ハノーバーメッセレポートの第五弾はベッコフオートメーションのブースからだ。毎年、面白い展示をみせてくれるベッコフブースだが、今年は「非接触二次元搬送装置」愛称「空飛ぶじゅうたん(XPlanar)」が展示された。
まずは、この動きを見て欲しい。
広い机の上を、プレートが縦横無尽に行き交う。当然だがぶつかることもなく非常にスムーズに動作し、止まる。
これは、一体どういう技術によって実現されていて、どういった分野で活用できると言うのだろうか。
これまでと全く異なる考え方でマスカスタマイゼーションを実現する
まず、活用分野について。ベッコフオートメーション株式会社 代表取締役社長の川野俊充氏によると、「XPlanarは4つの分野での活用を期待している」のだという。
- 電子部品の組み立ての現場
- 食品工場
- 薬品を使うような現場
- 研究施設
これまでの製造の現場では、コンベアを使って運び、ステーションで組み付け、また運ぶという、直線型のラインを作るのが一般的だった。しかし、「大きさが違うものをつくる」「種類が違うものをつくる」といった、マスカスタマイゼーションを実現しようとその度にラインを作り直さなければならない。
そこで、例えばロボットアームや検査機器が配置されているとする。そして、その周りに生産材(部品など)がこのプレートの上に配置されている状態をイメージしてほしい。
顧客のオーダーに合わせて製品を作ろうとすると、プレート上の生産材が自分で動いて、ロボットアームの近くに行き、組み立てられたり、検査機器のところに行って検査されたり、することができるとしたら、オーダーに応じた柔軟な製造が可能となることがイメージできる。
ところで、このプレートは非接触で動いているわけだが、仕組みはどうなっているのだろう。
プレートには永久磁石が敷き詰められていて、アルミでハウジングされている。一方で、テーブルにはコイルが敷き詰められている。コイルに電流を流して磁束密度を作ることで浮かしたり動かしたりするだ。原理的にはリニアモーターカーと同じと言える。
これまでの製造の現場における搬送のプロセスでは「摩耗」したり、「粉塵」がでたりするため、メンテナンスや衛生環境での問題があった。しかし、XPlanarを使うことで、完全にメンテナンスフリーになるということで、システムがシンプルになるし、動き方もソフトエウアで制御可能となる。
画期的な制御を実現するXPlanarだが、「使い方も含めて開拓する必要がある。」のだという。
川野氏によると、「現在ベータ・カスタマーで製品キットが使われていて、年末くらいには開発キットを日本でも販売できるようにしたい」ということだ。
EtherCAT G
XPlanarを実現するために必要な技術は実はまだ2つあるのだという。
というのも、XPlanarは前述した通りコイルに電流を流して磁束密度を作るわけだが、これを実現するには高速で動く何千個というモーターを同期制御しなければならない。
制御すると言うことは何らかのコンピューターから、指示を出しモータに指示を伝える必要があるため、高速なネットワークが必要になるのだ。
ベッコフといえば、EtherCATを使った高速通信を実現していることで有名だが、これまでのEtherCATは100Mbpsの速度が限界であった。そこで、今回の展示では、1G、10Gの帯域でも使えるネットワークが必要になり、EtherCAT Gが発表されたということだ。
EtheCAT Gという規格は、現在ベッコフ固有の技術となっているが、今後EtherCATグループに移管して無料でオープンに利用することができるようになるということだ。
TwinCATマシンラーニング
こうして高速通信は実現できるようになったわけだが、その制御信号はどのように生み出されているのだろうか。
ベッコフには、TwinCATと呼ばれる制御ソフトがあるが、このソフトウエア上でXPlanarは制御されている。こういうと、論理的なアルゴリズムを使って、位置制御を行っているのだなとイメージするのが通常だ。
しかし、実はXPlanarを動かす上で一番難しかったのが、プレートがどこにあるのかということをプレート自身が検出する(位置制御)なのだ。
というのも、絶対制度が150ミクロン、繰り返し制御が50ミクロンくらいあるというXPlanarの位置制御だが、これを実現するにはプレートの位置を正確に測れないといけない。コイルが複雑に配置されていて、磁力が飛び、浮いたり傾いたりするという状態で、その位置を検知をすることはとても難しいのだという。
そこで、まず6時間くらいプレートを自由に走らせる。そして、プレートの位置を外部のセンサーで計測。そのときのコイルの状態をすべてデータとして取得する。
そして、機械学習のライブラリをつかってその因果関係を学習する、学習結果をシステムにいれることで、駆動しているモーターの電流を計測すればどの位置にいるかが把握できるようになるということだ。
ONNXフォーマットで学習済みモジュールを出力
ここで、ONNX(Open Nural Network Exchange)と呼ばれる、FacebookやAppleなどが参加して作っているフレームワークがある。
XPanarの位置制御のための学習済みニューラルネットワークは、このONNXフォーマットに書き出されるという。それを最終的にTwinCATのランタイムで動かすことができるようにしたということだ。その結果、ONNXに対応した制御機械であれば、制御にこれを取り込むことができるようになるのだ。
つまり、XPlanarのような複雑な制御が、一般的な制御機械を使って制御することができるようになる。
ベッコフの競争領域となるXPlanarを誰でも簡単に使うためには必要な工夫とも取れるが、機械学習によって作られた学習モデルを製造の現場で手軽に使いたいと言うニーズは、なにもXPlanarの制御に限ったことではない。
現在、ニューラルネットワークで構成された、予知保全や故障検知、バーチャルセンサーといった学習済みモデルを持っている企業は非常に多い。そこで、これを、ONNX形式で書き出すことができれば、他の学習済みモジュールであっても、自由に一般的な制御機器でコントロールすることが容易になる。
そこで、今回、TwinCATを使うことで、Tensorflowなどの様々な学習ロジックを使って学習したモデルを、ONNX形式で出力する仕組みを提供することになったのだという。
この仕組みが提供されることで、顧客企業は自分で作った学習済みモデルは簡単にONNX形式で出力することができるようになるので、ONNX形式に対応したコントローラーがあればすぐに学習済みモデルを使った制御が可能となるのだ。
川野氏によると、「XPlanarはベッコフの固有の製品で「競争領域」の製品といえる。一方、高速ネットワークとなる、EtherCAT Gと、ニューラルネットワークを制御に活用する技術は、「協調領域」となるのだ。」という。
実際、製造の現場では、やりたいこともデータも違うわけだから、汎用的に欲しいと思われる技術については公開して利用を進めていくべきだ。
最後に、「こうやって、競争領域と協調領域を区別することで、エコシステムが増えていくことになる。これがベッコフのフィロソフィーなのだ。」と述べた。
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IoTNEWS代表
1973年生まれ。株式会社アールジーン代表取締役。
フジテレビ Live News α コメンテーター。J-WAVE TOKYO MORNING RADIO 記事解説。など。
大阪大学でニューロコンピューティングを学び、アクセンチュアなどのグローバルコンサルティングファームより現職。
著書に、「2時間でわかる図解IoTビジネス入門(あさ出版)」「顧客ともっとつながる(日経BP)」、YouTubeチャンネルに「小泉耕二の未来大学」がある。