最近、地方におけるスマートシティ関連の話題が多い。深刻な人不足と街の活性化の一助として考えられているのかもしれない。
そんな中、長野県伊那市でいなあいネットが主催し、株式会社ウフルが事務局を務める、LoRaWANハッカソンの二回目が開催された。
第一回のハッカソンでの優勝チームの内容は、プロジェクト化され現在鋭意開発中だという。やりっぱなしにしないのもこのハッカソンの特徴だと言えるだろう。
今回も土日であるにもかかわらず、55名が伊那市に集まり8チームに分かれてアイデアとその実現に汗を流した。
前回と異なるところとしては、1日目に伊那市の酒蔵やハウス栽培をしている模様、災害時の取り組みなど、実際の地元の声を聞くフィールドワークがあったところだ。
フィールドワークを行うことで、その地域の事情をよく理解した上でアイデアを練るコトができるので、出てきたソリューションはどれも明日から実用可能なものばかりであった。
優勝:ビニールハウスの異常を電話で知らせてくれるコールセンサー
優勝チームは、長野県の寒暖差が激しいことから、ビニールハウスの温度が下がりすぎることで農作物がダメになるということから着想して、ソリューションを考えたという。
しかも、ビニールハウスと言っても一箇所だけではなく、20箇所もあるので状況を見回りつつ、問題があった場合だけ対策するという時間のロスが多いコトに目をつけた。
しかし、単純に温度センサー、湿度センサーなどをビニールハウスに設置して温度を計測するだけではありきたりであるということから、通知を電話で行い、メッセージも東芝の人工知能RECAIUS(リカイアス)による音声合成で実現したのだという。しかも、課題がクリティカルな場合、声のトーンを変えるような仕掛けをしているというのだ。
確かに、デジタル関係の仕事をしていない人であれば必ずしもスマートフォンやケータイ電話は手元にはない。音声による通知自体は新しいものではないかもしれないが、地域の状況を理解した通知手段としては有効だろう。
しかも、たった1日半程度の開発期間の中で、他のチームが可視化するところで止まっているものが多い中、別の手段での通知まで実装したところが評価が高かった。
今後、ガラケーだけでなく、パトランプなど別の通知手段も実装することでビニールハウス農家の課題にいち早く気づくことができることだろう。
2位は、おじいちゃんスイッチ、3位はお酒作りから始めるIoT
おじいちゃんスイッチは徘徊老人を地域社会で見つけて、安全なコミュニティを作ろうという取り組みだ。
家ナカのセンサーでおじいちゃんが不要な外出をしていることを検知したら、これまでの行動や発見場所からある程度いきそうな場所を予測して地図上にプロット。その上で地域住民に徘徊情報を通知して地域社会全体で見つけようという取り組みだ。
隣近所に関心の無い都会ではなかなか難しい考え方かもしれないが、同じ課題を抱える地域であればこの考え方もあり得るかもしれないと感じた。
また、お酒作りから始めるIoTでは、酒蔵に温度センサーを付けて可視化する。可視化情報は公開し、多くの人がお酒作りの状態をみまもりながら製造していくという考え方だ。
地域社会を解決するためのIoTはアイデアや実現する手段は多く提案されているものの、実際にコストを負担するだけのビジネスモデルが作りづらい。
そこで、この可視化データをビッグデータ化し、お酒作りに活かすだけでなく、多くの人に関心を持ってもらい購買を促進するというアイデアが評価された。
IoTNEWS賞 周回バスの利便性向上施策
前回取材で参加した際、可視化どまりなものが多かったため、アクチュエートにこだわったソリューションにはIoTNEWS賞を出しますと宣言していた。
今回、地方のバスの発着状況を位置情報から可視化して、今直前のバス停にいるなどの情報をバス停に備え付けられたLEDランプで表示するというソリューションに贈った。
地方のバスは1時間に1、2便しか運行していないにもかかわらず、高齢化が進み病院に行くなどの足に利用されているバスで、1本乗り過ごすと次までの待ち時間が長い。
そこで、バスの位置情報を取得し、バス停に配置されたLED掲示板でその情報を表示するというものだ。
既存のバス停には電気も通っていないので、通知用デバイスに、電池で比較的長期間利用が可能な、LEDとLoRaWANを活用したというアイデアもよかった。
全体を通して
LoRaWANを活用したソリューションということだったが、どれくらいのエリアにどれくらいの局が存在するか、LoRaWANの特性として移動しているものに弱い、コンクリートの壁を貫通できる場合とできない場合がある、森の中に置くと通信できない、などのことは今回度外視して評価した。
というのも、実際は課題を解決するためのソリューションを考える上で、ネットワークに何を選択するかは、コストや理由用途見合いだからだ。
もちろん、本格的な対応をするのにこれらの実験を繰り返し、技術的にもコスト的にも適切なネットワークを選択していかなければならないということはありつつも、技術ありきだけで、「でできる、できない」を議論するのではなく、地域の問題を直視して、なんとか課題解決をしようとしたすべてのチームに賞賛の念を送りたい。
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IoTNEWS代表
1973年生まれ。株式会社アールジーン代表取締役。
フジテレビ Live News α コメンテーター。J-WAVE TOKYO MORNING RADIO 記事解説。など。
大阪大学でニューロコンピューティングを学び、アクセンチュアなどのグローバルコンサルティングファームより現職。
著書に、「2時間でわかる図解IoTビジネス入門(あさ出版)」「顧客ともっとつながる(日経BP)」、YouTubeチャンネルに「小泉耕二の未来大学」がある。