IoTにより、人も環境もセンシングすることができる。この特性を生かし、オフィスで働く人の生産性向上や効率化を図るために、オフィス内の環境を整えるスマートオフィスが注目されている。
また、人口減少に伴い、少ない人的リソースでいかに快適に効率よく働いていくかが問われている。
経済産業省が発表している「健康経営オフィスレポート」では、20,000名以上(所属企業 200 社以上)のビジネスマンの働き方と健康問題に関する調査を実施し、働き方が心身の健康状態や活力、そして仕事のパフォーマンスとどのように結びつくのかを分析した。
その結果、オフィス環境(空間・設備・情報・運用)を整備し、健康の保持・増進に繋がる行動を誘発することは、それぞれの健康状態に影響し、最終的にはプレゼンティーズム(健康問題による出勤時の生産性低下)やアブセンティーズム(健康問題による欠勤)の解消に結び付くことが、調査の結果から明らかとなったのだという。
このことからも、従業員の健康管理や職場環境の改善は、企業が持続的に成長していくためにも必要な視点だということがわかる。そこで今回は、スマートオフィスの事例を紹介したい。
環境が感情に与える影響を分析
1つ目のスマートオフィスの事例は、大和ハウスグループの大和リースとNECが提携をし、働く環境が人の感情にどのように反応するのかを検証するため、2019年10月24日から約1ヶ月間の実証実験を行なっているというものだ。
大和リースの従業員を対象に、リストバンド型のウェアラブルデバイスを用いた「NEC 感情分析ソリューション」を活用して、通常のオフィス内で過ごした場合と、緑と五感でデザインした働きやすいオフィス空間「VERDENIA」内で過ごした場合の感情変化を検証している。
実験の途中経過として大和ハウス工業は、「VERDENIA」で過ごした際に従業員の感情が心地良い感情(興奮・喜び)へと改善されていることを確認していると発表している。
今回の検証結果をもとに、職場環境を改善するための新たな新システムの商品化を目指すとのことで、2019年11月20日(水)~22日(金)までパシフィコ横浜にて開催される「ET&IoT Technology2019」に両社で出展し、ブース内に今回の新システムが展示されるという。
このような検証がさらに進むことで、各会社ごとの働きやすい環境、最終的には一人一人に最適化した働きやすい環境を構築することも夢ではない。マスカスタマイゼーションは働く環境にも適用されようとしている流れを感じる。
必要なデータをわかりやすく可視化する
アジュールパワーは、扉や天井にセンサーを設置し、「どこ(個室)が」「どのくらい」利用されているかという情報をマップ上に可視化するIoTサービス「センサーマップ」を展開している。
まず人感センサー、遮断センサー、温湿度センサー、開閉センサー、加速度センサー、マットセンサーの中から自社に必要なセンサーを会社内に設置するをする。
そして独自のフロアマップなどを自由にアップロードし、実際に稼働しているセンサー情報を表示したアイコンを自由に配置することで、フロアマップ上でセンサーの位置や情報を一目で確認することができるというものだ。
専用のクラウドとセンサーがあらかじめパッケージングされており、複雑な設定は不要だ。
このサービスの利点は、用途をはっきりと定めておらず、導入側のニーズに合わせて必要なものを必要な分だけ導入することができ、わかりやすく可視化できる点だ。
シンプルな導入、操作性により、直感的に可視化できるシステムを構築することができる。
主な使用例としては、トイレ・会議室・フリースペースの空き情報、重役の在席・在室確認としているが、ログインなしでマップ上に配置されたセンサー情報を公開することができるため、サイネージなどにも活用でき、オフィスだけでなく、病院、駅、ショッピングモール、工場など様々な用途で利用できるとしている。
さらに2019年8月よりNTTドコモとレンジャーシステムズとの提携体制を構築しており、NTTドコモは通信環境の提供、レンジャーシステムズはセンサー・デバイスの提供、アジュールパワーはクラウド上のシステムの提供を担当している。
働く環境をくまなくセンシングする
最後に紹介するのは、人のセンシングと環境のセンシング両方を行い、5Gを活用したスマートオフィスの実現に向けた実証試験の例だ。

この実証試験では、WCPとソフトバンク、広島県東広島市、シャープ、イトーキ、および国立研究開発法人情報通信研究機構が協力し、東広島市役所(屋内)で働く人の体調や職場環境の状態を把握するために、心拍や脈拍などの体調情報を計測する圧力センサーを搭載したスマートチェアや、温度や湿度などの職場環境情報を計測する環境センサーを執務室に多数設置した。
一人一人の体調や環境をセンシングするため、多くのセンサーを必要とし、各センサーに必要な5GをはじめとするBluetooth、無線LANなどのさまざまな通信技術をフレキシブルに活用する「ヘテロジニアスネットワーク」を構築してデータを取得した。
この実証試験で一度に多くのデータを取得することができ、今後このデータをどのように働く人の環境へとフィードバックしていくのか、解析・分析していくとのことだ。
スマートオフィスでは人の「感情」や「体調」といった、個人差のある曖昧なものに対して改善活動を行う必要がある。それに対し複合的に多くのデータを取ることが可能となる時代に突入してきたが、そのデータをどのように生かしていくかが鍵となっていると感じた。
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