株式会社インテージヘルスケアは、国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学と進めていたAI創薬による胃酸抑制剤の共同研究において、成果となる論文が発表されたことを発表した。
共同研究では、国立大学法人東海国立大学機構名古屋大学細胞生理学研究センターの阿部一啓准教授による「構造生物学」、同大学院創薬科学研究科の横島聡教授の「有機化学」、インテージヘルスケアおよび理論創薬研究所の吉森篤史博士らによる「AI」の技術を活用し、胃酸抑制剤の新規候補化合物の創生に成功した。
胃酸抑制剤は、胃潰瘍や逆流性食道炎の治療薬、ピロリ菌除菌の併用薬などとして用いられている。研究グループは、胃酸抑制剤のドラッグターゲット(薬が結合する体内の標的)である「胃プロトンポンプ(胃酸をつくるタンパク質)」の立体構造に基づき、インテージヘルスケアなどの持つAI創薬プラットフォーム「Deep Quartet(ディープカルテット)」(※1)を用いて、新たな薬剤候補化合物をデザインした。
それらを化学合成(※2)し、プロトンポンプに結合した構造をクライオ電子顕微鏡(※3)によって解析。化合物が結合するしくみを調べ、最終的に、いくつかの既存薬を上回る胃酸抑制剤候補化合物の創生に成功した。
胃プロトンポンプの構造に基づいた候補化合物の創生は、新たな胃酸抑制剤の開発に繋がる可能性があり、研究によって示された、タンパク質の構造と人工知能を活用した化学骨格を生成する新たな枠組みは、他のドラッグターゲットに対する新規薬剤開発への応用が期待されている。
なお、この研究成果は、2023年9月19日付オンライン科学雑誌「Communications Biology」に掲載されている。
国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学細胞生理学研究センター 阿部一啓准教授は、「AIがデザインした化合物を、構造解析によって「人の手で」さらに改良できたときは、まだまだAIには負けないぜ!というちょっとした嬉しさもありました(笑)。今回の仕事は人間がAIをどういう風に利用するかという良い例になったと思っています。
構造生物学者の中には、実際に薬剤結合構造を解析したけれど、どうやって新規化合物をデザインするか悩んでいる方も多いと思います。この枠組みは、他の構造既知のターゲットにも応用できると感じています。」と述べている。
また、株式会社理論創薬研究所 代表取締役 吉森 篤史(博士)氏は、「生成AI技術とSBDDを組み合わせることで、効率的にリード化合物のデザインができることを確認することができました。今後も、最先端の生成AI技術とこれまでに蓄積されたin silico創薬技術を活用することで、さらなる創薬の効率化に挑戦したいと考えています。」と述べている。
※1 Deep Quartet(ディープカルテット):株式会社インテージヘルスケアと株式会社理論創薬研究所、株式会社アフィニティサイエンスが3社連携で開発・提供するAI 創薬プラットフォーム。「Deep Quartet」は、深層強化学習の技術である「Deep reinforcement learning、ファーマコフォアモデルを用いるソフトウェア」「LigandScout、網羅的なターゲット予測を可能とする機械学習ベースの技術」「CzeekS」を組み合わせた一連のフローであり、ここに「メディシナルケミスト(有機合成化学者)」の知見を加えることで、Quartet(四重奏)によるAI創薬プラットフォームを実現している。
※2 化学合成:化学反応を用いて目的とする分子をつくること。本研究では目的とする分子の基本骨格が炭素で構成されている有機化合物であり、有機反応を用いて分子を構築している。
※3 クライオ電子顕微鏡:細胞や生体分子を無固定・無染色の状態で観察する手法のことであり、タンパク質などの分子構造解析を結晶化せずに行うことができる。
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