みなさん、「ECRSの原則」というキーワードは耳にしたことがあるでしょうか。「ECRSの原則」とはもともとは製造業での生産性の向上を行う改善活動の中において、生産工程の見直しを行う際に利用されているフレームワークです。
しかし、この「ECRSの原則」というフレームワークは、製造業だけでしか使えないというフレームワークではありません。
今回は、業務プロセスの改善を行う上で使える、「ECRS」をわかりやすく解説します。
企業は、利潤を得るための組織であり、組織に存在する各部門がそれぞれの業務を分担していいます。業務の中でインプットとアウトプットをおこない、組織間で業務の成果を連続的に交換を行うことで企業活動は成り立っています。
目まぐるしく企業環境は変化していて、同じことをしているだけでは企業の価値は存続が難しく、変化に対応した進化が必要です。
昨今、様々なクラウドサービスやITツールが登場しており、これらをうまく取り入れることができれば今までの仕事のやり方を変えることができ、時間や労力といったコストが大きく削減することができるようになってきています。
しかし、他社があるITツールを導入して業務改善ができたという話を聞いたからと言って、それをそのまま導入すれば良いというものではありません。
そこで、後に説明する「ECRSの原則」に則って、Eliminate(排除)、Combine(結合)、Rearrange(入替え)、Simplify(簡素化)の順番で検討をすすめていきます。次のステップでは、各プロセスで見えてきた様々な課題を解決するためのITツールを適切に選択し、時には組み合わせて導入を行っていきます。
次の章からはは具体的に「ECRSの原則」をどのように活用をするのか、事例を交えて解説をしていきたいと思います。
- ECRSの原則にのっとって、課題を明確にする
- 課題を解決することができるITツールを選択
- ITツールを導入し、評価する
業務改善の4つの視点「ECRSの原則」
「ECRSの原則」のECRS(イクルス)は、E=Eliminate、C=Combine、R=Rearrange、S=Simplifyの4つの言葉の頭文字をとって作られた言葉です。
- Eliminate(排除):その業務をなくすことはできるか
- Combine(結合):その業務と他の業務を一緒にできないか
- Rearrange(入替え):業務の順序を入替えることで効率化できないか。
- Simplify(簡素化):その業務のやり方をもっと簡単にできないか。
業務改善を検討する際に、この順番で検討を進めていくことで効率的に検討を進めていけるというものです。
複数のメンバーでECRSの順番にそって意見を出し合うという進め方もありますが、業務の種類や内容、流れは、同じ職場の人であっても人それぞれ捉え方が異なり、そもそも職場全員が全ての業務を把握しているといったことは考えにくいです。
そのため、このプロセスに入る前には、業務の棚卸しと業務フローの整理を行っておく必要があります。このプロセスを怠ると、「ECRSの原則」に則って順番に検討をして行っても、最終的には実現できる業務改善に抜け漏れが発生してしまいます。
ECRSの前に行うべき!業務の棚卸と業務フローの整理
業務改善の取り組みの全体像は、実は上の図のように5つのステップから構成されています。
実際は、
- 業務改善のための計画づくり
- 業務の可視化
- DX実現/業務改善策作成
- 業務改善実行計画/業務改善実行
- 改善後業務のモニタリングと修正
の順番で行います。
今回解説する「ECRSの原則」に基づいた業務の見直しは、3ステップ目の「DX実現/業務改善策作成」で実施します。
業務改善のプロセスについては、「業務のDX推進を、ベンダーに頼らず内製化する方法」 をご参考ください。
ECRS解説
Eliminate(排除)
概要
まず初めに検討をするのが「Eliminate(排除)」です。業務全体を見回して、無くしても問題のない業務があった場合、その業務をこれからは「やらない」こととします。
では、無くしても良いかどうかはどのように評価をするのでしょうか。
評価を行うにはまず、業務の棚卸しをしたあと業務の内容、目的や実施の理由について整理をおこない、一つ一つ業務一覧表に書き起こしていきます。
その時に、業務の目的や実施の理由が曖昧で明確になっていなかったり、理由が見当たらないと言った場合は、無くすことができる可能性が高い業務といえます。
今まで行っていた業務を排除することになれば、そこにかかっていた工数が全て削減されることになるので最も効果が高い業務改善になります。したがって「Eliminate(排除)」は、まず初めにやるべき検討項目となります。
具体例
以前から慣例的に行われている業務は排除の候補として挙げられることが非常に多いです。特に部署単位で多くの人数で行われる「定例会」や定期的に提出している「日報」や「報告書」は、目的が曖昧なまま「昔からそのようにしている」という理由だけで行われていることがあります。
「Eliminate(排除)」は業務をなくすことだけではなく、その業務の無駄を無くして、業務全体にかかる工数を減らすと言うことも含まれます。
