もう一度、ヒトが天気予報をつくる時代へ
石橋: 「WxBeacon2」はまずコンシューマー向けにつくったのですが、精度がよく不具合も全くないので、7月から法人向けにも展開を始めました。工事現場の作業員の方に向けたソリューションです(※)。
現場の担当者は、夏は暑く、冬は寒いという過酷な状況の中、作業を行うことが多いです。私も以前に観測機の設置作業に立ち会った際、その過酷さを実感しました。ビルの屋外でしたが、太陽の光を遮るものが何もなく、休憩室もなかったのです。
現場の担当者は「WxBeacon2」を持っているだけで、危険な状況(たとえば熱中症が発生しやすいような場合)にはスマートフォンにアラームが自動で届きます。一方、オペレーションの担当は、現場の作業者がアラームを見たかどうかのチェックをすることもできます。
小泉: 天気予報、面白いです。これからどう変わっていきますか。
石橋: 天気予報の歴史を振り返ると、漁師さんや農家さんが空を見て、「今日は雨が降りそうだな。稲を刈るのをやめようかな」と判断していた「観天望気」の時代から、気象庁が観測したデータをマスメディアを通じて毎朝公開するという時代に変わっていきました。これは、天気を観測する主体が、ヒトから機械へと変わってきた歴史だと言えます。
そしていまはIoTの時代です。IoT時代には、もう一度ヒトへと戻ります。ただし、その際にはただ「空を見上げる」のではなく、IoTセンサーやAIなどのテクノロジーを利用することで、ヒト自身が自ら天気予報をつくるプロセスに入っていくのです。
ぼくらはモバイルが登場した時からずっとこの世界を思い描いて、愚直なまでにやり続けてきました。それがようやくいま、ビジネスとして実現するタイミングがきていると感じています。
小泉: ユーザーさんの強力なバックアップもありますしね。
石橋: そうですね。ただ、油断はできません。GoogleやAmazonがこの業界に入ってきたらどうするのかという話もあります。これは当然、ありうることです。天気のアルゴリズムはデジタルですから、ある意味コピー&ペーストが可能です。
ただ、ぼくは最終的に生き残る資産というのは、コミュニティやヒトとのつながりだと思っています。それはコピー&ペーストできるものではありません。そうしたつながりをうまく使いながら企業さんに観測機を置いてもらったり、そこで集めたデータをその企業さん向けのサービスに活かしたりといったことができます。
小泉: Googleに関しては、スマートフォンが勝手に気象情報を取ってくれるようになれば、脅威ですね。クルマの走行データから地図をつくるのと同じです。でも、天気ではそれが難しいような気はします。
石橋: まだ難しいでしょうね。とはいいながらも、Googleさんは競合でもありパートナーでもあります。Google検索で「天気」と打つと、現在地の天気が表示されますが、実はこれ、Googleさんが提供しているように見えて、「ウェザーニュース」と書いてあるんですね。
日本では当社がデータを提供しているのです。国によって法律が違うこともありますし、Googleさんとしても地元の企業と一緒にやっていくという方針があるのです。ですから、どちらかというと一緒に天気予報をよくしていくという方向にもっていきたいなとは思っています。

小泉: 最後に、未来に向けて展望をお聞かせください。
石橋: 2020年の東京が一つのチャンスだと考えています。天気情報でスポーツ選手をサポートするのはもちろんですが、日本に来た外国人の方にも、日本の精度の高い天気予報を体感してもらいたいんです。
「日本はトイレのウォシュレットがいいし、電車が時間通りくるのもすごいけど、天気予報もよくあたるな」と思ってもらいたいんですね。天気は必ず見ます。それこそ夏の時期はゲリラ雷雨もありますから。
小泉: 特に日本は天気が変わりやすい国ですからね。アメリカのロサンゼルスみたいに雨が全く降らない地域とは違います。
石橋: そうですね。これは持論ですが、シリコンバレーから天気予報のイノベーティブな企業が生まれないのは、雨が降らないからだとぼくは思います。問題としてとらえていないのです。
Uberの配車サービスは、地元のタクシーのサービスレベルが低いことを課題としてとらえたところから始まりました。そのように身近な問題を解決することで、世界規模になったというのがシリコンバレーのポイントです。
一方、日本は台風があり、地震があり、四季もあります。何なら梅雨もあります。そういう意味で、天気のイノベーションが生まれるベンチマークとしては最高の場所です。
小泉: 楽しみです。
石橋: 期待していてください。「天気」はこれからかなり変わると思いますよ。
本日はありがとうございました。

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・ウェザーニューズ(WEATHERNEWS)
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技術・科学系ライター。修士(応用化学)。石油メーカー勤務を経て、2017年よりライターとして活動。科学雑誌などにも寄稿している。