浜松倉庫とゑびやが取り組む再現性のあるDX ーUCHIDAビジネスITフェア2024

2024年10月18日、毎年秋に開催される内田洋行のビジネスITフェアが、今年も開催された。

今回は、「デジタルでつながるビジネスの未来」をテーマに、さまざまな業種や分野で業務変革に取り組む企業の最新事例、DXの実現方法、そして最新のソリューションが紹介された。

本稿では、「DXの到達点~DXセレクション受賞企業が語る、再現性のある取り組み~」と題し、経済産業省がすすめるDXセレクションの取り組みにおいて、その受賞企業である「浜松倉庫」「ゑびや」のDX実現の成功事例や推進策について語られたセミナーの内容を紹介をする。

登壇者(トップ画右から)

  • 経済産業省 商務情報政策局 情報技術利用促進課 課長補佐 栗原涼介氏
  • 浜松倉庫株式会社 代表取締役社長 中山彰人氏
  • 有限会社ゑびや/株式会社EBILAB 代表取締役社長 小田島春樹氏
  • モデレータ IoTNEWS代表 小泉耕二

DXへの取り組みを促す「DXセレクション」

IoTNEWS 小泉耕二(以下、小泉): 本日のテーマは「DXの到達点~DXセレクション受賞企業が語る、再現性のある取り組み~」です。

「再現性」というキーワードを入れたのは、他の企業でも応用できる内容にしたいと考えたからです。

ぜひ今日の話を参考にしていただき、自社でも活かせる部分を持ち帰っていただければと思います。

それではまず、DXセレクションとは何かについて、栗原さんにご説明いただきます。

経済産業省 栗原涼介氏(以下、栗原): DXセレクションは、DXに積極的に取り組み、成果を上げられている企業の皆様を表彰する制度として運営しています。

経済産業省では、「デジタルガバナンス・コード3.0」という、企業のDXに関して具体的に取り組むべき事項を取りまとめています。これを起点としてDXの進捗度合いに応じたさまざまな政策を展開しており、その一つがDXセレクションです。

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DXセレクションを含む企業DX推進施策の全体像

先進的なDXに取り組み、成果を上げている企業を表彰し、紹介することで、その地域内でのさらなる活躍を後押しするだけでなく、他の多くの企業の皆様にも参考にしていただくことを目的としています。

昨年度のDXセレクション2024では、本日ご登壇いただいているゑびやが優良企業として選定され、浜松倉庫がグランプリを受賞されました。

浜松倉庫とゑびやが取り組む再現性のあるDX ーUCHIDAビジネスITフェア2024
DXセレクションの概要図

小泉: デジタルガバナンス・コードというのは、経産省で作成されたもので、それを見ると、DXを進める上での指針がわかるということですね。

栗原: そうです。デジタルガバナンス・コードは、どういった取り組みをすべきかを整理したものですが、少し難しい部分もあるかと思います。

そこで、より分かりやすくブレイクダウンした「デジタルガバナンス・コード実践の手引き」も公開しています。手引きはデジタルガバナンス・コードをより具体的に理解しやすくした資料ですので、是非ご覧いただければと思います。

