私たちの日常生活に欠かせない移動手段であるタクシー。しかし、近年、ドライバーの高齢化と人手不足、燃料費の高騰など、多様な課題に直面し、事業の持続可能性が問われています。
このような厳しい状況を乗り越え、地域に根ざしたサービスを安定して提供し続けるための一つの手段として、デジタル技術の活用があります。
本記事では、課題解決のヒントとなるよう、デジタル技術を活用して業務効率化やコスト削減、顧客満足度の向上に成功したタクシー事業者の具体的な事例をご紹介します。
キャッシュレス対応で新システムを導入し業務効率化に成功
1つ目は、運行情報やそれをもとにした売上、給与情報を一元的に管理することができるクラウドシステムを導入した荏原交通の事例です。
荏原交通での売上管理は、各タクシーメーターからGPS連動で走行距離、日時、運賃などの運行データを収集・集計し、専用システムに入力していました。
一方で、乗務員の給与計算には別の専用システムを使っており、運行情報と給与計算システムの連携がありませんでした。
給与は複雑な歩合給体系のため、運行情報システムで算出したデータを給与計算システムへ手入力し直す手間が発生していましたが、管理部門による人海戦術でかろうじて運用できていたそうです。
しかし、新型コロナウイルス感染症のパンデミック以降、キャッシュレス決済が急速に普及し、状況は一変しました。
クレジットカード、QRコード決済、タッチ決済など、多彩な支払い方法に対応する端末を導入した結果、売上の約6割がキャッシュレス決済になりました。
荏原交通は保有車両が多く、決済方法別に合計額を算出する作業は膨大な手間になります。さらに、決済システムの運営会社ごとに窓口や照会方法が異なるため、売上管理や確認の負担が急増してしまいました。
そこで、業務効率化を目的に、給与計算まで行えるクラウド型の運行情報管理システムを導入しました。
新システムの導入により、それまで紙ベースで行っていた乗務員と車両の稼働状況が、システム上でリアルタイムに可視化されるようになりました。
また、新システム導入と同時に車載タクシーメーターを入れ替えたことで、支払方法を全て記録できるようになり、支払方法別に合計額を算出する手間が減りました。
さらに、新システムを導入したことで、車両の点検や修理の際に代替車両を探して割り当てる作業も格段に容易になりました。
これにより、管理部門の従業員に時間的余裕が生まれたことで、各営業所での乗務員向け安全運転講習や接遇スキルの向上、車いす利用客の介助を学ぶ講習会などが開催できるようになり、サービス品質の向上に繋がっています。
他にも、新システムは毎日の運行データを分析し、スピードを出しすぎる傾向のある乗務員を割り出す機能も備えています。これにより、事故を未然に防ぐための個別指導が可能になり、安全運行体制の強化にも貢献しています。
加えて、運転免許証の更新時期や車検時期、ETCカードの期限など、厳密な日付管理が必要な項目をリマインド通知する機能も重宝されています。
この機能により、部署を横断して多くの従業員が通知内容を把握できるようになり、これまでの紙でのファイリングによる見落としや、担当者任せで直前になって調整に追われるといったリスクを低減し、ミスを大幅に減らすことができたそうです。
同一の配車システムを同業4社で導入し実車率を向上
2つ目は、複数の同業他社と共同で配車センターを集約し、同一の配車システムを導入することで実車率を向上させた双葉タクシーの事例です。
同社は、乗務員の高齢化やパンデミックによる収入低下などにより人手不足が深刻化しており、配車依頼の多くを断らなければならないことが課題でした。
しかし、新たな乗務員の人員確保も難しく、タクシーの実車率の向上やコストの削減に努めることが急務でした。
そこで双葉タクシーは、同一の配車システムを導入している同業4社と協力し、配車センターを集約することで、他社の空車車両も配車可能な体制を構築しました。
なお、複数社で配車センターを集約するにあたっては、同じ配車システムを導入するだけでなく、会社間で話し合いを行い、細かな運用ルールの調整などを地道に行ったそうです。
これにより、他社からの配車請負により実車率が向上し、同社も100件を超える配車依頼を他社へと取り継いだことで、利用者の配車依頼を断る割合は5%から3%に減少しました。
