2023年のCES、オープニングキーノートに登壇したのはジョン・ディア。初めてのCESキーノートへの登壇となる。
昨年も製薬・医療機器メーカーのアボットが初めてのキーノートを行ったが、数年前から自動車業界が登壇するようになり、医療や農業などのテクノロジー業界ではない産業のリーダーが、それぞれの産業の実態、そして未来をテクノロジー視点でプレゼンテーションすることが定着してきている。
キーノート登壇企業を見るだけでもCESが家電ショーからテクノロジーショーへ変革したことが顕著に感じられる。
2050年までに収穫量を50%向上させることが必要
ジョン・ディアは1837年に設立された世界最大の農業機械メーカーで、正式な企業名は「Deere & Company」であるが、ブランド名としてジョン・ディアが定着している。
農業機械で世界トップシェアであり、建築機器でも世界3位のシェアを持つ。
CESには2019年から出展していて、巨大な農業機械で存在感を出しており、ついにキーノートに登場した。
冒頭CEOのJOHN MAYは、創業以来、テクノロジーを活用して、農業業界をリードしてきたが、今はジョン・ディアの農業領域におけるテクノロジー活用は、農家のへの価値だけでなく、地球環境への貢献との両立が必要であり、まさに今、それを実行しているとのことだ。
今後、課題になるのは、農地面積が増えることは考えにくく、天候などの変化で、減少する可能性が高いこと。また北米含め先進国における農業従事人口も減少中であるということ。
そんな中、世界の人口は2050年までに20億人増加すると言われており、その人口増加に対応するためには現在より50%の収穫量向上が必要ということがわかっている。
世界の食糧問題に向け、AIやロボティクス・クラウドなどの活用を推進
こういったこれからの課題に向けて、様々なテクノロジー活用を推進しているジョン・ディアは単なる農業機械メーカーではなく、食という人々が生きていく上で欠かせない領域を支える、世界のこれからのためのAIとロボティクスの企業ということだ。
この10年における映像を中心とした機械学習とロボティクスとの連携は、創業当初のトラクターを製造し始めたときと同様のイノベーション・インパクトがあるという。
デジタルやテクノロジーの活用は、1997年にGPSへの投資をはじめ2000年には誤差1インチで農地データを把握することが可能となった。
そこから様々なデータ蓄積をはじめ、2010年にクラウドとIoT活用を取り入れ、農地だけでなく作物のデータも全てクラウドに保存し、どこからでもあらゆるデータがリアルタイムで活用できるようになった。
そして2020年から、これらの取り組みの蓄積もあり、サステナブルな農業の効率化が実現できるようになった。
アーカンソーにある20,000エーカーの農地で稲作などをしている農家では、34台の農業機械と20名の従業員で効率的な仕事が進められている。
40~50年前では2、3日かかっていた作業が今では1時間で終わるようになり、家族の時間もちゃんと取れているという。
クラウドを活用したマネジメントでは、リアルタイムの作業管理はもちろんだが、どのタイミングでどの場所でどのような作物を育てていくのかという判断でも有効だ。また個々の農業機械はコネクテッド化されていて、農地を面で捉え、それぞれが連携して効率的に作業をこなしていく様子を見せた。
ジョン・ディア、最新のテクノロジー
農業機器に搭載されているテクノロジーとしては、カメラで農地を撮影し、即時で雑草を見つけ農薬を散布する仕組みは数年前から実用化されていて、現在ではスマートフォンのカメラレンズサイズの雑草も見つけ、雑草だけに農薬を散布でき、最大で2/3の農薬散布量削減が実現できるという。
ジョン・ディアでは画像認識をVision Technologyと言い、カメラだけでなくNvidiaのGPUを搭載した制御ユニットが様々な農業機械に搭載されている。
横幅が約36mもあるジョン・ディアらしい象徴的な大型スプレーヤー(農薬等散布機)では36個のカメラが取り付けられていて、人の目と同じレベルで農地全体を確認し、小さな雑草も見つけ出し、雑草に対して的確に農薬を散布する。

マシンビジョンは農薬散布のような活用方法以外にも様々な使われ方をしている。
例えば、収穫した作物の品質チェックを画像認識で実施するのだが、これだけでは意味が無い。
農家のサステナブルな未来に向けて、トラクターなどの農業機械がどこをどのように走行したか、どのような速度で走行したのか、といった様々な農業作業データと突き合わせることで、どんな作業をすると、高品質な作物が収穫できるかというデータが蓄積されていく。
これらを基に年々効率化と高品質化が進んでいくということだ。また昨年発表された自律走行トラクターでも培ってきた画像認識技術が活用されている。
今回のCESで発表されたExactShotは先進的なロボティックス技術を活用したものであり、農家のビジネスと地球環境に大きく貢献するテクノロジーだ。
高速で種1粒1粒を土に打ち込み、そのタイミングをセンサーで検知し、約0.2ミリリットルの肥料を種が土に入る瞬間に直接散布する。
シリアルなどの原材料でもあるトウモロコシは世界の4割をアメリカで生産している。北米のトウモロコシ生産全てにExactShotが活用されることで、年間9300万ガロン以上の肥料を節約できるという。
さらに無駄な肥料による雑草の成長が防げることで、農薬散布量も減少し下水への影響も最小限にすることができる。効率化、最適化が進めば進むほど、農家のコスト及び作業の削減はもちろん地球環境へもポジティブな影響をもたらすことができる。
ジョン・ディアが提唱する3つのReal
今回のキーノートのテーマは3つのRealだった。

1つ目のRealは「Real Purpose」で、農家にとっての価値を創出すること、そして地球環境へ貢献すること。
「Real Tech」は目的に対する適切なテクノロジー活用と効果を高めるエンハンスだ。
そして「Real Impact」はまさに数字として様々な効果を明らかにしており、農業業界へは大きな影響を与えており、ジョン・ディアの考え方、取り組みは他の産業へも確実にインパクトを与えている。
まさしく、サステナブルな未来に向けて、テクノロジーをどのように活用すると良いのかを示したキーノートだった。
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未来事業創研 Founder
立教大学理学部数学科にて確率論・統計学及びインターネットの研究に取り組み、1997年NTT移動通信網(現NTTドコモ)入社。非音声通信の普及を目的としたアプリケーション及び商品開発後、モバイルビジネスコンサルティングに従事。
2009年株式会社電通に中途入社。携帯電話業界の動向を探る独自調査を定期的に実施し、業界並びに生活者インサイト開発業務に従事。クライアントの戦略プランニング策定をはじめ、新ビジネス開発、コンサルティング業務等に携わる。著書に「スマホマーケティング」(日本経済新聞出版社)がある。