例として多くの企業で行われている定例会で考えてみます。
部単位、課単位、チーム単位で似たような会議が行われいる場合、たびたび何十人もの人がその会議に拘束されることになります。果たしてそれらの会議の目的を達成するためには、そのメンバー全員が会議に参加をする必要があるのでしょうか。
多くは形式的に開催されており、メールや管理簿への登録による報告や共有で済んだり、限られた人、組織間で済ますことができることがあります。多くのメンバーが集まった会議の場で取り上げる必要がない内容を排除することで、会議の回数も時間も参加者も削減でき、その分のコストダウンが可能になります。
会議と同じように「排除」が期待できるのが「報告書」や「帳票作成」です。
扱う情報が会社にとって重要であればあるほど、承認フローが慣例的に複数の組織の上長を回覧するようになっていることがあります。このような場合は本当に承認が必要な上長と、回覧、共有のみでも問題ない上長とを組織で整理することで、承認プロセスがシンプルになり承認にかかる時間を削減することが可能になります。
また、「報告書」や「帳票」の中の情報についてもしっかり吟味することで、目的のはっきりしない情報の記載が求められていることが発見できることも考えられます。そのほかには、出張を無くしてWEB会議を行うことで無駄な移動時間や交通費を削減するなども考えられます。
- 慣例的に行われている「定例会」「日報」「報告書」の内容を見直す
- 承認フローを整理することで承認プロセスをシンプルにする
- 出張をなくし、Web会議を行うことで無駄な移動時間や交通費を削減する
Combine(結合)
概要
「Combine(結合)」は、よく似た業務を複数の部署や担当者で行っている場合、統合することで人員や設備などのリソースの削減を図ろうとする手法です。
例えば、3人が個別に同じ業務を行なっていた場合、その業務を1人の人が行うことで、人員も3人から1人に削減でき、業務に使っていたツールなどのリソースも1人分で済むことになります。
また、共通的な部分だけ1人の人が行い、案件ごと個別の部分だけ3人が各自分担をするような「結合」でも工数の削減につながります。さらに業務の結合により、ばらばらとやっていた業務が限られた人に集中することにより個人の業務習熟度が向上します。その結果、業務処理のスピードアップや業務品質の向上も見込めると考えられます。
さらに、業務のタイミングを同時に実施するという、時間軸での結合も、この範囲に入ってきます。
具体例
「時間軸での結合」の事例として、大手流通企業のユーザ向けWebサイト更新作業を請け負っていた、クライアントにおける例を紹介します。
流通企業からの入稿データをもとにWebページ制作を行い、初校、再校、念校と、一つのコンテンツに対して3往復の修正指示、修正を経て、毎月数十のWEBコンテンツの更新を行っていました。
業務の起点がクライアントからの「入稿」になるため、クライアントはとにかく定めた入稿期限までにできたものから入稿するという運用を行なっていました。
しかし、再校、念校の往信の中身を分析したところ、修正の多くが入稿時点の情報のモレや、曖昧さによる齟齬であることが判明しました。
そのため、ばらばらと入稿するのではなく、2〜3回に分けて入稿をしてもらい管理の煩雑さを解消するとともに、入稿期間を3日伸ばすことでクライアント側の入稿原稿の精度を上げるという変更を行いました。
その結果、両社の再校や念校における修正作業や、その確認作業の削減ができたとともに、担当者たちの心理的余裕を生み出すことに繋げることができました。
- 同じような業務を行なっている場合、一人の人に集める
- 共通な部分だけ一人がやり、個別の部分を分担する
- 業務のタイミングを同時にする
Rearrange(入替えと代替)
概要
「Rearrange(入替え)」は、業務に優先順位をつけて業務の順番を入れ替えたり、業務を実施する人や場所を変更したり、その業務を他のやり方に変えたりすることで効率化をする工程です。
Rearrangeを行う場合、初めに述べたとおり、ECRSの原則に基づいた改善策を検討する一つ前の工程で、しっかりと業務フロー図を書くことが重要です。
業務フロー図を見ながらその業務に関わる人たちが共通の認識をもって、業務の順番の見直しについてや担当者の入れ替えについて話し合うことができるからです。
また、人がやっていた業務を自動化すると言った場合も業務フロー図をもとに考えることで、誰がどのように利用するシステムが必要なのか、またシステム開発により自動化される業務の範囲を俯瞰して捉えることができるようになります。
昨今は業務をデジタル化、効率化する様々なICTツールが登場しているので、これらの導入を検討する際にも業務の棚卸しおよび業務フロー図の作成は前述同様必須といえるでしょう。
具体例
アポイントを、これまで特に理由もなく順番で訪問していたのを、訪問先のローケーションを考慮したうえで、営業ルートを組み立てる、といったわかりやすいRearrangeはありますが、アナログな業務工程をいかにデジタルを活用して新しい方法に代替して、工程の変化による効率化が行えるのかが重要です。
