マイクロソフトは、AIに関する最新の技術やツール、活用事例などを紹介するイベント「Microsoft AI Tour Tokyo」を、2025年3月27日に東京ビッグサイトで開催した。
イベントのテーマは、「責任あるAIの開発とその応用について」で、業界のリーダーやマイクロソフトの専門家、パートナーが集まり議論が行われた。
本稿では、Microsoft会長兼CEOサティア・ナディラ氏による基調講演にて、「Copilot」の活用方法について語られた内容を紹介する。
マイクロソフトが「Copilot」に注力する理由
まず、マイクロソフトが「Copilot」に注力する理由について語られた内容を紹介する。
ナデラ氏はまず、AIのトレーニングに必要な計算資源が、2010年以降急増しているという図を示した。
GPUやTPUなどの専用ハードウェアの進化により、従来では考えられなかった大規模なモデルのトレーニングが可能になっている一方、膨大な計算リソースを投入しなければならないということだ。

そのため、AIの性能は、処理できるトークン数(=知的能力)を、消費電力とコストの合計で割ったものという考え方を示し、より少ない電力とコストで多くのトークンを処理できるAIが、高性能であると定義した。

また、どのように価値を付加するかが重要であるとした上で、「AIの性能向上はハードウェアだけでなく、ソフトウェアの最適化により100倍もの計算効率向上が可能になる」と言う。
つまり、AIの価値は、単なる計算能力の向上ではなく、消費電力とコストのバランスをとりながらソフトウェアの最適化を行い、いかに価値あるタスクを効率的にこなせるかが重要であるということだ。
こうした前提の上、「現在3つのブレークスルーがAIエージェントの世界に現れている」とナデラ氏は述べる。
一つ目はインターフェース(UI)。
二つ目が推論及びプランニング。
三つ目がやり取りの記憶・コンテキスト(文脈)だ。

ナデラ氏は、「マイクロソフトとしても、いかにしてこれらのテクノロジーのパワーを発揮することができるかということが大切である。そして、これを実現するために、マイクロソフトは「Copilot」「Copilot & AI Stack」「Copilot Device」の3つのプラットフォームに集中する」と述べた。
なお、「Copilot & AI Stack」は、Copilotを活用してユーザ自身の製品やアプリケーション開発する際に必要となるインフラストラクチャを提供するもので、企業が独自のAIを構築することができる。また、「Copilot Device」は、AI搭載のPC「Copilot+PC」などだ。
今回は、「Copilot」について語られた内容を紹介する。
UIとしてのCopilot
Copilotは、OpenAIのGPTを活用し、自然言語処理技術を用いた生成AIツールで、Word、Excel、PowerPoint、Outlook、TeamsなどのMicrosoft 365のアプリケーションと統合されているのが特徴だ。
ユーザが自然言語で対話したり指示を入力したりすると、Copilotはがリアルタイムで応答し、作業タスクを効率化する。
今回の基調講演でナデラ氏は、「CopilotをAIのUIとして、ブラウザ、デバイス、OS、既存のアプリケーションなどに導入する」と述べた。

「Teams」での活用例
まず、ビデオ会議やファイル共有などができるビジネスチャットツール「Teams」に搭載されたCopicotのデモ動画が紹介された。
このデモでは、外科医メンバーが脳腫瘍の手術に今から挑もうとしているという想定で、Teamsのミーティングで病歴やどれくらいの時間を手術にかけることができるかといった詳細について話し合っていた。
Teamsの画面では、実際の症例や、ミーティングの内容を文字起こししてくれる「AI ノート」を見ることができる。

ミーティングが終わった後は、AIが書いてくれた会議の議事録を元に、パワーポイントのスライドデッキを作ることができる。

「Pages」での活用例
また、Copilotが搭載されたPagesを活用することで、ウェブや組織の情報をもとに、AIがグラフを作ったり、販売レポートを作成したりしてくれる。

そして、チームでCopilot Pagesを活用すれば、リアルタイムに作業や入力情報を共有することができる。
つまり、かつてスプレッドシートやドキュメントを活用してチームで作業共有していたところに、AIも参加する形で作業を遂行することができるということだ。
AIエージェントを構築するCopilot Studio
次に、AIエージェントを構築することができる「Copilot Studio」についての説明があった。
ナデラ氏は、「ワードを使いながらドキュメントやスプレッドシートを作成するように、何千何万というエージェントを構築できる世界を目指している」と言う。
具体的な操作としては、OpenAIのGPTsのように、自然言語でエージェントにやってほしいことを記載するだけで、簡単にエージェントを作ることができる。
フィールドサービスエージェント
基調講演では、フィールドサービス担当者のオンサイト訪問を支援するための「フィールドサービスエージェント」を構築するデモが行われた。
指示文とデータをアップロードすることで、フィールドサービスエージェントを構築することができた。なお、Copilot Studioで構築したエージェントは、Copilotの中で活用することができる。

