三井化学株式会社と株式会社日立製作所(以下、日立)は、日立が開発した人工知能(AI)を活用したマテリアルズ・インフォマティクス(MI)技術を、実際の新材料開発に適用する実証試験を開始すると発表した。
今回の実証試験に先立ち、日立の開発技術を三井化学が提供した過去の有機材料の材料開発データで検証したところ、高性能な新材料の開発に必要な実験の試行回数が従来のMIと比較し約1/4に削減され開発期間を短縮できたという。
MIとは、機械学習を含む情報処理技術をフルに活用し材料開発を進めていく分野のことである。

一般に、有機材料開発においてMIを適用する場合、化学式(例:エタノール(CH3CH2OH))は文字情報であり、AIでは簡単に扱うことができないことから、記述子(化合物の構造や特性を数値化して表したもの)にしてからAIに材料性能を予測させる手法が知られている。
しかし、この記述子は容易には化学式に逆変換できないため、従来は有識者がAIの予測性能値をもとに大量に提示された化学式の中から有望と思われるものだけを選別し、それらの候補を実験して材料性能を評価することで、新材料の化学式を特定する方法が取られてきた(上の画像)。
近年では、深層学習の発展に伴い、直接化学式を発案するAIも開発されているものの、こうしたAIが高性能な材料の化学式を発案できるよう学習させるためには、化学式とその性能指標値(粘性や溶解度など、材料がもつ機能や特性を定量的に評価した数値)がペアになった大量の実験データが必要となるなど、学習用のベースとなるデータを得るために実験回数が増えてしまうといった課題があった。
日立が開発した技術の特長は次の二つである。一つ目は、大規模なオープンデータを活用できる「入れ子型」のAI だ。大規模なオープンデータで学習したAIの内側に、実験データで学習したAIを埋め込む入れ子型構造を採用したことにより、同技術は少数の実験データしかない場合でも新材料開発に活用できる。
二つ目は、高性能な化合物の生成を加速する成分調整方式だ。同方式では、外側のAIで文字情報である化学式を一度数値情報に変換し、内側のAIでこの数値情報から性能に影響する成分を分離・調整することで、高性能な化合物を表現する数値情報を新たに作る。それを再び化学式に変換し直すことで高性能な化学式を高確率で生成し、実験回数の削減を期待できる。
両社は、今後も素材開発の協創を推進し、持続可能な社会の実現に貢献していくとした。
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