製造業のアフターサービスにおいて、データ活用で業務効率化や新たな収益化に成功した事例3選

製造業におけるアフターサービスとは、製品を納品した後、問い合わせへの対応や、修理・交換、消耗品や部品の供給などを行うサポート業務全般を指します。

「製品に故障が起きた際、緊急でサービス担当者を派遣し、修理を行う。」

「顧客からの問い合わせに対応し、部品を供給する。」

これらはすべて、製品を販売した後に発生する、避けられないコストと捉えられているのが一般的です。

しかし、この事後対応型のサービスモデルには、メーカーと顧客の双方に大きな負担がかかっていました。

メーカー側は、突発的な故障に備えるため、常に人員や部品在庫を確保しておく必要があり、コストが増大します。また、サービス担当者の移動や残業もコスト増の一因となります。

一方顧客側は、機器が故障することによる生産ラインの停止や、ビジネス機会の損失リスクに直面します。緊急の修理対応を待つ間、顧客は不便と不安を抱えることになります。

このように、従来のアフターサービスは、コストと手間がかかる割に、会社全体の利益に直接貢献するわけではなく、支出の対象として見られがちでした。

そこで今回は、製品から得られる「データ」を活用することで、アフターサービスのコスト削減や業務の効率化、さらには新たな収益源へと転換させた事例を紹介します。

予知保全でコストを削減し、稼働率を向上

タイヤメーカーのブリヂストンは、運送業界向けにタイヤのアフターサービスを提供し、新たな収益源を得ることに成功しました。

運送業界では、ドライバーがタイヤの空気圧や溝の深さといった日々の点検を行っていますが、ドライバー不足や業務負担の増加により、点検業務が十分に行き届かないケースが増えていました。

不適切な点検は、パンクやバースト(破裂)などの重大な事故につながるリスクを高めるだけでなく、路面との摩擦が増加し、燃費の悪化にも繋がっていました。

また、従来の点検方法は熟練者の勘に頼る部分が多く、客観的な管理が難しいという課題もありました。

そこでブリヂストンは、タイヤの内面にセンサーを埋め込んだシステム「Tirematics(タイアマティックス)」を開発しました。

このシステムは、タイヤの空気圧や温度といったデータを高頻度でリアルタイムに収集し、異常があれば運行管理者のPCやスマートフォンに通知するサービスです。

これにより、ブリヂストンはタイヤを売るだけでなく、「タイヤを安全に使い続けるサービス」として提供するビジネスモデルを確立。月額課金のサービスとして提供することで、安定した収益源を確保しました。

また、データを基にタイヤの状態を正確に把握できるため、最も効率的なタイミングでの交換やメンテナンスを提案できるようになりました。これにより、無駄な交換作業や過剰な在庫を削減できます。

さらに、デジタコ経由で車両の位置情報も取得できるため、万が一のタイヤトラブルでも、ロードサービスが迅速に駆けつけられる体制を構築しました。これにより、復旧までの時間を短縮し、顧客の安心感と満足度を高めました。

運送会社にとっても、タイヤの異常を事前に察知し、トラブルを未然に防ぐことで、安全運行に貢献するほか、突然の運行停止による損害賠償や評判を落としてしまうリスクを低減することができます。

また、タイヤを適切な状態を維持することで、燃費の改善につながり経費削減に寄与するほか、CO2排出量を抑え、環境負荷低減にも貢献できます。

このようにブリヂストンは、データを活用することで「タイヤ」という製品から、「安全性と業務効率」という価値を生み出すサービスへと転換し、アフターサービスを収益源とする新しいビジネスモデルを確立させました。

消耗品の在庫管理を効率化し新たな収益源を確保

富士フイルムビジネスイノベーションは、複合機に通信機能を搭載した「EP-BBサービス」を通じて、顧客のオフィス環境に合わせた最適なサービスを提供し、新たな価値を生み出しています。

従来の複合機ビジネスは、本体の販売に加え、消耗品(トナーなど)の都度購入が主流でした。

顧客は消耗品の在庫を自分で管理する必要があり、急な在庫切れが発生すると業務が滞るリスクを抱えていました。

また、富士フイルムビジネスイノベーション側も、顧客からの電話連絡を受けてから消耗品を発送するため、対応に手間と時間がかかっていました。

そこで富士フイルムビジネスイノベーションは、複合機をインターネットに接続し、稼働状況や消耗品の残量データを常時収集するシステムを構築しました。

これにより、複合機の利用状況に応じたカウンター料金の自動集計や、日々の状態監視と故障時の自動通知などをサービスとして提供することができ、新たに継続的な収益源を確保することに成功しました。