10年後、20年後を担う若手を中心に「X(トランスフォーメーション)」を進める浜松倉庫の取り組み

小泉: では、DXセレクション2024のグランプリを受賞された浜松倉庫の中山さんにお話を伺いたいと思います。

まずは会社の概要について教えてください。

浜松倉庫 中山彰人氏(以下:中山): 浜松倉庫は静岡県浜松市に拠点を置く物流会社で、創業が1907年と、117年の歴史を持つ企業です。

地元に根付いた経営を行っており、正社員比率が85%と高い点が特徴です。これは地域に貢献したいという意図が反映されています。

また、平均年齢が35.9歳と、物流業界としては比較的若い労働力を持っています。

さらに、弊社では女性社員の活躍も推進しており、現在、社員の男女比はほぼ半々です。倉庫作業では、フォークリフトのオペレータとしても女性が3分の1を占めています。

今後は、新たな分野に挑戦し、医療機器や精密機器の物流に取り組んでいきたいと考えています。

小泉: 今回DXセレクション2024、グランプリ受賞のポイントについて教えてください。

中山: 受賞の理由としては、デジタル化にフォーカスしていたわけではなく、企業全体の変革を進めていた点が評価されたのだと思います。

先ほども述べた通り、弊社は地元の浜松市に貢献をしたいという想いをもとに、117年の歴史を持つ企業ですが、今後もまた歴史を繋がなければいかなければなりません。

そのためには、会社を変革していかなければ存続することが難しいだろうということで、過去20年間にわたり、さまざまな変革を進めてきました。

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浜松倉庫の20年間の取り組み

まずはDXの「X(トランスフォーメーション)」である変革が先にあり、そのための手段として「D(デジタル)」を活用した、という点を評価いただいたと思っています。

小泉: 変革を進めるために、さまざまな取り組みを行う中で、デジタルを一つの手段として活用していたのですね。

具体的には、どのくらいの期間で、どのようにDXを推進されたのでしょうか。

中山: 第1期、第2期、第3期、第4期と段階的に進めていきました。

まず第1期では、当時40歳前後の管理職3人を呼び、浜松倉庫の10年後を見据えた会社のビジョンを考えるところから始めました。

ある程度ビジョンの形ができたところで、第2期では、3人の下に20代のメンバーを配置し、さらに深掘りしていきました。

そこで方向性が見えてきたので、第3期でシステムを導入しました。この段階で初めてITベンダーの協力を得る形になりました。

こうした過程の中で私たちが意識していたのは、自分事として考えることです。

また、物流業界では、社内だけが変わっても変革は起きないため、お客様を巻き込んで一緒に変わっていくことを大切にしました。

そして、仕事の仕方を大きく変える必要があったため、従業員のマインドチェンジを進めました。

その結果、全ての倉庫を無線LAN化したり、完全ペーパーレス化したり、リアルタイムで全ての情報が取得できるような仕組みを整えたりと、デジタル化が実現したという流れです。

浜松倉庫とゑびやが取り組む再現性のあるDX ーUCHIDAビジネスITフェア2024
浜松倉庫のDXの取り組みの概要図

こうしたDXの取り組みの成果としては、生産性向上が挙げられます。例えば、9年前からの取り組みでは、10人工分の余力が生まれました。その余力を使い、新しい倉庫センターの立ち上げに充てることができました。

20年間続けてきたことが間違いではなかったと思いますし、基本的に自分たちの手で進めてきたため、自信にもつながりました。

小泉: 第1期と第2期のフェーズでは、1年ほどかけられたようですが、検討チームのメンバーは専任だったのですか。それとも他の業務と並行して進めていたのでしょうか。

中山: 私たちは120人ほどの小さな会社ですので、専任でやることはできませんでした。そのため、通常業務をしながら進めました。

特に第2期では、20代の若手が実務を担当しながらプロジェクトに参加していたので、大変でしたが、その分プロジェクトに関わる社員たちをサポートするために、「この社員たちはプロジェクトに参加しているので、仕事を調整してあげてほしい」と周囲にお願いして、働きやすい環境を整えることが私の役割だったと思います。

小泉: プロジェクトメンバーは自ら志願したわけではなく、選ばれたのでしょうか。

中山: 第1期では、40代前後の管理職が3人しかいなかったので、その3人に担ってもらいました。第2期では、当時20代の社員が10人ほどいたので、ほぼ全員がプロジェクトに参加しています。

小泉: 若手中心で進めると決めて、その若手たちに業務の検討を任せたということですね。

中山: そうですね。変革を進める際には、10年後や20年後に会社にいるであろう若手の方が、積極的に考えるだろうと思いました。若い社員たちが会社を変えたいという気持ちを持てるようにするためにも、若手を巻き込むことが正解だと考え、弊社ではこのような進め方をしました。

