2024年問題が迫っている。トラックドライバーの健康を守るためにも、「働き方改革関連法」の適用や「改善基準告示」の改正は必須だが、輸送能力の減退や物流業者の利益減少などの課題が危惧されている。
それに伴い、物流業界全体の生産性向上へのニーズが高まっている一方、労働基準法や改善基準告示の違反は依然として高い水準であり、現状を維持しつつ新たな規制を遵守することは難しいのが実情だ。
こうした中、国土交通省と厚生労働省は、トラック輸送業界の取引条件の向上と長時間労働の改善を目指し、2015年度から、学識経験者やトラック輸送事業の代表、荷主、労働組合などの関係者で構成される「トラック輸送取引・労働時間改善協議会」を設置している。
この協議会では、トラック運送会社と荷主が連携し、待機時間の短縮や荷物の積み下ろし作業などを効率化することで、長時間労働を削減することを目的にプロジェクトが実施された。
具体的には、パイロットプロジェクトを2016年度から2年間行い、その結果を「荷主とトラック運送業者の協働による取引条件の改善と労働時間短縮ガイドライン」としてまとめ、実施した取り組みを事例として公表している。
本稿では、少し古い情報ではあるが、このガイドラインの中で、ITツールを活用した事例を4つ抜粋し、紹介する。
運行ダイヤ見直しに活用できるGPS運行管理システム
一つ目は、課題の洗い出しと効果検証にITツールが活用されている事例だ。
発・着荷主は乗用車やトラックの製造・販売を行っている企業で、車の部品が運ばれている。
これまでは、発・着荷主の二つの工場の行きと帰りで荷物を積み込むラウンド輸送一回につき、標準運行時間が12時間を前提とした運行ダイヤが設定されていた。
現行の運行ダイヤでも改善基準告示は遵守されていたが、さらなる時間短縮の可能性を模索するために、実証実験が実施された。
この実証実験では、GPS運行管理システムのログデータから実態を把握して問題を洗い出すことで、出発時間を25分後倒しに設定して標準運行を短縮できるのではないかと考案した。そして実際に、配送が滞りなく行えるかを検証した。
その結果、工場に到着する前の時間調整を削減することができ、拘束時間を45分短縮できた。なお、待機・休憩時間はさらなる時間削減の余地がある可能性が確認された。
この結果から、運行ダイヤの再設計をする際や、運転者の労働時間管理に、GPS運行管理システムが有効であることが改めて確認できたとしている。
今後の課題としては、運転者の「心理的負担」を挙げている。到着時間の遅延は生産ラインに影響を与えるため、標準時間を縮減させても運転者の心理的負担を軽減するための施策を考えていくのだという。
倉庫を見える化する情報システムにより、生産計画から改善
二つ目は、課題を改善するためにITツールを導入した事例だ。
発荷主は金属製品を製造している企業で、着荷主の多くに着時刻の指定があるにもかかわらず、貨物の集荷時刻が事前に把握できないという課題があった。
その理由としては、受注生産であるために当日出荷物の積み込み時間が確定できないといったことや、出荷場が狭いために作りおきができず、生産に合わせて集荷していたため集荷時間が読めなかったからだ。
そのため、実運送事業者は、工場敷地内で待機して自分の順番を待たざるを得ないため、運転者の拘束時間が長時間になる傾向があった。
そこで、外部倉庫を活用することで前倒しで生産し、定番品など一部作り置きをできるようにした。また、元請事業者が入退場・進捗管理システムを導入して実運送事業者に公開し、集荷貨物の状態を把握できるようにした。
そして、実運送事業者は、これらの改善に合わせるべく、運転手の出勤を調整し、出勤後事業場で待機をすることなく工場内に入構させることで、拘束時間を削減した。
その結果、6時間以上拘束時間を削減することができたほか、滞在時間も14時間以上削減することができた。
さらに、出勤時間を調整することで、これまで多くの車両が出勤してから工場へ入構するまで2時間以上かかっていたのが、ほとんどの車両が出勤から30分以内に入構することができるようになった。
これにより、発荷主は生産遅れを解消することができ、元請け事業者は実運送事業者からの問い合わせ対応業務が削減された。実運送事業者は、待機時間を適切な休憩時間に切り替えることができ、労働時間を削減することができた。
この事例では、発荷主が課題に対して生産計画の組み替えを行い、必要なITツールを元請け事業者が構築。実運送事業者がそのツールを活用して行動を起すという連携を行った結果、成果につながった形だ。
