業務内容を把握でないといった「業務のブラックボックス化」が起こります。
業務がブラックボックス化してしまうと、必要な情報が担当者の頭の中にしかなく、組織全体で業務の効率を図ることが難しくなります。
例えば、「このシステムの設定は○○さんしか分からない」となり、設定変更やトラブル対応が難航してしまいます。
業務の停滞・引き継ぎ困難
属人化した業務は、担当者が急な退職や長期休暇などで不在になったときに大きな影響を及ぼします。
特に、担当者が急な退職や長期休暇を取ると、業務が止まってしまうリスクがあります。
こうなってしまうと、その後の新たな担当者は一から学び直さなければなりません。
また、標準的な手順が確立されていないため、担当者によって業務品質にばらつきが出たり、ミスが増えたりする可能性があります。
業務の負担が特定の人に集中
属人化した業務は、特定の担当者に負担が集中しやすくなります。
その結果、他の社員が成長する機会を失うだけでなく、担当者に長時間労働や精神的な負担がかかり、担当者のモチベーション低下や離職につながるリスクもあります。
属人化が起きる原因
属人化は偶然に起こるものではなく、業務内容や業務の進め方、職場環境などに起因します。ここでは、属人化を引き起こす主な原因について解説します。
業務の特性
一つは、業務の特性が挙げられます。専門知識やスキルが必要な業務は、属人化しがちです。
例えば、高度なプログラミング技術を要する業務や、専門的な法律知識が必要な業務、特定の機械操作が必要な業務などです。
こうした業務は、専門用語が多く他の従業員が理解しにくく、業務プロセスが複雑でマニュアル化するのが難しいのです。
加えて、こうした業務は経験を通じて得られる暗黙知が多く、暗黙知が積み重なっていくことでどんどん属人化が進んでしまいます。
また、市場調査、Webマーケティング、システム開発など、頻繁に手順が変わる業務の場合も、マニュアル作成が追いつかず、担当者の経験に頼りがちになります。
情報共有の不足
特定の専門知識やスキルが必要な業務であっても、適切に情報共有できていれば属人化を防げる可能性が高まります。
しかし、担当者が業務に関する情報を共有してくれなかったり、共有したくても仕組みやツールが整備されていなかったりすることで、属人化が進んでしまいます。
情報が共有されない背景には、競争意識が強い環境において、担当者が自分の専門性や価値を高めたいという気持ちから、情報を独占しようとする場合があります。
また、他の人に業務を任せるよりも、自分でやった方が早い、安心だと考えるケースもあるでしょう。
あるいは、業務が属人化していることに気づいていないこともあります。この場合は、情報共有の習慣がなかったり、情報共有の文化が根付いていなかったりすることが要因として挙げられます。
さらに、情報共有ツールが不足・使いにくい場合や、日々の業務に追われ、情報共有に時間を割く余裕がない場合には、情報を共有する手間を惜しむということも考えられます。
これらの要因が複合的に絡み合い、担当者は情報を共有しないという行動につながります。
ITツールの未活用
業務の中には、手作業で行うよりもシステム化・自動化した方が効率的なものが多くあります。
しかし、企業によってはITツールが十分に導入されていなかったり、導入されていても適切に活用されていなかったりすることで、属人化が発生しやすくなります。
例えば、定型的なデータ処理や報告書作成、在庫管理などを手作業で行っていると、その業務に慣れた担当者に依存する形になり、結果として属人化につながります。
また、プロジェクト管理ツールやワークフロー管理ツールを活用していない場合、業務の流れや進捗が個人の頭の中にのみ存在しやすくなります。その結果「担当者が不在になったときに業務が止まる」「引き継ぎがスムーズにできない」といった問題が発生します。
ITツールを導入していたとしても、現場の業務フローに合わないツールであったり、入力作業が煩雑だったりすると、従業員が敬遠してしまい、活用が進まないことがあります。その結果、結局は従来の属人的なやり方が続いてしまうことになります。
こうした課題を解決するためには、単にITツールを導入するだけではなく、現場の業務に適したツールを選定し、定着する仕組みを作ることが重要です。
例えば、使いやすいUIのツールを導入したり、従業員に対して研修やマニュアルを整備したりすることが考えられるでしょう。
属人化の対義語「標準化」とは
属人化の対義語は「標準化」です。