小泉: 一方で、若い方々は業務経験が浅く、会社全体のことを俯瞰する視点が不足していることもありますよね。

そうした中で、会社全体を見渡して変革を進めるのは難しかったのではないかと思いますが、その点においてはどのような工夫をされたのでしょうか。

中山: 業務フロー自体は、ベテラン社員が作成した既存の業務フローがあったので、それをもとに若手に「どうすればいいと思う?」と、発想を求めて問いかけていました。

また、ベテラン社員の業務フローは紙とペンの世界だったので、それをデジタル化し、効率化していくという方向性を提示しながら進めました。

そのため、社内の変革は大きな負担ではありませんでしたが、顧客との関係における変革では苦労しました。お客様が送ってくるファックスをすべてデジタル化する必要がありましたので、それが一番大変だった部分かもしれません。

小泉: それにしても、情報システムに詳しくない若手が、短期間でシステム化の検討をして導入を進めていったのはすごいことですね。現場仕事をやっている方達を相手に、難しいことも多かったのではないかと思うのですが、どのような工夫をされたのでしょうか。

中山:一つは、第1期や第2期では、ITの話をなるべくしないようにしました。「会社をどう変えるか」ということをメインに検討し、業務の改善や自分たちの視点での改革を進めることが主な取り組みでした。

つまり、会社の目指すべき方向性へ向けて、そのために業務をどう変えなければならないかを、自分の業務の目線で考えることが重要だと考えています。

浜松倉庫とゑびやが取り組む再現性のあるDX ーUCHIDAビジネスITフェア2024
浜松倉庫株式会社 代表取締役社長 中山彰人氏

小泉: 第1期や第2期で業務を効率化するためのアイデア出しを主に行い、第3期ではシステム導入に移行したということですね。第3期以降はベンダーが中心になって進めたのでしょうか。

中山: 業務フローの作成は自分たちで行いましたが、弊社にシステムエンジニアがいるわけでなく、システムの仕様書や提案依頼書は自分たちでは作れなかったので、コンサルに依頼しました。業者は5社に提案してもらい、最終的に2社に絞りました。

その1社は長年付き合いのあるベンダーで、もう1社は全くの新規でした。ベテラン社員は既存のベンダーを推していましたが、若手は「せっかくなら新しいところでやろう」という考えでした。

最終的には、役員会で検討し、私の判断で新規のITベンダーと提携しました。そのITベンダーとは、今でもパートナーとして取り組みを続けています。

小泉: プロジェクト管理もその若手チームが担当していたんですか。

中山: そうです。若手を含めた推進部門が担っていました。

小泉: 素晴らしいですね。若手の社員が会社の変革を担う機会を与えられて成果を出せたのもですし、中山さんが彼らを支え、アドバイスをされていたことも大きかったのではないでしょうか。中山さんの関わり方はどのようなものだったのでしょうか。

中山: 基本的には、彼らのアイデアを最大限に引き出すために、なるべく干渉しないようにしていました。

加えて、117年の歴史を持つ会社のトップダウンの文化を変えたいという想いもありました。

会社の変革に合わせて、従業員が主体的に考え行動できる環境を作りたいという想いがあったため、自分は我慢しながらも彼らに自分たちで答えを出してもらうようにしていました。

経営に注力するためデジタルで生産性を上げたゑびやの取り組み

小泉: 続きまして、ゑびやの小田島さんにお話を伺いたいと思います。まずは、会社の概要について教えてください。

ゑびや 小田島春樹氏(以下、小田島): 弊社は、三重県伊勢市での店舗運営をはじめ、店舗で得たデータを活用した分析や来店予測など、サービス業向けにクラウドサービスの提供も行っています。