さらに、配車センターの集約にあたって、オペレーターの人員を10人から9人へと削減することができたほか、配車センターにかかる賃料などの経費も圧縮することができました。
勤怠・給与計算システム連携でバックオフィス業務を効率化
3つ目は、 勤怠管理システムと給与計算システムを連携させることで、勤怠管理と給与計算業務の効率化に成功した大平交通の事例です。
同社では、従来利用していた勤怠管理システムに課題を抱えていました。このシステムでは、1ヶ月分の勤務シフトを事前に登録することができなかったため、シフト変更の有無にかかわらず、毎日シフトと勤務実績を手動で入力する必要があり、日々の勤怠入力に大きな負荷がかかっていました。
さらに、シフト変更が発生した際には、紙のシフト表に手書きで修正していたため、情報が見にくく、勤務時間の計算ミスが生じやすい状態でした。
加えて、勤怠管理システムと給与計算システムが連携していないために、総務経理担当者が手作業で給与計算を行う必要があったため、給与計算業務全体の負担が大きくなっていました。
そこで同社は、1ヶ月分の勤務シフトをシステム上にあらかじめ登録して管理でき、かつ給与計算システムとも連携可能な勤怠管理システムを導入しました。
このシステムは、勤怠管理システムと給与計算システムの連携が可能で、勤務実績は自動で入力されるため、シフト変更があった場合のみの入力で済むようになりました。
加えて、シフト表をシステム上で管理・変更できるようになったことで、紙でのシフト変更作業が不要になりました。
これにより、手作業による給与計算が不要となり、総務経理担当者の月の給与計算業務にかかる時間が、10時間から3時間まで削減される見込みだそうです。
また、シフト表の確認・変更が全てシステム上で行えるようになったことで、シフト表が見やすくなり、時間計算のミスをなくすことができました。
配車アプリを業務効率化に活用
4つ目は、配車システムを導入することで、売上拡大と業務負担の軽減を実現した神戸相互タクシーの事例です。
日本国内のタクシー利用では、一部の都市部を除き、依然として「電話による配車注文」が多く、注文を受け付けるオペレーターの役割が非常に重要です。
迅速かつ正確に注文内容をドライバーに伝達し、効率的に車両を運行させることが、売上や利益に大きく影響します。
しかし、熟練したオペレーターであっても、その処理能力には限界があります。さらに、地方ではオペレーターとして働く人材の採用や育成が容易ではないという課題に直面していました。
このような状況下で、電話による配車注文が増加すれば、オペレーターの業務負荷が増大し、対応しきれない注文が発生するリスクがありました。
そこで神戸相互タクシーは、この課題を解決するため、自社専用の配車アプリをリリースし、既存の配車システムと連携させることで、窓口を分けることでの業務効率化を目指しました。
これにより、常連顧客からの注文は配車アプリで受け付け、オペレーターを介さずに自動で処理されるようにしました。
一方で、配車アプリの利用が難しい観光客などからの注文は、従来通り電話注文やタクシー乗り場からの乗車で対応するように、窓口を分類しました。
その結果、オペレーターが処理する必要のある配車注文件数が減少し、オペレーターがより多くの注文を効率的に処理できる体制が整いました。
オペレーターの処理能力が向上したことで、これまで対応しきれなかった注文を取りこぼすことなく受け付けられるようになり、結果として売上と利益の拡大に繋がっています。
さらに、オペレーターの業務負荷が軽減されたことで、限られた人材で効率的に業務を遂行できるようになり、人手不足の解消にも貢献していると言えるでしょう。
通信一体型多機能決済端末で顧客満足度とコスト削減を両立
5つ目は、多機能決済端末と通信サービスを導入し、バックオフィス業務の効率化とコスト削減を実現したナップルタクシーの事例です。
ナップルタクシーの従来の決済システムはクレジットカードのみの対応で、コード決済に対応するにはその都度別の端末やルーター、二次元コードを用意する必要がありました。
これは乗務員の負担となっており、操作性も十分ではありませんでした。
また、経理業務においても、多様な決済方法に対応するための会計処理は複雑化し、担当者への負担が増大していました。
さらに、高額な機器維持費用も経営上の課題となっていました。
