スマートシティを実現し、安心・安全な街や住みやすく快適な街、災害に強い街を実現するためには、AIの活用による自動化や省人化が必要になる。スマートシティにおいてAIを活用するためには、街の様々な場所にデバイスを設置する必要があり、経済性や対災害性を考慮すると、エッジ側で処理を行うデバイスが必要である。
デバイスを設置するためには、ノウハウが必要である。特に映像を使ったAIの場合、カメラの選定や設置条件、電源の確保など様々な要因を検討する必要があり、現場力の有無に応じて、AIの認識率に大きな差が出てしまう。
EDGEMATRIX株式会社は、様々な現場における映像エッジAIの導入や管理を行うための製品・サービスを提供しているスタートアップ企業である。映像エッジAIを導入する現場の調査からデバイスの設置工事、設置後のデバイスのリモート運用に至るまでをワンストップサービスとして提供している。
本稿では、スマートシティへの映像エッジAIの展開と、それを実現するためのEDGEMATRIXのサービス内容と現場力について、EDGEMATRIX 代表取締役社長 太田 洋氏(トップ画像)と代表取締役副社長 本橋 信也氏にお話を伺った。(聞き手:IoTNEWS代表 小泉 耕二)
EDGEMATRIXが狙う映像エッジAIによるスマートシティ
EDGEMATRIXは、スマートシティへのプラットフォームを提供することを狙っているという。特に映像を使用するエッジAIに注力しているそうだ。スマートシティに映像エッジAIを導入する場合、人に関する分析を行うもの、車に関する分析を行うもの、モノに関する分析を行うものなど、様々な応用が考えられる。
その際に、多数のカメラが街中にあることが想定されるが、すべてのカメラを監視員がリアルタイムにモニターすることは難しい。現状の監視カメラは、映像を撮影しておいて、何かトラブルが発生した時に、事後処理的に確認するという方法が一般的だ。EDGEMATRIXは、映像エッジAIを活用することで、もう少しリアルタイムに異常を発見できないかと考えている。異常が起きた時にAIが検知し、監視員がリアルタイムに確認するというイメージだ。
また、カメラの性能向上により、映像は高画質化している。その映像すべてをクラウドへ送り処理を行おうとすると、そのための通信やクラウドの処理は大掛かりなものになってしまう。EDGEMATRIXは、エッジで分散処理を行い、その分析結果は数値などの軽いデータでクラウドへ送り可視化する方法を取っている。
また、様々な箇所に設置されたカメラを1つずつ管理することは現実的ではない。プラットフォーム上で一元管理を行い、故障対応や更新作業を行えるようにする必要がある。EDGEMATRIX Platformを使用することで、アプリのインストールや変更、ソフトウェア更新、デバイス監視などが遠隔から行えるようになる。
EDGEMATRIXは、すでに、監視や警備、人数カウントなどの様々な分野へアプリケーションを展開しているが、スマートシティにおける映像エッジAIの活用を考えると、1社ですべての範囲のアプリケーションを開発することは難しい。
そこで、EDGEMATRIXは、エッジAIエコシステムを作っている。AIアプリケーションのデベロッパーとパートナーシップを組み、様々なアプリケーションをEDGEMATRIXのプラットフォーム上で使用できるようにしている。
現在、AIが広く導入されているのは、工場での検品作業であるという。スマートシティは鉄道や道路などのインフラにも影響するため、まだまだAIの導入が進んでいない。導入に対して非常に慎重な姿勢であることが多いという。
しかし、映像を使用した分析は遥かに情報量が多く、そのため分析結果が緻密なものになるため、従来のセンサーでの分析を補完できるということが徐々に理解され始めているそうだ。
EDGEMATRIXは、スマートシティへの映像エッジAIを導入することで、更にAIを普及させていきたいと考えている。採用が進む工場などにおける製品の検品作業のために導入されるAIは、分析の対象である製品が毎回異なるため、一点物のAIになってしまうのに対し、スマートシティに導入されるAIは汎用化できるものが多く、アプリケーションの水平展開が可能だからだ。
EDGEMATRIXの3つの事業
スマートシティへの映像エッジAIを展開するために、EDGEMATRIXの事業は、
- Edge AI Box
- EDGEMATRIXサービス
- Edge AI ソリューション