元々は家族経営の会社で、何か新しいことを始めようと思っても、日々の経営の作業に忙殺されていました。また、人を採用して時間を捻出しようにも、伊勢市は人口約12万の街のため、なかなか採用もできないという現実がありました。

そこで、少人数でも効率的にビジネスを運営するために、SaaSを活用した仕組み化や、デジタル技術の導入を進めてきました。

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ゑびやの取り組み概要

小泉: 今回優良事例を受賞したポイントは何だとお考えですか。

小田島: 私たちの場合は、地方の中小企業やサービス業という、生産性の低い業種と一般的に言われている分野で、根本的に経営の仕方や考え方を変えていった点がポイントだったのではないかと考えております。

弊社には、店舗のビジネスを展開している企業のほか、データ分析を行い、レジの情報を集めて、そのデータを分析しながら需要予測を行う事業を行う企業、そしてウェブマーケティングの要素を実店舗で再現するようなサービスの提供などを行っています。

また、最近では輸出企業をM&Aし、その会社もグループの一員としてするなど、多岐にわたる事業を展開しております。

では、なぜこれほど多様な事業が可能になったかというと、バックオフィス業務をアウトソーシングすることで、より多くの時間を新しい事業の開発に費やすことができたからです。

例えば、会計ソフト一つとっても、セキュリティなどの理由で、自社の事務所のパソコンからしか入力できないソフトを使い続けている中小企業が多く存在しています。

このような環境を見直し、日々の会計業務を処理するシステムをクラウド化するなど、自社の企業体をトランスフォーメーションしていたことが、受賞のポイントだったのではないかと思います。

小泉: 実際に事業を進める上で、事業全体を効率化し、発展させるという社長のミッションがある中で、それを実現するために役立つデジタルツールが世の中にあったということでしょうか。

小田島: そうですね。おそらく10年前には実現できなかったことが、5年前であれば可能になっているのではないでしょうか。「これはもしかしたらできるかもしれない」というようなアイデアが、2014年、2015年頃にはすでに実現できるようになっていたと感じます。

例えば、私は過去に、データ分析を行うために、街を歩いている人数を手作業でカウントしたことがあります。なぜなら、自分のお店に訪れるお客様の数と街を歩く人数には、高い相関関係があるのではないかと考えたからです。そのため、人数を手作業で数えていましたが、3日も続きませんでした。

その後、画像解析の技術が登場し、「これを使えばすべてのデータを取得できるのではないか」という発見がありました。今振り返ると、当時はそうした発見が多かったように思います。

小泉: 小田島さんはもともと、そのような新しいデジタルツールの導入に抵抗感がない方だったのでしょうか。

小田島: そうですね。私は1985年生まれで、物心ついた時にはWindows 95が発売されていた世代です。

つまり、通信端末やインターネット、テクノロジーの進化と共に、私たちの生活が少しずつ楽しく、より良いものになっていくのを感じてきた世代ですので、テクノロジーやデジタル技術に対しては、自然と前向きな感覚を持っていました。

小泉: 一方で、社長が「やってみよう」と言っても、現場の人たちからは「今までのやり方が変わってしまうのは嫌だ」という声が上がることはなかったのですか。

小田島: 少数ではありますが、「今までのやり方で良いのではないか」と言われることもありました。

そうした際には、「これほど多くのミスが発生しているのは、問題ではないのか?」と、根本原因を提示しながら話し合いをして進めています。

浜松倉庫とゑびやが取り組む再現性のあるDX ーUCHIDAビジネスITフェア2024
有限会社ゑびや/株式会社EBILAB 代表取締役社長 小田島春樹氏

また、変革を進める上でもう一つの重要なポイントは、新しいやり方を押し付けるだけでなく、リワード(報酬)の設計をしっかり行うことです。変化に取り組んでくれた場合には、何らかの報酬を提供するという仕組みを導入しています。