標準化とは、業務の手順やルールを統一し、誰でも一定の品質で業務を進行できるようにすることを指します。
属人化は、上述したような問題やデメリットがあるため、標準化の重要性が高まっています。
誰でも業務を遂行できるように標準化することで、限られた人員での業務継続を可能にできるほか、新入社員や未経験者に短期間で業務を引き継ぐことができます。
また、ITツールやAIなどのデジタル技術を取り入れようとしても、業務プロセスが個々の担当者に依存していると、システムに落とし込む際に曖昧な部分が多くなり、IT化が難しくなります。
ITツールやAIを活用するためにも、業務フローを整理し、標準化する必要があります。
加えて、市場の変化が激しい昨今において、変化に応じて企業は新しい事業やプロジェクトを素早く立ち上げる必要があります。
しかし、属人化していると、現状の業務を共有したり、引き継いだりすることが難しく、市場環境の変化に迅速に対応できず、競争力が低下するリスクがあります。
こうした背景から、多くの企業が標準化を求めています。
属人化を防ぐための解決策
では、属人化を防ぎ、誰でも業務を円滑に進められるように標準化するにはどうすればいいのでしょうか。
ここでは、属人化解消に向けたいくつかの解決策を紹介します。
業務のマニュアル化と仕組み化
属人化を防ぐためには、まず業務の内容や手順を明確にすることが重要です。
業務の流れをフローチャートやプロセスマップで可視化し、「どの業務が誰に依存しているのか」を把握することで、属人化の度合いやボトルネックを特定します。
そして、作業手順や判断基準をマニュアル化します。マニュアルは文章だけでなく、画像や動画を活用すると、理解しやすくなるでしょう。
また、マニュアルを作るだけでなく、誰が担当しても一定の品質を保てる仕組みを整えることが大切です。
そのために、業務の抜け漏れを防ぐ業務ごとのチェックリストを作成します。特に、頻繁に発生する作業ミスや重要なポイントを明記することで、業務の品質を安定させることができます。
さらに、報告書の書き方やデータの入力方法など、業務のルールを統一することで、誰が作業をしても一貫した成果物を生み出せるようになります。
ジョブローテーションの実施
特定の社員だけが業務を担うのではなく、定期的に担当を変更するジョブローテーションを導入することも、業務の属人化を防ぐことができるでしょう。
また、1つの業務を複数人で担当することで、業務負荷の集中を防ぎ、急な欠員にも対応できる体制を構築できます。
新しい担当者が入ってきた際には、実際の業務を経験しながら学ぶOJTを導入することで、知識やスキルの継承がスムーズに行えます。
情報共有の文化を育てる
属人化を解決するためには、組織全体で情報共有を促進する文化や仕組みを根付かせることも重要です。
例えば、週次や月次で業務報告会を実施し、業務の進捗や課題を共有する習慣をつけたり、情報を共有することが評価につながる仕組みを作ったりすることで、社員が積極的にナレッジを公開するよう支援することができます。
属人化を防ぐためのデジタル活用による解決策
業務の標準化や情報共有をするためには、ITツールやデジタル技術を活用することも有効です。
ここでは、ITツールやデジタル技術を活用した具体的な解決策について紹介します。
業務の可視化とナレッジ管理ツールの活用
属人化の最大の課題は、業務が特定の個人に依存し、他の人が内容を把握できないことです。
これを解決するためには、業務の可視化を行い、可視化した情報を一元管理するナレッジ管理ツールを活用することが有効です。
ナレッジ管理ツールに業務フローやノウハウ、過去の事例などのナレッジを記録して、誰でもアクセスできる状態にすることで、新人や他のメンバーがナレッジを活用することができます。
クラウドベースの情報共有システムの導入
業務のフローやノウハウをデータとして蓄積していたとしても、特定の担当者のPCやローカル環境に保存されていると、引き継ぎが難しくなります。
そこで、クラウドベースの情報共有システムを活用することで、どこからでもアクセス可能な環境を構築できます。
業務資料や契約書などをクラウドに保存することで、関係者全員が最新情報にアクセスできるようになります。
クラウドについて詳しく知りたい方はこちらも参考にしてみてください。
クラウド ーDXキーワードテスト
RFID
RFIDは、Radio Frequency Identificationの略で、無線通信を利用してモノや人物の情報を識別し、追跡する技術です。