例えば、「紙の帳票」や「判子による承認」を「ワークフローシステム」に置き換える、といったことがあげられます。
紙による申請の場合、
- 企業のイントラサイトから帳票をダウンロード
- ワードやエクセルで記入
- プリンターで印刷
- 担当者印押印
- 上長押印
- 申請先部門に社内便等で送付
といった手順を踏む必要があります。
これが会社の重要な決裁に伴う申請の場合、自部門の上長の押印の後、物理的に距離の離れた関連部署の所属長数人の押印を経て、承認されます。
この場合、物理的な帳票の移動や、承認者の押印タイミングにより決裁が完了するまでとても時間がかかるという課題があります。
さらに、申請者からみたら自分の申請がどこまで回覧されているのかがわからず、何らかの理由で承認が止まってしまっていた場合の対処が行いづらいといった課題がありました。
ここにワークフローシステムを導入すると、
- 物理的な紙の移動がなくなるので申請~決裁までの時間が短縮できるとともに、郵送コストが削減可能
- 決済がハンコではなくデジタルで置き換わるのでいつでもどこでも承認処理でできるのでテレワーク環境でも業務が進行可能
- 申請の承認がどこまで進んでいるのかが可視化され、管理コストが削減、処理が止まっていた場合も決裁者に依頼可能
- 複雑な業務プロセスでも次に誰が何をやるべきか管理し通知することができるため処理忘れによる業務の停止を防止可能
といった改善効果が見込めます。
- 業務フローズに基づく、優先順位や場所、やり方を変更可能に
- デジタル化で、業務が可視化、自動化される
- 関係者を整理し、適切な承認フローが構築可能
Simplify(簡素化)
概要
「Simplify(簡素化)」は業務をもっと簡素化できないか、という観点で見直す工程になります。
複雑な業務になればなるほど人的なミスが発生しやすくなります。そしてそのミスを防止するために二重チェックなどの体制を整えることで、業務にかかる人員コスト、対応時間が増えてしまっているということがあります。
また、社外に公開している資料やお客様への報告書の内容が複雑なため、その問合せ対応に時間が掛かってしまっているということがあるかもしれません。
こういう場合は、業務内容をもっと簡素化することができないか、作業を単純にすることができないかといった観点でSimplifyの工程では検討を行います。
具体例
日々の日報や報告を帳票を利用しメールで提出したり、決められたフォーマットのシステムに入力をしていた場合、報告内容を日々の報告として必要最低限な内容に簡素化して、メールなどではなく業務で活用できるチャットツールで行うことで、スピーディーに情報共有、次のアクションの指示が行えるようになります。
担当者が複数のシステムからログデータを抽出して、それぞれのログを加工、集計しながら一つの報告書を作成する場合、エクセルのマクロを使う方もいますが、ログデータ群をシステムに登録すると自動的に計算を行い報告書を作成するといったことを、ノーコード、ローコードで実現することができます。
さらに、ログデータを扱いやすいよう加工してデータベースに蓄積することで、BIツールで簡単に経過を表示させることができるようになります。
その結果、担当者のパソコンに眠っていたデータがデジタル化され、日々の販売状況や売上の動向を確認できるだけでなく、様々な分析を行うことで、データドリブンでの業務遂行を行うことも可能です。
このほかには、人がやっていたエクセル集計業務や転記作業をRPAを使って自動化/半自動化して、人の作業を簡素化するなどもこのSimplifyにおける検討観点になります。
まとめ
今回の記事では、「ECRSの原則」に、一つ一つのプロセスを事例を交えて解説をしていきました。デジタルを最大限に活用することで今までの業務の在り方は大きく改革できることは言うまでもありません。
しかしやみくもにITを取り入れるのではなく、まずは、自社の業務プロセスをきちんと整理をするところからスタートするのがとても重要です。業務プロセスを整理したら「ECRSの原則」のようなフレームワークを活用して、今までの業務をどのように改善をしていくのかを丁寧に検討していきます。ここで解決の答えが整理されてくるとどこにどのようなテクノロジーを導入すべきが見えてくると考えます。
是非、業務プロセスを整理したうえで、この「ECRSの原則」を自社の業務改善活動に応用してみてください。
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1975年生まれ。株式会社アールジーン 取締役 / チーフコンサルタント。おサイフケータイの登場より数々のおサイフケータイのサービスの立ち上げに携わる。2005年に株式会社アールジーンを創業後は、AIを活用した医療関連サービス、BtoBtoC向け人工知能エンジン事業、事業会社のDXに関する事業立ち上げ支援やアドバイス、既存事業の業務プロセスを可視化、DXを支援するコンサルテーションを行っている。