例えば、弊社には15歳から80歳までのメンバーがいますが、アルバイトも含め、全員がSlackを利用しています。

もともとはLINEでやり取りを行っていたのですが、セキュリティやプライバシーの観点から、ビジネス用途での利用を避けたいと考えました。

そこで、業務で活用するコミュニケーションツールとしてSlackに移行したのですが、最初の段階から「いいね1回20円」「返信1回50円」というように、リワード制度を取り入れました。

すると、自然とSlackを使いこなすようになり、コミュニケーションが活発になりました。Slackに関するリワード制度は2年で終了したのですが、習慣化しているため、現在でも積極的なやり取りが続いています。

結果的に、給料やボーナスが上がったり、社員旅行の内容が良くなったりと、自分たちが変化をすることで良くなっているという感覚を得られる。こうした設計が大事なのだと思います。

小泉: 変革を起こす際には、リワードもセットで考えることが重要なのですね。

小田島さん自身は、飲食店を経営される上で、リワード設計も含め、さまざまなツールを使いこなしてDXを実現し、横展開もされていますが、単純に店舗を増やすという方向性も考えられたと思います。

店舗事業の拡大ではなく、ソリューションの導入や開発による展開を行おうと思ったきっかけは何だったのでしょうか。

小田島: 事業を経営している人であれば、その現場や経営においての課題やニーズが分かります。そこから生まれたサービスなのであれば、他の企業に展開していくのがむしろセオリーだと私は思っています。

最近であれば、貿易の会社を買収し、問屋の仕組みを自動化したり、在庫の自動発注をしたりと試行錯誤していたら、他の問屋グループの方々が「そのサービスが欲しい」という風に言ってくれ、また新しいビジネスが生まれています。

システムやデジタルありきではなく、実業の中に課題を感じて、それを解消する何かを生み出すことで、同じような課題を抱えている方々が必ず欲しいと思うはずだという感覚があります。

小泉: なるほど。課題解決のためにデジタルを活用した結果、同業の方々にも喜んでもらえるようなものになっているから、それをどんどん使っていただいているということなんですね。

栗原さんは、2社のお話を聞かれた感想はいかがですか。

栗原: DXと言うと、デジタル技術が前に来るような感覚を持つ方もいらっしゃると思いますが、両社とも「経営変革」を念頭に置いて取り組まれているなということを非常に強く感じました。やはり企業としてどうありたいのかというところから、そのための手段としてデジタルを活用するという点が、重要なポイントだと思いました。

浜松倉庫とゑびやが取り組む再現性のあるDX ーUCHIDAビジネスITフェア2024
経済産業省 商務情報政策局 情報技術利用促進課 課長補佐 栗原涼介氏

当たり前を疑うことが変革のはじまり

小泉: ここまでは、中山さんと小田島さんに、どのような取り組みをされてきたのかについてお話を伺ってきました。

ここからは、お二方が蓄積された知見やノウハウをもとに、明日からDXに取り組むためのヒントについて伺えればと思います。

では、浜松倉庫の中山さんからお願いします。

中山: 弊社の考えとしてお伝えしたいのは「DXが目的になってはいけない」という点です。

会社として進みたい方向性や解決すべき課題があってこそ、変革が必要になるのです。課題を解決するために、デジタル技術やデータ化を活用するという順番の方が良いのではないかと考えています。

加えて、私が社内に対して常に伝えているのは、「当たり前を疑おう」ということです。

例えば、「FAXや電話は本当に必要か?」という疑問からスタートして議論を重ね、FAXや固定電話を社内から撤廃しました。

今ではすべてのお客様とデータでつながっており、その情報が倉庫の現場に直接届くようになっています。

その結果、オーダーが全て現場に届くようになり、以前は事務所の従業員が行っていた入力業務が不要となりました。それに伴い、今では「事務所そのものが必要なのか」という議論が始まっています。

