未来の技術がちりばめられた体験型VRコンテンツ
ワントゥーテン 松重宏和氏(以下、松重): 初めに山下さんからコンセプトをもらい、それをVRを通じてどうわかりやすく伝えるか、どうしたらそれぞれのヒトがもつ思い思いの「移動」を体験できるかを一緒に考えていきました。
小泉: VRコンテンツをつくるというだけではなく、デンソーさんが描く未来の移動とはどういうものなのか、一緒に考えていったというイメージでしょうか。
松重: そうです。実際には、さきほど山下さんが言っていたように、ただ移動するのではなく、移動によって可能になる未知の感覚や経験を引き出すための工夫を一緒に考え、VRコンテンツに反映させていきました。
たとえば、同じA地点に行くにしても、B地点を経由するよりC地点を経由する方が、自分が求めているものがあるかもしれない。そうした寄り道のリコメンドが、クルマとヒトが自然に対話しながらできる世界が提案されています。

山下: 初めにクルマが走り出すシーンでは、何気ない会話で目的地を決めています。実は、これは技術的にかなり難しいことをしているんです。
なぜなら、誰も場所に言及していないからです。みんな、「いい景色が見たい」、「おいしいご飯が食べたい」というように、場所ではなく「やりたいこと」を口にしているだけです。それでも、ルートが決まっていく。そうした未来のドライブのあり方のようなものを提案しています。
小泉: 他には、どのようなしかけがあったのでしょうか?
山下: 「ウィンドシールドディスプレイ」という技術を使い、外の情報と連動して、窓に様々な景色を投影するというアイデアです。
たとえば、昼に何気なく見た空の景色でも、実は夜に見ると美しい星空が広がっているかもしれません。それであれば、「もう一度夜にここにきてみよう」と思えます。窓の表示系の技術をうまく使えば、そうした新しい体験を提供できると考えています。

松重: 過去に家族が通った時の「思い出」を窓に映し出すということも提案しています。過去、現在、未来をまたがって、様々な景色を窓に投影することで、ヒトの感情を引き出し、好奇心をかきたてるという狙いがあります。
小泉: なるほど。
山下: ほかにも「ドライバーステータスモニター」という、ドライバーの状態を検知する技術も重要です。「人を見る」という技術の延長には、「クルマの中には何人の乗員がいて、そのうち子供が何人で、今日はおばあちゃんもいるようだ」という車内の情報をクルマが認識し、体験をアレンジしてくれる未来を想像しました。
そうした技術の先にある新しい出来事を想像し、このVRコンテンツをつくっています。
松重: また、そうした未来の移動を体感できるよう、CES2019で出展したコックピットには様々な工夫をこらしています。車内のシートは振動しますし、菜の花畑を通るシーンでは、菜の花の香りが発生するしかけもあります。味覚以外の五感(視覚・聴覚・嗅覚・触覚)をすべて網羅し、没入できるようにつくりこんでいます。

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技術・科学系ライター。修士(応用化学)。石油メーカー勤務を経て、2017年よりライターとして活動。科学雑誌などにも寄稿している。