追跡したいモノや人物の識別番号などの情報が保存されたRFIDタグを貼り、RFIDリーダーによりRFIDタグの情報をデータベースに送信することで管理することができます。
この技術を活用することで、業務の効率化や情報の共有が進み、属人化の解消に寄与します。
例えば、倉庫や工場などで、在庫管理や資産管理にRFIDタグを使用すると、各アイテムの位置情報や状態をリアルタイムで把握することができます。
これにより、担当者の手作業で行われていた管理業務を自動化し、誰でも正確に情報を把握できる環境を整えることができます。
また、RFIDタグに記録されたデータをクラウド上で一元管理することで、情報共有が容易になります。
AIの活用
AIは、大量のデータを分析し、パターンを学習することで、業務の自動化や意思決定の支援を行う技術です。これにより、複雑なシフト作成や配送計画といった、属人的になりがちなノウハウや経験が必要な業務を支援することができます。
また、前述したナレッジ管理ツールにAIを活用すれば、ナレッジ管理ツールに蓄積されたデータをAIが分析し、一部の業務の自動化や、過去の事例を基にした問題解決案の提示などを担ってくれます。
さらに、近年注目されている、大量のデータを基に新しいテキストや画像、プログラムコードなどを自動生成する生成AIを活用することで、これまで人が行なっていた文章の作成を担ってくれたり、自然言語での質問に適切な回答を提供してくれたりします。
システムにAIを活用する方法やメリットについて知りたい方はこちらも参考にしてみてください。
生産管理にAIを活用するメリットとは?AIの種類や活用する際の注意点などを徹底解説
RPAによる業務の自動化
RPAは、Robotic Process Automationの略で、ソフトウェアロボットを活用して業務プロセスを自動化する技術のことです。
データ入力、帳票作成、メール送信などの、定型業務や繰り返しの多い作業を自動化することができます。
RPAは、基本的にこれまで人が行っていた、Excelや社内システムを操作する際の「マウスのクリック」「キーボード入力」などを記録・再現するため、既存の業務フローを変更せずに導入できるのが特徴です。
これにより、人的ミスを削減し、業務の品質を一定に保つ効果が期待できるでしょう。
これらのITツールやデジタル技術を組み合わせて「誰でも対応できる仕組み」 を作ることで、属人化のリスク低減が期待できます。
デジタル活用で属人化を解消した事例
では、実際にITツールやデジタル技術を導入することで、属人化を解消した事例をいくつか紹介します。
設計・調達領域の脱属人化
まずは、多品種少量生産を行い、国内外に販売先がある精密機器メーカの例です。
このメーカは、工場の増強に伴い、サプライチェーンにおける設計・調達領域の属人化が課題でした。
例えば、新しい図面に対して部品を発注する際も、どこのサプライヤーに発注するべきかを経験がある担当者に聞いていたため、毎回担当者に確認する必要が生まれるほか、適正なサプライヤーに発注できているか分からないといった状況でした。
さらに、経験者それぞれの判断のもと、似たような図面のものでも別々のサプライヤーに発注していたり、その後も適正でない発注先であるにも関わらず、リピート発注し続けていたりといったケースもありました。
また、過去の図面を探す際には、材質や図面番号などから探したり、担当者に聞いたりしながら探していたため時間がかかってしまい、似たような図面があるにも関わらず、新しい図面を作成してしまうことも多々あったそうです。
そこでこのメーカは、図面データを解析した上で蓄積することで、必要な図面を類似検索やキーワード検索などで検索することができる図面データ活用クラウドサービスを導入しました。
このシステムは、図面上に書いてあるキーワードで過去の図面を検索することができ、経験がある担当者に聞いていた時よりも半分以下の時間で目的の図面にたどり着くことができるようになりました。
さらに、類似している図面を検索をすることで、似ている部品を作っているサプライヤーの過去の実績や価格、得意とする領域を比較しながら、誰でも適正な発注を行うことができるようになりました。
属人的な物流管理にRFIDタグを活用
二つ目は、属人的に行われていた物流の管理にシステムを導入した工作機械メーカの事例です。
この工作機械メーカは、これまで部品加工から完成品の組立までを、それぞれ二つの工場で行っていました。
この二つの工場の生産体制を、一つの工場で組立、もう一つの工場で部品加工を行う一体型に再編しました。
