2024年4月より、自動車運転者に対する「働き方改革関連法」の適用や「改善基準告示」の改正が行われ、輸送能力の減退や物流業者の利益減少などの課題が危惧されている。
この「物流の2024年問題」は、課題を顕著に表す言葉だが、これまでにも物流の課題は指摘されていた。
それでもなかなか効率化が進まなかった理由のひとつには、誰がリーダーシップを取り、誰がどれだけその費用負担をするかが決められないことが挙げられるだろう。
以前紹介した物流効率化へ向けた改善事例においても、荷主と運送事業者が共に課題の洗い出しや結果の振り返りを行っていることが、成果につながっていると感じた。
以前の記事はこちら:物流2024年問題解決へ向けた、改善事例4選
「物流効率化に向けた先進的な実証事業」の概要
こうした中、経済産業省は、令和5年度補正「物流効率化に向けた先進的な実証事業(荷主企業における物流効率化に向けた先進的な実証事業)」の公募を開始している。
この実証事業は、荷主事業者や物流事業者に対し、物流施設の自動化や機械化に対する機器やシステムの導入などにかかる費用を補助するものだ。
国の制度として導入費用の補助が受けられるため、これをうまく活用して、荷主と運送事業者が共に課題解決へと向かうきっかけになるのではないだろうか。
そこで今回は、この「物流効率化に向けた先進的な実証事業」の概要と、補助の対象となるITツールを紹介する。
なお、この実証事業は現在第二次公募が開始されており、2024年5月20日17時まで実施している。
以下、簡単に実証事業の概要を説明するが、詳細は経済産業省のHPを参照してほしい。
対象
対象は、中堅中小企業の荷主企業で、3PLなども含まれる。
なお、荷主事業者の定義としては、貨物自動車運送事業者との間で運送契約を締結して貨物の運送を委託する者、貨物自動車運送事業者が運送契約に基づき運送する貨物を当該貨物自動車運送事業者に受渡しを行う者、及び受渡しを行わせる者を指す。(ただし、貨物自動車運送事業を専業で行う者、倉庫業を専業で行う者を除く。)
利用する物流事業者側は、1時間または所属業界団体の目標時間の荷待ち・荷役時間の削減を達成するか、積載率を1%以上の向上または所属団体の目標率の達成を目指すことが条件となっている。
また、輸送ルートの見直し、共同輸配送の実施など、定量的な目標を設定することも任意の取り組みとして挙げられている。
物流施設側は、従業員の補助事業に関わる総労働時間について、設備投資により、機器・システム等の導入前と比較して3%以上削減することが条件だ。
補助率
補助率は、中小企業が補助対象経費の2/3以内、中堅企業が1/2以内となっている。補助上限額は、中小企業が1億円で、中堅企業が5億円、投資下限要件は、中小企業が300万円以上で、中堅企業が5,000万円以上だ。
なお、下部で説明するコンソーシアム形成を行うことで、この投資下限要件はさらに満たしやすくなる。
補助対象経費
補助対象経費の具体例は以下の通りだ。
- 機械装置・システム費
- 技術導入費
- 専門家経費
- 運搬費
- クラウドサービス利用費
- 外注費
- その他諸経費
これには、マテハン機器や物流資材などのハード面の設備投資や、システム開発や導入などのソフト面の投資、専門家へのコンサル費用なども補助対象となっており、適宜必要なものを選ぶことができる。
コンソーシアム形成
この実証事業の特筆すべき点は、このコンソーシアム形成にある。
これは、補助を受けるにあたり、補助事業を実施するものとして、連携体(コンソーシアム)を構成して共同申請することが可能な制度だ。
大企業は補助対象にならないが、コンソーシアム形成に参画することができ、上記で述べた「300万円以上」「5,000万円以上」という投資下限要件に関して、大企業分の投資金額も含めることができる。
つまり、これまで自動化や効率化を実施したくても、中堅中小企業が資金不足のために必然的にツールを導入できなかった大企業が旗を上げ、補助金をうまく活用しながら共に取り組みを進めることができる形になっている。
導入例
機器導入例としては、「入出荷関連」「保管関連」「運搬関連」「仕分け関連」に分かれて紹介されている。

また、システムの導入例としては、バース予約システム、倉庫管理システム、伝票電子化・物流EDI、AIカメラ・システム、RFID等自動検品システムが挙げられている。
補助対象となるシステムの概要
次に、今回挙げられていたシステムの概要と、各システムのサービス例を紹介する。なお、今回紹介したシステムやサービスは一例であるため、自社やコンソーシアムに必要なシステムを選択することが重要だ。
バース予約システム
荷積みや荷降ろしを行う荷捌き場(以下、バース)は、物流拠点によっては入構してくるトラックと比較して数が少なかったり、特定の時間に入構するトラックが多いと混雑したりといったことがあるだろう。受付順での荷捌きとなると、順番待ちによる渋滞で荷待ちが発生してしまう。
事前に電話やFAXで予約する方式をとっている物流拠点もあるが、入構時に書類提出する手間や、急遽予定が変更された際に臨機応変に対応し、情報を共有することは難しい。
そこで、スマートフォンやタブレット、PCなどを活用して、バースを予約することができるシステムが、バース予約システムだ。
トラアポ