加えて、事務所の従業員の働き方も、入力業務などの作業から、蓄積されたデータを分析し、その結果をお客様にフィードバックするという仕事へと変化しています。これにはサプライチェーン全体を含めた改善提案も含まれており、新しい事務所の役割として定着しつつあります。

さらに、倉庫会社にとっては異例な発想ですが、「フォークリフトは本当に必要か?」という疑問にまで発展しています。この疑問は、これまで当然と思っていた作業の方法を大きく変えていこうという意図で、現在フォークリフトの活用方法を見直すことを進めています。

フォークリフトは運転に特別な免許が必要であり、現在では誰でも行える業務ではありません。また、個人的には、単純な横の動きを運転している時でも人が運転していなければならないのが無駄だと感じています。

ですので、どなたでも作業でき、効率的に業務を進めることができるように、例えばAGV(無人搬送車)を下に取り付けてロボット化することでリフトレスすることはできないかと、検討を進めているとことです。

最近では、こうした会社全体での変革や改善の文化が定着してきていると感じます。

例えば、ある営業所の若手女性社員が「営業所のリフトレス化を進めるための提案」という内容のパワーポイント資料を作成してくれました。

こうしたことからも、自ら変革を提案しようとする姿勢が社内に根付いてきたことを実感します。

当たり前のことに疑問を持ち、時代の変化に合わせて私たちも変わっていこうという精神が、少しずつ会社の文化として根付いてきたのだと思います。

小泉: このような文化や風土の醸成は、短期間で成し遂げられるものではありませんね。

浜松倉庫とゑびやが取り組む再現性のあるDX ーUCHIDAビジネスITフェア2024
IoTNEWS代表 小泉耕二

中山: そうですね。ただ1つ言えるのは、やはり弊社の平均年齢が若いということが強みの一つかもしれません。

倉庫内のシステムを変える際にスマートフォンやハンディターミナル、タブレットを使用しますが、若い社員が多いため、そうした新しいツールへの抵抗感が少ないのです。

システム導入の際には、まず若い社員たちに教え、彼らが40代、50代、60代の社員に伝えていく形を取り、スムーズに進めることができました。

小泉: 先ほどのゑびやさんからリワードについてのお話がありましたが、従業員を褒める仕組みは設けていらっしゃるのでしょうか。

中山: 仕組みではないのですが、昨年、人事評価制度を大幅に改定し、給与体系を見直しました。従業員の努力によって社内の体制が改善され、コストダウンを実現できた分、頑張ってくれた従業員には給与や賞与という形でしっかり還元する方針をとっています。

小泉: 素晴らしいですね。FAXや電話への疑問から始まり、フォークリフトをもしAGVやAMR(自律移動ロボット)などで代替できるとすれば、大きな変革になると思いますが、こうした着想は社長ご自身が考えられるのでしょうか?それとも、現場の方々からのアイデアなのでしょうか?

中山: 双方からの発想ですが、こうした着想の根底には、「人材の確保が難しい」という現実があります。

人材を確保できない以上、何らかの手を打たなければ生産性を維持することが難しい。そのため、こうしたアイデアが生まれてくるのだと思います。もし人材が豊富にいたならば、これらの問題を課題と感じなかったかもしれません。

小泉: 再現性の高いお話だと感じました。ぜひ参考にしていただければと思います。

「習うより慣れよ」の精神でデジタルに触れる

小泉: では小田島さんからも、明日から取り組めるDXについてお伺いできればと思います。

小田島: 私からは2つ提案したいと思います。

一つ目が、「テスラを買おう」です。この言葉の意図は、まずは、最新のテクノロジーに触れてみてほしいということです。

私自身テスラに乗っていて、高速道路では、指示器を出すと勝手に車線変更してくれるなど、その精度に感心しています。

こうした最新のテクノロジーに触れていると、運転している時に他の作業をしている未来などが想像できます。

二つ目が、生成AIを使い倒してほしいということです。

私たちの会社では、毎日生成AIで何かをするようにしています。例えば、「メールを書く」「行動を書く」「アプリケーションを考える」「資料を作る」といった業務は、現在全て生成AIを活用しています。