また、消耗品の残量を遠隔で把握できるため、在庫がなくなる前に自動的に配送手配を行うことが可能になりました。これにより、顧客からの電話対応などの手間が減り、業務効率の向上が見込めます。

さらに、遠隔での機器診断が可能になり、故障の予兆を事前に検知できるため、サービス担当者の訪問回数を減らすことができるでしょう。

複合機を活用する顧客側としても、トナーや用紙の在庫を管理する手間が不要になり、コア業務に集中できるようになります。

加えて富士フイルムビジネスイノベーションは、複合機の利用状況を可視化するサービスも別途提供することで、さらなる収益源を得ています。

顧客にとっても、この可視化サービスを活用することで、コピー枚数やプリント枚数、モノクロ・カラーの内訳、両面印刷の使用率などを、表やグラフで確認でき、複合機の使い方を見直して無駄を削減するきっかけが生まれます。

この事例は、製品のデータを活用して機器の管理や消耗品の在庫管理の手間を解決するアフターサービスにより、自社と顧客双方にメリットを生み出しています。

リモートメンテナンスでコスト削減と顧客満足度向上を両立

掘削装置メーカーのQmatecは、遠隔地にある機械のメンテナンスという地理的な課題に直面していました。

Qmatecの掘削機械は、ノルウェー国内だけでなく、遠く離れたグリーンランドでも稼働していました。

たとえノルウェー国内だけであったとしても、サービス部門は約2,500 kmにわたる地域をカバーしなければならず、険しい地形が多いノルウェーでは、サービス担当者が現地に赴いてメンテナンスを行うことは、時間もコストもかかり負担となっていました。

また、機械に予期せぬトラブルが発生した場合、修理のためにサービス担当者が現地に到着するまでに時間がかかり、顧客のプロジェクトに遅延が生じるリスクを抱えていました。

そこでQmatecは、IoTプラットフォームを活用し、リモートでの診断・メンテナンスを可能にするテレマティクスソリューションを構築しました。

このソリューションでは、機械の油圧、油温、圧力ピーク、充填レベルなどの詳細な稼働データを常に収集し、機械の内部状態をリアルタイムで把握しています。

収集したデータが特定のしきい値を超えた場合には、自動でアラームやメッセージが起動してサービス担当者に異常を通知するようにしています。

このように、客観的なデータを一元管理するによって、Qmatecのサービス部門は熟練者の勘に頼ることなく、迅速かつ正確なメンテナンス対応が可能になります。

加えて、このソリューションには、無線通信を利用してファームウェアを更新する「OTA(Over-the-Air)」サービスも含まれており、サービススタッフが現地にいなくても、遠隔でソフトウェアのアップデートやパラメータの調整が可能になり、出張旅費や現地での作業にかかる時間を削減することができます。

また、機械のデータを遠隔で監視できるため、トラブル発生時にすぐに原因を特定し、迅速な解決策を提案することができます。これにより、現地で数日かかっていた作業が、遠隔操作で解決できるケースが増えました。

さらに、収集したデータを活用してコンポーネントの耐用年数を予測すれば、メンテナンスやスペアパーツのコストを最適化する「予知保全」も実現できるでしょう。

顧客側としては、遠隔での迅速な対応によって、機械の停止時間を最小限に抑えることができます。

また、顧客向けのポータルサイトにより機械の稼働時間や燃料消費量などのデータを把握することができ、顧客自身で効率的な運用ができるようになるという価値も享受できます。

この事例は、IoTプラットフォームを導入することで、地理的な課題を乗り越え、メーカーのコスト削減や業務効率と、顧客満足度を同時に高めることができる好例と言えるでしょう。

まとめ

今回ご紹介した3つの事例は、アフターサービスが「故障した時だけに対応するコスト」ではなく、顧客の満足度を高めながら、業務を効率化したり新たな収益を生み出したりする、戦略的なサービスへと変化していることを示しています。

これらの事例に共通しているのは、メーカーが「製品」を納品して終わりではなく、その後の「製品の稼働状況」や「顧客の利用状況」というデータを活用して、新たな価値を創造している点です。

つまり、アフターサービスは製品の競争力を左右する重要な要素であると言えるでしょう。

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