新型コロナウイルス感染症の流行等、製造業のリスクは複合的になってきており、製造業企業は複合的なリスクに対応する必要が出てきている。
パトライト株式会社は、生産現場や緊急車両等の表示灯や回転灯を製造販売している企業だ。本稿では、パトライトの業務標準化やサプライチェーンマネジメントへの取り組みについてお話を伺った。(聞き手:IoTNEWS 小畑俊介)
システムにあわせて業務を標準化
元々、パトライトでは、生産計画や購買計画を紐付けた状態で販売計画を立て、その販売計画ありきで業務のすべてを進めてきたという。
しかし、実際の運用が計画通りに進むことは殆どなかったそうだ。納期調整や現場の細かい調整を行おうと思っていても、生産計画や購買計画と完全に紐付いている販売計画の場合、対応が難しかったという。具体的には、在庫が目の前にあっても、計画と違うものは安易に使えないという事が起きる。
パトライトは、経営方針の変更に合わせて、柔軟な対応が出来るような状態に変化していく必要があると考えたという。顧客からの要望があり、出荷を行い売上を上げていくというビジネスモデルの場合、計画よりも顧客の要望に対して柔軟な対応が出来る方が良いということだ。
そこで、パトライトはビジネスエンジニアリングが提供している「MCFrame XA」を2014年に導入した。「MCFrame XA」は、グローバル対応しているERPとSCMのためのパッケージだ。MCFrame XAの導入により、販売計画を営業から情報として収集し、過去の生産実績や販売実績から予測在庫で運用する方法に切り替えたという。
システムを導入するに当たり、パトライトでは、業務にシステムをカスタマイズして合わせ込むのではなく、システムに業務を合わせる形で業務を整理し、業務の標準化を行ったという。それは、システムの安定化や業務標準化、導入期間短縮という狙いがあったからだ。
以前のシステムでは、管理するデータや情報はすべてシステムに入れようとしていたが、イレギュラーが多く管理しきれないという問題が起きていた。システムの入れ替えのタイミングで、標準以外の情報はEXCELや紙ベースで管理するようにしたという。管理するものは増えたが、結果として業務の流れはスムーズになったそうだ。
また、カスタマイズをせずにシステムを導入したため、すべての業務を完全に1つのシステムでカバーできている訳ではない。個別に対応する必要がある業務については別のシステムで対応し、結果としてのデータをシステムに返してくることで、中枢の管理を行っているそうだ。
MCFrame XAを導入することで、業務の標準化だけでなく、下記のような効果も出たという。
製品の価格体系や帳票の刷新
これまでの製品の価格体系や帳票もシステム導入にあわせて刷新したという。
これまでは、顧客とのやり取りの中で、品目ごとの値段を見積書に書き、値段を決定していたが、MCFrame XAの標準機能では、そのような管理はできない。それぞれの値段をシステムに登録していく必要があるため、データが膨大になってしまう。
そのため、単価と仕切り率という単純な計算によって値段を決定するようにしたという。
また、帳票についても各顧客の要望を細かく聞いていたため、帳票の種類が非常に多い状態になっていたが、システムの基準となる帳票1つに絞って対応することにした。
もちろん顧客から反応があったというが、「パトライトとしてこう変える」ということをしっかり顧客に説明し、社内の効率を上げる変革を実行してきたそうだ。
原価計算の精度向上
また、原価の計算についても、計算ロジックの見直しを行い、実際原価と標準原価を導入したことで、原価差異分析や製品個別の製造原価がより明確になり、原価管理の精度が向上した。
経営統合に伴うシステム統合

パトライトは、2017年10月に春日電機株式会社と経営統合した。経営統合以前は、それぞれの会社が基幹システムを運営しており、経営統合したことで、維持管理コストが二重で必要だったり、業務プロセスや各種KPIが二重で存在していたりしたという。
経営統合時点では旧春日電機の組織は業務ごとにいくつかのシステムを使用していたが、パトライトが使用しているMCFrame XAと周辺システムに統合した。
システム統合についても、パトライトの基幹システム入れ替えの際と同様に、基本的にはシステムに対して業務を合わせる形で実施したそうだ。独自業務や基幹システムのパッケージに合わない業務は廃止するか外部システムで対応する対応を取ったという。
業務の流れが全く異なる文化の企業が1つになるということで、よりシンプルになるように業務内容やフローの見直しを実施した。パトライトと春日電機の良いところ取りをして、工場別、販売会社別だった運用をひとつに合わせこんでいったそうだ。
海外販売会社と連携し納期短縮を実現
パトライトでは、1989年にアメリカへ販売会社を設立してからこれまで海外9拠点へ展開し、それに伴い海外売上比率も増加している。そのため、現在は、海外拠点も含めた納期対応に力を入れているという。
ビジネスエンジニアリングが提供しているグローバルERP「mcframe GA」を海外拠点標準ERPとして2014年に採用したのもそのような背景からだ。 mcframe GAを複数拠点に展開することで、商習慣や税制の違いがある各国の運用を行いながら、本社からは拠点別の在庫や販売データを見ることができているという。
現状は、海外の子会社は別会社の扱いのため、在庫管理に関して子会社が本社と連携し、自社の在庫や受注状況を確認した上で日本の本社に対して発注を出し、本社がその発注を受けてから工場がものづくりに着手しているという形を取っているそうだ。
その間にはタイムラグが2〜3週間生じてしまっていて、パトライトとしてもそこに課題を感じている。元々は海外の売上比率も少なかったため、手作業での対応が可能だったが、子会社の数が増えたり海外での売上が増えたりしたことで、対応が難しくなってきたそうだ。
今後は、海外子会社と日本の受注状況や在庫状況を加味した上で、今本当に工場が作らなければならないものは何かということがわかるようにしていきたいという。今後更に海外での売上を上げていくためには、特に顧客に対しての納期、デリバリー力で競合に対抗していくそうだ。
そのためには、パトライトのグループ全体として今月何がどのくらい売れたのかということも含めて分析をしていきたいとした。
また、現状の製造業が抱える複合的なリスクが存在する中で、工場で生産する数量は限られてしまっている。その中で、国内外の案件が重なって受注があった場合、国内営業と海外営業の部門で、どの受注を優先するかを都度相談しているような状態だという。こうしたケースにおいても、国内外の受注状況や在庫状況が可視化できれば、最適な対応が可能になるだろう。
理想は、海外の子会社が発注したデータがリアルタイムに本社の受注データに取り込まれ、そのまま工場に対して発注のオーダーが送られるシームレスな仕組みが出来ることだ。ものづくり以外にかかるロスをなるべく短縮していく必要がある。
しかし、現状は、海外の子会社と日本の本社で導入しているシステムが異なっていたり、各国の法律や帳票の違いによる運用の違いがあったりして、完全に統一することはできず、うまく連携ができていないという。
今後は、すでに海外9拠点で導入が完了しているmcframe GAのデータを活用し、海外の子会社と日本の本社、工場を更に連携させることで、納期短縮を実現していきたいとした。
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大学卒業後、メーカーに勤務。生産技術職として新規ラインの立ち上げや、工場内のカイゼン業務に携わる。2019年7月に入社し、製造業を中心としたIoTの可能性について探求中。