「明日からできること」としては、今自分がやっていることをAIでできないかと考えて、使ってみてほしいということです。

生成AIは、自分自身の能力を最低でも10倍、さらには3〜40倍くらいにまで引き上げてくれる仕組みだと思っています。

これを企業で使わない手はない。セキュリティの問題など、色々な懸念点もあると思いますが、明日からできることとしては、生成AIを日々の業務にどれくらい組み込めるかを徹底してやってみること。これに尽きると思います。

例えば、私たちは資料作成に「Gamma」というサービスを使っています。ChatGPTで「こんなことをやりたい」と書いたテキストをGammaに出力すると、ボタンひとつで資料ができます。私はそれで金融機関向けの資料も全部作っていて、作成に3分ほどしかかかりません。

また、アプリケーション作成に特化した生成AIモデル「Claude 3.5」を活用して、店舗のお客様にキャンペーンを実施するアプリケーションなども作っているところです。

私は文系の経営者ですが、明確に「こんなことをしたい」という指示さえできれば、AIがほとんどやりたいことを実現してくれる時代になってきたと思っています。

こうした状況は、生成AIが登場してからわずか2年ほどで到来しています。

来年、再来年にはさらに進化し、頭の中で想像したことをAIがそのまま実現してくれる、そんな時代になってくると思います。

まず、明日からできることとしては、皆さんの仕事の中で、生成AIを徹底して使いましょうというのが、私からのメッセージです。

小泉: ありがとうございます。生成AIは業務システムにも入ってきていて、最近では、ワークフローを作ってくれるものも出てきていますよね。

今のお話はアプリケーション開発が中心でしが、その他の業務の中でもAIが活用されていますし、その範囲はもっと広がっていくと思います。そのため、導入をどれだけ早く始めるかということが、きっとポイントになるのではないでしょうか。

DXを通じた企業価値向上を支援するデジタルガバナンス・コード

小泉: 最後に、栗原さんより、今後のDXセレクションの展望についてお伺いしたいと思います。

栗原: 基本的な枠組み自体は変えずに、今年も、全国の企業の中で、DXに熱心に取り組まれており、成果を上げていらっしゃる企業を表彰させていただく所存です。

私たちの目的は、DXにより企業価値が向上することですので、そうした目線を持たれてる企業を表彰させていただくということで、今後もDXセレクションを実施できればと考えています。

私たちとしても、DXに取り組む企業へ向けて、今年の9月にデジタルガバナンス・コードの改訂を行い、「デジタルガバナンス・コード3.0~DX経営による企業価値向上に向けて~」を策定しました。

この改訂では、DXを通して得られる企業価値向上に焦点を当て、名称や構成を経営者へ伝わりやすいように見直しました。また、データ活用・連携や、デジタル人材の育成・確保、サイバーセキュリティ等の時勢の変化に対応するための見直しも反映しています。

さらに、冒頭でもお伝えした「デジタルガバナンス・コード実践の手引き」では、何から取り組めばよいか分からないという方に向けて、全国各地のDXに取り組む企業13の事例の紹介や、4ステップで解説されたDXの進め方、またDX成功に向けた6つのポイントなどが記載されています。

他にも、図表を中心に手引きのエッセンスを凝縮した19ページの要約版や、デジタルガバナンス・コードを実践している例などの紹介もしているので、是非これらも参考にして、DXによる企業価値向上に取り組んでいただければと思います。

小泉: ありがとうございました。今日のお話が皆さんのお役に立てれば幸いです。

なお、「UCHIDA BUSINESS IT FAIR 2024」は、11月14日にグランフロント大阪でも開催を予定しており、現在申し込みを受け付け中です。

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