エル・スリー・ソリューション株式会社の貨物積み下ろし予約受付システム。翌日以降の予約可能な「時刻と台数」の予約枠を作成することができる。
物流拠点によって異なる設備・荷役形態・入庫する車種・作業の標準時間などに合わせ、予約枠作成が10分単位で可能な点が特徴だ。
ドライバーは、スマートフォンの専用アプリからユーザ登録し、倉庫と日時、作業区分を選ぶことで作業予約することができる。予約完了時に受付時に使用するQRコードが発行され、倉庫に到着したら、設置されている専用の端末にQRコードをかざすことで受付が完了する。
また、受付から作業完了までの所要時間を出力できるため、過去の実績データを「日別時間別統計」「月別日別統計」として出力することが可能だ。
TruckBerth

シーオス株式会社の、クラウド型のバース予約システム。専用機器が不要で、発行されたIDで予約管理画面にログインすることで予約受付を開始することができる。
予約の方法は要望に応じてカスタマイズが可能。例えば、ドライバーはアプリからバース予約ができ、倉庫側は予約の確認・承認をするというシンプルな予約方法や、倉庫側が入力されたトラックの荷量・荷姿などの情報を確認し、倉庫の状況に応じて受け入れスケジュールを組んでいくスタイルなど、シチュエーションに合わせたカスタマイズができる点が特徴だ。
TruckCALL

株式会社BRAVELOGISの、LINEや電話・SMSを活用してトラックを呼び出すバース管理システム。ドライバーがアプリのインストールやログインが不要なのが特徴だ。
物流拠点川の管理画面では、積荷タイプや車格を把握し、バースに合わせて次のトラックを呼び出す。また、ドライバーが並んでからの経過時間や呼び出してからの経過時間も把握することができ、ドライバーの待ち時間の管理も行える。
倉庫管理システム
倉庫管理システムは、「Warehouse Management System」の略称として、「WMS」とも呼ばれている。倉庫への貨物、資材、商品の入出庫管理や、在庫管理などの機能を搭載したシステムだ。
倉庫管理システムを活用することで、スムーズな入出荷作業を支援し、荷待ち時間の短縮が期待できる。
ONEsLOGI/WMS Cloudサービス

ロジスティードソリューションズ株式会社の物流ソリューションサービス。倉庫管理システムを、パッケージやクラウドサービスで提供している。
入出荷・在庫管理からの棚卸業務まで対応しており、通販物流対応として、名寄せ・同梱機能、誤配送防止機能を標準装備している。
AirLogi

株式会社コマースロボティクスのクラウド型倉庫管理システムだ。導入支援サービスとカスタマイズ対応を特徴としている。
独自開発しているオーダーマネジメントシステムとAPI連携できるため、入出荷情報などを自動で記録することができる。
LADOCsuite/WMS

東芝デジタルソリューションズ 株式会社の倉庫管理ソリューションだ。庫内業務の見える化や分析・シミュレーション、最適化を行う。
また、出荷バース最適化機能を同社の「LADOCsuite/WMS」と合わせて活用することで、当日の出荷要件に応じて、どの車両が、いつ、どのバースを、どのような順番で回るかといった計画を立てることができる。
さらに、ウイングアーク1st株式会社が提供するオンライン配車・運行管理プラットフォーム「IKZO Online」とデータ連携することができ、荷主と運送会社の間で配車・運行管理・連絡業務を共有することが可能だ。
伝票電子化・物流EDI
伝票電子化は、配送伝票をはじめとする各種のビジネス文書をデジタル化し、企業間の受発注や帳票のやりとりなどをオンラインで行うものだ。その際、物流EDIという標準の規格を活用する。
物流EDIは、異なる組織の間で受発注、在庫管理、請求書処理などのやりとりするために、通信プロトコルやフォーマットを標準化して、通信できるようにしている仕組みだ。
EDIには個別EDIと標準EDIがあり、個別EDIは取引先ごとにルールを策定する方法で、個別EDIを構築するためのサービスも提供されている。
一方標準EDIは、業界全体や特定の地域で共通のルールや規格を定義するものだ。
標準EDIは公開されているため、自社でEDIシステムを構築することもできるが、EDIの送受信やデータの変換を行うためには、ソフトウェア開発やデータマッピング、異なるフォーマットへの変換などの作業が必要となる。そのため、これらの作業を行うEDIサービスを提供している企業もある。
スマクラ