RFIDにより検品作業をなくし、荷下ろし時間を短縮
三つ目は、輸送前の積み込み作業時からITツールを導入し、それに合わせてその後の流れも見直している事例だ。
発荷主は日用品の製造をしている企業で、実運送事業者が着荷主の物流センターに到着した後、荷卸し開始までの待機時間がピーク時では平均240分もあることが課題だった。その原因は、物流センターに到着した順に卸していたため、ドライバーが前日の夜から順番取りをしてしまっていたからだ。
また、パレットから荷卸しする際に仕分けや検品作業を行い、改めて積み替えをしており、それに100分ほどの時間を要していた。さらに、荷卸し後に着荷主が格納場所のシールを貼り、それを待ってから実運送事業者がシールに沿った仕分けを行っていた。
そこで、元請運送事業者が運送前日に輸送品にRFIDタグを付け、製品明細の情報を登録した。そして、着荷主に同情報を送信することで、到着時に着荷主がRFIDタグを感知できるようにし、検品作業の効率化を実現した。
また、発荷主が、着荷主からの受注情報と同時に、納品先の物流センターの格納場所情報も入手した。そして、その情報を元請運送事業者に共有。元請事業者は、格納場所情報に基づいて、輸送する前に格納場所別に仕分けをして、積み込みを実施した。
加えて着荷主は、事前に格納場所別に仕分けをされた車両用の「優先荷卸し場所」を設定することで、スムーズな荷卸しを実現した。
その結果、輸送時間を除いたドライバーの労働時間を4時間30分縮減することができた。これにより、ドライバーの労働時間短縮とトラック回転率が向上し、縮減分の再運行が可能となった。
さらに、着荷主の物流センターのスペース効率や荷卸し場所の回転効率も向上させることができたのだという。
今回の事例では、発荷主がドライバーの長時間労働の状況を理解し、その改善のための取り組みを主体的に企画立案し推進したことが成功のポイントだとしている。
また、着荷主や元請運送事業者も発荷主の取り組みを理解し、情報提供や荷卸し場所の確保、ITツールの導入などに協力したことで大きな成果につながったのだろう。
独自の配送システムで手待ち時間と積み込み時間を削減
四つ目は、ITツールがすでに導入されている事例だ。ITツールを含めた課題を発荷主と運送事業者が共に洗い出したことで、スムーズな改善につなげている。
発荷主は発酵食品の製造・販売を行う企業で、元請運送事業者が一括して物流を請け負っており、独自の配送システムを活用して、発荷主の物流センターから納品先へと情報のやり取りを行いながら配送をしていた。
しかし、発荷主から運送事業者と物流センターへの出庫データは当日の午後にならないと送られず、トラックが午前中に到着できても、積み込み開始の14時以降まで手待ち時間となっていた。
また、出庫データが午後のため、ピッキング作業と積み込み作業を同時に行う必要があり、ピークに合わせて人員とフォークリフトを用意していた。
そこで元請運送事業者が、ピッキング作業と積み込み作業の状況を確認し、受付をしてから積み込み完了までの時間を調査した。
その調査結果から、手待ち時間の削減へ向けた具体的な対応を、発荷主、元請運送事業者、下請運送事業者が共に検討し、発荷主より出荷データを1日早く出してもらうことで、朝から積み込み作業ができるようにした。
これにより、発荷側での手待ち時間がほぼゼロになったほか、夕方に集中していたトラック便が平準化され、積み込み時間とフォークリフトの削減をすることもできた。
発荷主にとっては、運行計画が組みやすくなり、トラック便を確保しやすくなったほか、物流センターに在庫量が増えることで、BCP対策もできるようになった。
今後は、着荷主側での改善を進め、さらなるドライバーの手待ち時間削減を進めていく計画だとしている。
現状を紐解き共有することで改善につなげる
今回紹介した4つの事例は共通して、「課題の洗い出し」「改善案の策定と実施」「結果の振り返り」といった工程を、荷主と運送事業者が共に行い、各事例において必要なITツールの導入や活用、改善をしているのがわかる。
物流の課題は関係者が多いため複雑だと感じがちだが、課題を一つづつ整理し、共有することで適切にITツールを使いこなし、改善につなげている事例を是非参考にしてほしい。
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