2000年以降最強の棋士のひとりとも評されたイ・セドル棋士が、2019年11月19日に韓国棋院に辞表を提出したと報じられた。
引退の理由のひとつに、AlphaGoなどの囲碁AIの圧倒的な強さを挙げていると言われている。AlphaGoはGoogleが買収したDeepMind社によって作成された囲碁AIだ。
イ・セドル棋士は、世界戦4冠を達成し通算1000勝を上げていた2016年に、AlphaGoと対戦し、1-4で敗北した。しかしこの1勝は、囲碁AIに対し人間が唯一勝った勝利である。
引退を発表したイ・セドル棋士は、引退試合に韓国国内で開発された囲碁AI「ハンドル」と対戦することになったが、韓国囲碁界ではハンドル優勢の見方が強い。
囲碁AIとは
従来のAI囲碁は、事前に人間同士の対戦データを学習することで、最善手を検討する手法を取っていた。
2017年に発表された、AlphaGo Zeroはそんな従来のAI囲碁と異なり、人間の打ち筋を学習せず、自己対戦を繰り返すことで最善手を検討している。
コンピュータがゲームで人間に勝つことは、様々なゲームで起きている。チェスや将棋、オセロなどがそうだ。
しかし囲碁は、チェスや将棋、オセロと比べ、コンピュータには難しい点がいくつか存在していた。
駒や石の優劣
チェスや将棋は、駒によって役割が決まっていて、将棋であれば王将を取られてしまうと勝敗が決するというルールがある。
そのため、王将がどのくらい有利か不利かを分析することで、その試合の有意度を測る事ができた。
しかし、囲碁は、石のひとつひとつに優劣がなく、置かれた場所やタイミングによってその石の重要度が変わる。
可能な打ち手が多い
チェスや将棋、オセロは次に打つ手がいくつかに制限される。
チェスや将棋では、駒の役割によっておける位置が決まる。オセロは既に置かれている石に隣接して、相手の石をひっくり返せる場所にしか置く事ができない。
しかし囲碁は、空いている直線の交差点のどこにでも石を置く事ができる。
そのため、可能な打ち手が多く、その分検討する量も増加してしまう。
こうした囲碁特有の課題を解決するために、自己対決を繰り返しながらディープラーニングを活用して最善手の検討を行っている。
一見悪手の様に見える一手も、AIによって分析された上で打たれている一手なのだ。
日本国内での囲碁AI
日本国内でも、囲碁AIの開発が進んでいる。
日本棋院と共同で囲碁AIの世界一を目指す
世界最強の囲碁AI開発と若手棋士育成を目標にする「GLOBISーAQZ」プロジェクトが2019年4月に発表された。
ビジネススクールを展開するグロービス、囲碁AI「AQ」開発者の山口祐氏、日本のプロ棋士を統括する団体の日本棋院、囲碁AI「Raynz」を開発したベンチャー企業のトリプルアイズの4者が共同で進めている。
さらに産業技術総合研究所や、AIの研究開発で知られる東京大学・松尾研究室も技術面で支援を行っている。
2019年8月に開催された囲碁AIの世界一を決める大会、「2019 中信証券杯 第3回世界電脳囲碁オープン戦」に参加し、5位という結果だった。
[参考]
GLOBIS-AQZプロジェクトが始動、囲碁AI世界一と若手棋士育成を目指せ
教え上手な囲碁AI
北陸先端科学技術大学院大学の池田准教授は、AIによって勝利することではなく、プレイヤーを楽しませることを目的としたプログラムを目指している。
機械学習によって、コンピュータ特有のあからさまな悪手を避けながら、最終的にはプレイヤーを勝たせる手法を検討している。
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大学卒業後、メーカーに勤務。生産技術職として新規ラインの立ち上げや、工場内のカイゼン業務に携わる。2019年7月に入社し、製造業を中心としたIoTの可能性について探求中。