ブログ要約エージェント
また、「Copilot Studio」を通じて、マイクロソフトの本社のブログを要約してくれるエージェントの紹介もあった。
マイクロソフトでは、毎日読みきれないほどの英語のコンテンツが公開されるため、それを要約して投稿してくれるエージェントを活用しているという。

なお、こうしたエージェントを構築するには、ユーザのデータを活用する必要がある。
そこでナデラ氏は、「コンプライアンスやセキュリティをはじめ、社内にある人と人との関係性関するデータやドキュメント、プロジェクトなどのデータベースに加え、パブリックなデータやDataverse(マイクロソフトが提供するクラウド型データプラットフォーム)に蓄積されているデータなど、エンタープライズの全ての情報を融合する」と述べた。

専門性を高めたエージェント
さらにナデラ氏は、「近い将来、リサーチャーエージェントとアナリストエージェントをCopilotに取り込む」と発表した。
マイクロソフトが作った高度な推論モデルをCopilotに取り込むことで、研究者やデータアナリストをユーザ一人一人に割り当てることができるという構想だ。
例えば二つのデータをアナリストエージェントに投げると、その相関関係はなんなのかといったことを導きだしてもらうことができるという。
リサーチャーエージェント
リサーチャーエージェントは、リサーチ業務を担ってくれるエージェントだ。
基調講演のデモでは、製品開発を行っていると仮定して、新たなマーケットに参入するための製品戦略を考えてほしいとリサーチャーエージェントに投げかけている。
するとリサーチャーエージェントは、求められている回答に必要な情報をユーザに聞き返した上で、リサーチの計画を提案してくれた。

なお、この回答は、タスクを始め、製品のラインナップ、会議の内容といった自社のデータから、ウェブのデータ、サードパーティのデータを踏まえた上で出力することができるという。
アナリストエージェント
一方、アナリストエージェントは、生データから数分以内に洞察を得ることができるデータサイエンティストのようなエージェントだ。
デモでは、顧客データテーブルや顧客別の収益レポートといった生データのExcelファイルから、収益レポートを分析し、顧客セグメントに関する洞察を提示してくれる。また、それを視覚的に表現したグラフの作成を依頼することで、顧客層の分析と、その分析結果をグラフで分かりやすく示してくれた。

そして、収益レポートを分析し、顧客セグメントに関する洞察と、それを視覚的に表現したグラフの作成を依頼することで、顧客層の分析と、その分析結果をグラフで分かりやすく示してくれた。
さらに、アナリストエージェントが分析するために実行したPythonコードと、その実行結果を確認することも可能だ。

ナデラ氏は、「リサーチャーエージェント及びアナリストエージェントを活用することで、全ての社員が専門性を活用することができる。」と述べた。
通訳エージェント
最後に、日本マイクロソフト株式会社の代表取締役社長である津坂美樹氏より、マイクロソフト社内での翻訳に関する事例について紹介があった。
まず、津坂氏が英語でインタビューを受けている様子と、同じ内容が3カ国後で、かつ本人の声で話されるビデオが流れた。
これは、去年の秋に受けたインタビューを、Azuruのエンジニア二人が30分かけて翻訳したものだという。

そこから数ヶ月後、Teamsでのミーティング中にほぼリアルタイムに翻訳することに成功したのだと津坂氏は述べる。
デモの動画では、津坂氏と韓国語を話す女性、スペイン語を話す男性がTeamsでミーティングをしている。
そして、日本語で語りかける津坂氏に対し、韓国語やスペイン語で答える他の二人の声が、ほぼリアルタイムで日本語に翻訳されて音声となって流れた。

これは、Teamsの「インタープリターエージェント」という新しいファンクションで、現在社内でトライしているとのことだ。
津坂氏は、「このファンクションが実用化されれば、グローバルに展開する企業にとっては大きなインパクトとなる」と述べた。
無料メルマガ会員に登録しませんか?

現在、デジタルをビジネスに取り込むことで生まれる価値について研究中。IoTに関する様々な情報を取材し、皆様にお届けいたします。