これにより、特定の機種の需要が落ちても、あらかじめ工場別で機能が分かれていれば、大がかりな機種移管を行わずにフレキシブルに対応することができます。
しかし、物理的に離れている二つの工場間で生産体制を統合するには、モノの流れを把握する必要があり、これまでは属人的な方法で物流の管理を行っていました。
物流の管理が属人的だと、普段管理をしていない倉庫の担当者が部品をまちがって別の台車へのせてしまったり、組立ラインの担当者が台車から部品をとりまちがえたりしてしまい、後工程の担当者が部材の行方を探さないといけないなどの問題が起きていました。
そこで同社は、RFIDタグを貼付することで、すべてのモノの「位置」「数量」「滞留時間」を可視化する物流管理システムを独自開発しました。
RFIDタグとは、電波を使ってデータを送受信するためのタグです。ICチップとアンテナを内蔵しており、RFIDリーダー(読み取り機)と無線通信を行うことで、モノの識別や管理ができます。
今回の事例では、部材を運ぶパレットやモノに直接付けることで、部材が工場間を移動してもどこにあるのかを把握できるようにしました。
これまでは部材の移動経路やタイミングは現場任せでしたが、今回開発したシステムを使ってモノの流れを可視化することで、いつどのような経路で移動しているかを誰でも把握できるようになりました。
これにより、あるべきでない場所に滞留している部材や、非効率な移動経路などが見えてきて、改善活動も行えたのだそうです。
また、物流管理システムに作業者が入力する方法だと、入力忘れや入力間違えする可能性があるため、部材自体に取り付けたRFIDタグを情報入力のキーとしました。これにより、人に依存せずに部材と情報を紐づけるようにしました。
複雑なシフト計画をAIで最適化
物流業界の倉庫で働く従業員は、スキルや業務内容、勤務条件などが異なります。
こうした中で、作業計画やシフト作成は経験がある担当者によって行われるケースが多いですが、この業務に時間がかかることや、生産性や利益率向上を最大化するのが難しいことが課題でした。
そこで、ある日用品メーカは、AIを活用したシフト最適化ソリューションを導入しました。
このソリューションは、入出荷物量の予測データや業務の生産性、順序性や作業の最大・最小人数の制限といった業務の制約事項、そして従業員の多様な勤務条件を考慮して、最適な人員配置・シフトを自動作成するものです。
これにより、シフト作成の時間が短縮され、最大ピーク人員を抑えた効率的な人員計画をたてることができるようになりました。
また、倉庫における業務量も平準化したほか、作業の種類や内容を明確に定義して可視化することで、倉庫業務自体の標準化も実現したそうです。
自主的なRPA導入で抵抗感を減らす
最後は、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)ツールを活用し、トラックの安全運行や業務の効率化・標準化を行なった総合物流事業者の事例です。
この事例では、RPAを活用する対象業務の選定を、従業員にヒアリングして決めることで、新たな取り組みに対する抵抗感を未然に防ぎました。
そして、RPAを活用したい業務の候補を検証し、見込まれる時間削減効果が大きい順に開発に着手した結果、スタッフのニーズを的確に捉え、RPA活用が順調に拡大しました。
例えば、荷物の配達状況確認をベテラン社員の不在時でも行いたいと言うニーズがあり、ここにRPAを導入することで、詳しい業務知識がなくとも対応できるように作業内容を簡素化することができました。
その他にも、約10業務で合計15体のRPAを活用することで、フルタイム従業員1人分にあたる、年間約1900時間相当のリソースを創出できるようになったそうです。
まとめ
このように属人化は、企業運営において大きなリスク要因であり、業務効率や生産性の低下、情報の断絶、ノウハウの蓄積困難など、多くの問題を引き起こす可能性があります。
そのため、企業がこれからの時代に求められるのは、特定の担当者に依存せず、誰でも効率的に業務を遂行できる環境を整えることです。
今回ご紹介した事例のように、デジタル技術を活用した解決策を取り入れることで、属人化を解消し、組織全体の生産性を向上させることが期待できます。
今後も、属人化を防ぐための積極的な改革と技術の導入が、企業の競争力を保つ鍵となるでしょう。
無料メルマガ会員に登録しませんか?

現在、デジタルをビジネスに取り込むことで生まれる価値について研究中。IoTに関する様々な情報を取材し、皆様にお届けいたします。