の3つから構成されている。3つの事業が揃っていることで、企業が実際にAIを導入したいと考えたときに、機器の設置や導入に向けての実証から、導入後の管理や新たなソフトウェアの展開までをトータルでサポートすることができる。
Edge AI Box
Edge AI Boxは、GPUを搭載しており、耐環境性を意識した産業用の筐体を採用した、エッジでAIを使用するために必要な性能と、エッジの環境に耐える機能を有したハードウェアである。豊富なラインナップを用意しており、中でも屋外モデルへの注目が高いそうだ。
屋外モデルは、防水・防塵仕様であるIP67の機能を持っており、落雷対策もされている。温湿度や直射日光など、外部環境が厳しくなっている中、コネクタやアンテナの処理、テスト環境の用意なども含めて屋外モデルをラインナップに揃えることは非常に大変であるという。市場で販売されている屋外モデルの多くは、屋内モデルを防塵防滴仕様の箱に入れて屋外モデルとして展開している。
しかし、EDGEMATRIXでは、過去、交通量計測の案件を実施した経験から、屋外で使用するデバイスの必要性を感じ開発を進めてきたとした。
Edge AI Boxは、基本的にはエッジ側で分析を行い、分析結果をクラウドへ送るという構成になっている。そのため、通信機能が重要になる。EthernetやWi-Fi、LTEなどを搭載している。上位機種には5Gに対応している端末もある。
EDGEMATRIXサービス
EDGEMATRIXサービスは、屋外に設置されたEdge AI Boxを遠隔監視することができる。Edge AI Boxが異常を検知した場合は、警告や通知を確認できたり、ブラウザ上からカメラ映像を確認できたりする。
EDGEMATRIXサービスには、AI開発パートナーが開発したAIアプリを購入できるEDGEMATRIXストアがある。順次新たなアプリケーションが追加されていくため、EDGEMATRIXサービスを利用して、アプリケーションの入れ替えを行うことができる。
また、EDGEMATRIX Platformは、顧客が自社で開発したAIアプリをデプロイすることもできることから、更に多機能に使用することができる。
Edge AI ソリューション
Edge AI ソリューションは、ヒアリングから開発と評価、設置工事まで一貫したコンサルティングを提供している。大規模な導入や複雑な仕組みが必要な導入にも対応しており、顧客の要件に応じた専用のAIアプリケーションをカスタマイズする。
認識精度やパフォーマンスも、顧客とのコミュニケーションを取りながら、支援を行っているとしている。
映像エッジAIの導入に必要な現場力
さらに、EDGEMATRIXでは、導入に必要な現場力も持ち合わせている。エッジAIを導入する場合、いきなり本導入からスタートするケースはほとんどないという。トライアルやPoCから始まることがほとんどである。その時に、導入のことまでを考慮してPoCを行うことが重要であるとEDGEMATRIXは考えている。
映像エッジAIでは、映像の撮像具合によって認識率が大きく変わるという。特に屋外の場合、24時間稼働し続けることを考慮し、日光の影響や証明との干渉など、様々な外乱があることを意識しなければならない。環境を正しく把握して、デバイスを導入していく必要がある。
環境の影響を考慮した映像エッジAIを実現するためには、現場調査から知見を持ってしっかりと行うことが重要であるそうだ。現場に行きサンプル映像を撮影し、分析を行ってみて、傾向を見ながらどのように導入を進めていくかを考えていくことが必要である。
また、アプリケーションも、現場に合わせてチューニングしていく必要がある。昼と夜での映像の見え方が変わったり、暗い場所の場合はIRカメラを使用する必要があったりする。現場に合わせて変更をかけていく必要があるし、汎用的なアプリケーションが開発されたら、更新を行う必要がある。
EDGEMATRIXは、開発だけを行う多くのAIスタートアップとは異なり、現場調査から設置工事までを行い、デバイスの設置や調整、AIアプリの変更やチューニングまでを行う。これは、これまで実際に現場に機器を導入してきていて、知見が蓄積されているからこそできることである。
現場力があるからこそ、EDGEMATRIXの3つの事業が実現でき、映像エッジAIを現場に導入していくことができるのだと感じた。
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大学卒業後、メーカーに勤務。生産技術職として新規ラインの立ち上げや、工場内のカイゼン業務に携わる。2019年7月に入社し、製造業を中心としたIoTの可能性について探求中。