そこで、買い切り型の多機能決済端末と低価格な通信サービスを、59台の車両に導入しました。
その結果、クレジットカード、電子マネー、コード決済などのキャッシュレス決済方法に対応することができ、乗客は自身の都合の良い方法でスムーズに支払いを済ませられるようになりました。
また、この端末は、Androidスマートフォンベースの直感的なインターフェースが採用されているため、初めて利用する乗務員でも簡単に扱うことができました。
さらにこの端末は通信機能が一体化されており、全ての決済においてルーターなどの外部機器を用意する必要なく行うことができ、乗務員の操作負担と業務効率が向上しました。
加えて、売上データがリアルタイムで表示され、管理画面で集計されるようになったことで、会計処理が完全にデジタル化されました。これにより、紙ベースの作業が不要となり、経理担当者の負担が軽減され、業務全体の効率化が進みました。
他にも、法人向けWeb管理ツールを活用することで、SIMの利用状況確認や請求書のダウンロードができるほか、SIMの再発行手続きもWebから迅速に行えるため、端末の盗難や紛失時にもタクシーサービス提供の中断を最小限に抑えることが可能になりました。
コスト面では、複数の決済機器や通信インフラにかかっていた費用を多機能決済端末と通信サービスに一元化したことで、機器の維持費や運用コストを以前の決済サービスと比較して、年間約96万円の削減に成功しました。
CTIシステム導入で少人数での電話対応を実現
6つ目は、電話とコンピューターシステムを連携させ、インターネットで通話することができる「CTIシステム」を活用することで、電話の応対と配車業務の効率化に成功したさくらサポートの事例です。
さくらサポートは、高齢者の近距離送迎に特化したタクシー会社です。所有するタクシーは7台で、ベテラン運転手が病院やスーパーマーケットに出かける地域の高齢者の移動を支えています。
開業から3年が経過し、依頼の電話が頻繁に入るようになったことで、効率的な電話応対と配車業務が課題となりました。
特に、利用者が乗車中や降車時に運転手から入る報告にも対応しながら、ひっきりなしにかかってくる依頼電話を少人数で処理することに限界を感じていました。
そこでさくらサポートは、この課題を解決するためにCTIシステムを導入しました。
CTIシステムは、かかってきた電話番号をパソコンの画面に表示し、着信時間と共に自動的に記録する機能を備えています。
CTIシステムにより、利用者からの電話の応対と配車業務が格段にスムーズになりました。
タクシーの依頼は1日50件から60件寄せられ、特に正午前後2〜3時間に依頼が集中するような忙しい時間帯でも、少人数で顧客に迷惑をかけることなく業務をこなせるようになりました。
また、CTIシステムには、あらかじめ氏名と電話番号を登録しておくと、電話がかかってきた時点で氏名を表示する機能があります。
現在、約1,580人が加入するさくらサポートの会員については、電話番号、氏名、住所がCTIに登録されています。
これにより、電話着信と同時に相手が誰なのかをすぐに把握でき、名前と共に感謝の言葉を伝えることができるとともに、利用者は自宅の住所などの説明をする必要もないため、短時間で電話を済ませることができます。
さらに、CTIシステムは顧客管理にも活用されており、電話番号と着信時間が自動的に記録されるため、依頼を受けた時間の確認や利用頻度を把握する上で役立っています。
これにより、利用状況の分析やサービス改善に繋げることが可能です。
なお、CTI用のパソコンは定期的に更新をしており、2022年7月の更新では、処理速度がスピードアップしました。
また、利用者からのニーズが高いクレジットカード払いやキャッシュレス決済への対応も行い、利便性を高めています。
まとめ
本記事では、業務効率化やコスト削減、顧客満足度の向上に成功した6つの事例を紹介しました。
これらの事例は、タクシー事業者が単にデジタル機器を導入するだけでなく、自社の課題や顧客のニーズに合わせて戦略的にデジタル技術を選定し、従業員を巻き込みながら運用を最適化していくことが、持続可能な事業運営と競争力強化の鍵であることを示しています。
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