SCSK株式会社が提供する、全業界向けのクラウド型統合EDIサービス。基幹システムと販売先、仕入先、物流・工場、金融機関との各種データ接続機能を提供する。
取引先とのやりとりを、ユーザインターフェースを含めスマクラで電子化し、手動による作業をなくすことができる。
スマクラを導入する際には、SCSKとともに方針策定や確認、承認を行い、その後SCSKが要件定義・設計・マッピング・取引先テストに対応する形だ。
REDISuite/EDIセンターサービス

株式会社日立システムズが提供する企業間データ交換サービス。移行から運用までの期間、ベンダーが取引先からの問い合わせに対応してくれるサポートがあるのが特徴だ。
また、EDI業務に加え、紙媒体はAI-OCRでデータ化し、基幹システムなどへ連携するなど、その周辺業務も含めてオンライン化するサービスも提供している。
NI+C EDIシリーズ

日本情報通信株式会社のEDIサービス。EDIシステムの設計・構築・運用に加え、EDIデータを長期間保存することが出来るストレージサービスや、社内外の様々なシステムとのAPI連携するデータインテグレーションプラットフォームサービスなど、様々な種類のEDIサービスを展開している。
AIカメラ・システム
AIカメラやシステムとは、特定の文字や動きなどを画像や映像で認識し、記録や通知などができるものだ。
物流における利用例のひとつとしては、トラックナンバープレートを読み込むことでの車両管理が挙げられる。関係者のトラックナンバーをシステムに事前に登録しておけば、物流拠点に設置されたAIカメラがナンバープレートの解析を行い、自動で入退場データを取得することができる。
これにより、先に紹介したバース予約システムの受付部分をさらに簡略化することができる。
他にも、ドライバーの危険運転を検知したり、商品情報の自動認識や判別を行なったりと、活用次第で様々な効率化を行うことができる。
AITRIOS

ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社のエッジAIセンシングプラットフォームだ。ソニーのインテリジェントビジョンセンサ「IMX500」を搭載したエッジAIセンシングデバイス(カメラ)などを「AITRIOS」に接続することで、利用することができる。
「AITRIOS」を活用した物流拠点の自動受付の例としては、「AITRIOS」と、Hacobuの提供するトラック予約受付サービス「MOVO Berth」、レスターが開発したトラックのナンバープレート検知/認識結果と予約情報との照合判定を行うアプリケーションを組み合わせ、運送トラック車両のナンバープレートを検知・認識することができるようになっている。
Will-Logi AIfor Drivers

検知した行動は、WEB上の管理画面にて管理することができる。危険運転の履歴データの閲覧や遠隔からのデータ確認、CSV出力も可能だ。
TRASCOPE-AI

丸紅情報システムズ株式会社の無線とクラウドを活用した映像監視サービス。AIカメラにAIソフトが実装されているため、リアルタイムでのトリガー監視が可能だ。
物流における利用例としては、物流倉庫でのパレット位置情報管理が挙げられている。パレットの側面に貼付したラベルをAIに学習させることで、出入りするパレットの個数をカウントし位置情報の管理に繋げることができる。
パレット枚数管理業務をトラックドライバーが担っている場合、作業時間を削減することができる。
RFID等自動検品システム
RFIDとは、Radio Frequency Identificationの略で、電波を用いて、RFタグのデータを非接触で読み書きするシステムだ。バーコードのスキャンではタグをひとつづつ読み込む必要があるが、RFIDは複数のタグを一気にスキャンすることができる。
このRFIDを活用し、自動検品を実現することで、検品作業を削減することができる。
Locus Mapping

RFルーカス株式会社のRFIDでモノの位置を可視化する在庫・物品管理システム。
RFIDタグを貼り付けた製品にハンディリーダをかざすことで、遠隔から数百個までのモノを読み取ることが可能だ。「何が」「どこに」「どれだけ」あるのかをデジタルマップ上に表示することができる。
RUN Checker

株式会社マーストーケンソリューションのRFID一括検品システム。数cmの近いところにあるタグから、十数メートル離れたタグも一括で読み取ることができる周波数帯であるUHF帯を活用している。
リーダライタおよび読み取りソフトウェアを自社開発しており、ロケーションに応じてトンネルとゲートそれぞれに対応しているのが特徴だ。
RFLogispert

東芝テック株式会社の業務に合わせてカスタマイズ可能な検品システム。入荷と出荷に対応したRFIDサーバと、RFIDハンディを操作する端末アプリがワンセットになっており、RFIDを短期間で導入可能な点が特徴だ。
また、同社が提供するリアルタイムに在庫状況の把握が可能な店舗向けRFIDパッケージシステム「RFMeister」と連携させることで、店舗業務の入荷や棚卸業務でRFIDを活用することもできる。
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