世界中の企業がAIやビッグデータを活用し、DX(デジタルトランスフォーメーション)によってビジネスや暮らし、社会全体のあり方を根本から変えはじめており、街づくりも例外ではない。
内閣府は2018年、これまでのスマートシティとは次元が異なる「まるごと未来都市」をめざす、世界最先端の「スーパーシティ」構想を発表している。世界に先駆けて日本型スーパーシティを実現し、世界にモデルを提示できる可能性があるとして、急ピッチで進めている。
2030年の実現をめざしているスーパーシティとはどのようなものなのか、それが実現すると私たちの暮らしはどうかわっていくのだろうか。
スーパーシティとは?
スーパーシティとは、第4次産業革命における最先端の技術を活用し、未来の暮らしを先行実現する「まるごと未来都市」のことである。
2020年5月末、「国家戦略特別区域法の一部を改正する法律」、いわゆるスーパーシティ法が成立した。スーパーシティ型国家戦略特別区域は、2020年12月ごろから公募がはじまり、2021年春には選定される(公募は2021年3月ごろまで)。
スーパーシティは、国家戦略特区制度を活⽤しつつ、住⺠と競争⼒のある事業者が協⼒することによって実現する。特徴としては、キャッシュレス決済、クルマの自動運転、遠隔医療など最先端技術を暮らしに実装し、住民が参画するモデルであることだ。
具体像として内閣府は、下記3つの条件を満たす都市をスーパーシティとしている。
- 移動、物流、支払、行政、医療・介護、教育、エネルギー・水、環境・ゴミ、防災、防犯・安全、の中から少なくとも5つ以上の領域にまたがるDX生活サービスが提供されること
- 住民目線でより良い未来社会の実現がなされるように、住民コミュニティが中心となり継続的改善が実施されること
- 2030年頃に実現される未来社会での生活を加速実現すること。
なお、スーパーシティにおいては、異なるスーパーシティ同⼠あるいはスーパーシティ内の複数システム間をAPIで接続し、より広域な情報集約と提供を可能とすることが必須要件となる。
住民のメリットとしては、サービス間の競争によって、質が向上し、受けられるサービスの質があがったり、他都市で実証されたサービスの共同利用がしやすくなり、利用コストが低減したりする。
サービス事業者のメリットとしては、複数の都市に対して大きなカスタマイズなしにサービスを提供することが可能となり、収益向上に繋がる。さらに自治体のメリットとしては、サービス間での連携がしやすくなり、多くのサービス提供が可能となること、などがある。
スーパーシティとスマートシティの違い
これまでのスマートシティは、エネルギー・交通などの個別分野での取組み、個別のデジタル技術の実証などにとどまっており、街全体が繋がっている状態とは言えなかった。
そのため、サービスやシステムを他の都市に持っていこうとすると作り直しとなり、再利用が困難だった。事業計画の検討過程においても、各省と事業内容をバラバラに調整するため、⼀部の事業を断念することもあった。
これに対しスーパーシティは、ゴール逆算型のアプローチで進められ、すべての生活サービスと街が繋がるデータ連携基盤が肝となり、構想全体を企画する者であるアーキテクトが存在する。さらに、区域会議において事業計画と規制改⾰案を同時に検討を進めることで、包括的に進められるようになる。
スマートシティの多くは、自治体や事業者側などの技術開発側・供給側の⽬線で進められていたが、スーパーシティは住民目線が前提となる点も特徴である。
都市OS「データ連携基盤」が軸となる
スーパーシティでは、さまざまなデータを横断的に収集・整理し提供する「データ連携基盤」、つまり都市OSが軸となる。
官民を超えて、常にオープンな連携を可能にするためのAPIの設計をし、みんながそれを使い、多様なサービスを構築・利用する考え方自体の普及が根幹となる。これまでバラバラで進められいた異なる都市ともつながるようになる。
最先端の技術を活用し、常に最適最善のものを活用できるようにするため、新たな都市インフラの整備に際しては、政府が特定技術を推奨・ 誘導することなく、また、いったん導入された技術にロックインされることもないという。
道路、水道、電力網などの物理的インフラは、センサー・デバイスなどを埋め込み、データ連携基盤であるデジタルインフラを組み合わせる。そのうえで各種の新たなサービスの提供を可能にする。
このデータ連携基盤に関する調査業務は、NEC、日立製作所、アクセンチュア、一般社団法人データ社会協議会が受託した。2020年11月から2021年3月まで、4社がデータ連携基盤の整備に向けて共有のAPI使用や、データモデルの調査委・検討、データ連携に必要な相互運用性の確保に向けた方策の検討などに取り組む。
「スーパーシティ」事例イメージ
