近年、化学プラントでは顧客の多様なニーズに合わせた生産が行われている。生産量や生産品を変更する運転変更操作は、安全を見ながら操作する必要があるため、運転員が手動で行うか、ベテラン運転員の操作をルールベース化し手順通りに再現したシーケンス制御を使用して行っている。
プラントの状態はゆるやかに変化するため、最適となるまでの運転変更操作に数時間から半日程度を要することがあるという。運転変更の試行を繰り返すと原料やエネルギーが無駄になるため、効率化が望まれている。そのため、強化学習を代表としたAI技術の研究が進んでいるが、プラントのような大規模で複雑な対象には対応できていなかった。
日本電気株式会社(以下、NEC)、国立研究開発法人産業技術総合研究所(以下、産総研)、三井化学株式会社、株式会社オメガシミュレーションの4社は、化学プラントなどの大規模インフラの運転を支援する論理思考AIとシミュレータ上に再現したミラープラントを組み合わせた運転支援システムを構築した。
論理思考AIは、NECと産総研が開発を進めてきたもので、強化学習を用いて人が従来行ってこなかった操作もシミュレータ上で試行することにより、プラント状態に合わせた最適操作を生成できる。これにより、運転変更にかかる時間が短縮され、原料や使用スチーム量の削減が可能になるとしている。
また、シミュレーションで試行錯誤すべき手順の対象を、マニュアルや運転規約などに記載された情報から論理推論を用いて大幅に絞り込むことができるため、化学プラントのように操作のバリエーションが多く複雑な実装置にも、強化学習技術の適用・実証が実現したという。
このマニュアルに紐づいた操作の根拠と想定されるシミュレーション結果を、運転員が確認し操作することで、運転変更の時間短縮が可能になるとしている。
4社は、この論理思考AIとオメガシミュレーションのミラープラントを連携させ、三井化学の訓練用実プラントに適用した。その結果、生産量を変更する運転変更操作において、運転員の手動操作と比較して操作時間を40%短縮できることを確認したという。
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大学卒業後、メーカーに勤務。生産技術職として新規ラインの立ち上げや、工場内のカイゼン業務に携わる。2019年7月に入社し、製造業を中心としたIoTの可能性について探求中。