内閣府が提示するスーパーシティのサービス事例として、下記の4つあげられた。
1. 後期⾼齢者の通院対策を図るA市の構想
ひとつめは、免許を返納した後期⾼齢者が急増する都市の事例だ。
減少するタクシーとその料⾦の⾼さから、通院を断念する⾼齢者の増加も予想されるため、⾼齢者の通院等の交通⼿段として、ボランティア・タクシー事業を、タクシー事業者みずから廉価に展開。
その⽀払⼿段として、地域電⼦通貨を発⾏し、ボランティア活動によってポイントもたまる。その他の⾏政サービスの⽀払いや地域貢献活動などとも広く連携。
加えて、通院予約や遠隔医療を積極的に活⽤した地域包括ケアなどとボランティア・タクシーの配⾞システムを連動させ、⾼齢者の適切な通院などを通じた社会保障費の抑制や地域交通の合理化を図る。
想定される規制改⾰事項例としては、 ボランティアドライバー活⽤に係る道路運送法等での取扱い • 遠隔医療に係る法令などがあるとしている。
2. 観光を起点とするB市のスーパーシティ構想
次に、観光業に課題がある都市の例をあげる。
B市には、複数個所の有名な観光地がバラバラに点在しているが、観光地間の協⼒関係が弱く、⼀緒にプロモーションしないどころか、顧客を奪い合う関係になっている課題がある。
取り組み対応策として、観光地を効率的に回遊する⾃動⾛⾏⾞両を導⼊。通常の観光動線に加え、製造業のものづくり体験もアドオンし、産業の壁を越えて”MaaSによるものづくりツーリズム”を実現する。
観光客の個⼈認証においては、顔認証やワンスオンリー技術を活⽤し、域内完全キャッシュレスの利便性を⾼セキュリティで提供。
滞在中はレンタルを⾏うヘルスケアウェアラブル端末により、健康管理やキャッシュレ スでの買い物(免税・クーポン・⾃宅配送)をフルサポート。観光コンテンツの⾼付加価値化のため、伝統⼯芸の制作や着物体験とその誘客に、 AR・VR・アバター技術を活⽤する。
想定される規制改⾰事項例は、 レベル4の⾃動運転⾞両 (道路交通法、道路運送 ⾞両法)、道路運送法の特例などがある。
3. 被害者を受け入れるC市の防災拠点構想
海に隣接している自治体で、津波に備えた避難エリアを必要としており、周辺自治体との防災連携協定を模索する事例での取り組みとしては、次のようなことがあげられている。
防災モールの機能ももった温泉併設の商業施設を整備し、防災物流団地と連携すると共に自動倉庫やドローンによる物流網を構築。隣接する公園は発災時は仮設住宅へ転用する。
さらに、太陽光や水素を利用した発電、地区全体の共有蓄電、地下水や中水を利用した水循環システムによるエネルギーの地産地消を目指す。
その他、インフラ監視、高齢者や子供の見守りスマートポールを導入して安全管理対策を実施し、災害時はリアルタイムに災害状況をモニタリングし対応する。
想定される規制改⾰事項例は、 目視外でのドローン運送に係る航空法特例、分散型エネルギー(電気)の地産地消に係る電気事業法の特例、安全管理等のセンサーを道路に設置するための道路法の特例などがある。
4. 健康・未病・医療をつなぐD市のヘルスケア構想
最後は、健康不安を抱える住民が多い街で、ウェアラブルデバイスなどを活用したヘルスケアプログラムの事例だ。
課題として、脳卒中死亡率全国ワースト1位、医療費を中心に社会扶助費がひっ迫していた。さらに、高塩分摂取、クルマ社会による運動不足で不健康が蔓延していた。
そこで、運動や食事データ等のライフログや医療データを連携し、健康~未病~治療のサイクルをシームレスにつなぐヘルスケアプラットフォームを構築。
さらに、ウェアラブルデバイスの運動データと健康状態から運動メニューの推奨、発病リスク提示、健康e-Learning配信
発病時は自覚症状前にAI受診勧奨、最適なオンライン診療、服薬。治療後は、再発防止のためのパーソナライズ化された運動・食事等の指導をする取り組みを行った。
想定される規制改⾰事項例は、 遠隔医療(遠隔診療・服薬指導)に係る法令等の特例、オンライン診療報酬の改定
や、混合診療における、保険診療と保険外診療併用の特例の拡大などがある。
まとめ
いまだ世界を見渡してみても、スーパーシティは実現されていない状況だが、スーパーシティ実現のためには、住民のほか、国のさまざまな関係機関、自治体、民間企業など多くのプレーヤーが関わっていく必要がある。
既述のとおり、未来社会の加速実現には、これまでにないインフラ整備のほか、新たな規制の設定・運用も不可欠であるため、所要の法整備も行われる。
現在、スーパーシティ構想の実現に向け、内閣府およびスーパーシティに取り組む企業を中心に「スーパーシティ・オープンラボ」が設立されており、自治体と事業者のマッチングも行われている。
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