マイクロソフトは、2012年までのCESでは、毎年「プレショー・キーノート」と呼ばれる、開催日前日のキーノートを担当しており、15年もの長きにわたって、テックトレンドを予測してきた。
しかし、2013年以降、その姿はなく、代わりにインテルやクアルコムなどの、チップ系の企業がその役割を果たしていた。今回であれば、先程記事公開したシーメンスがそれにあたる。
振り返ると、2009年、ビル・ゲイツからスティーブ・バルマーに代わり、当時スティーブ・ジョブス率いるアップルも、マックワールドから撤退している。
それまでの間、多くの人が知るように、ビル・ゲイツとスティーブ・ジョブスという、PC時代の寵児が繰り広げた世界を分ける戦いが、ビジョナリーであったことがとても重要で、彼らの打ち立てるビジョンに多くの人は心踊らされていた。
CES撤退から10年以上の時を経て、マイクロソフトは業績も大きく回復し、生成AIのOpenAIに巨額の投資を行い、再び世界の注目を集める存在となった。
最近のマイクロソフトは、Microsoft Igniteと呼ばれる自社イベントで情報発信をしているため、GoogleやApple、Amazon、Metaなど、多くのテックジャイアンと同様、CESのような場でビジョンを語ることは少ない。
しかし、今年のCESのテーマが、「AI」であったため、プレショー・キーノートは、久しぶりのマイクロソフトでないかと期待を寄せていたが、実際は違った。
マイクロソフトがAIに対してどんなビジョンをもち、今年AIを取り巻く環境がどう変わるのか、胸躍らせたかったのだが、残念ながら叶わなかった。
不在なのに存在感を放つ、マイクロソフト
そんな思いを持ちながら、開幕したCES。
蓋を開けてみれば、多くのプレスカンファレンスやキーノート、展示でマイクロソフトの存在感は非常に大きいものであった。
馴染みの深いところから紹介すると、まずは、ソニーだ。
ソニーのプレスカンファレンスにおいて、ホンダと一緒にビジネス展開するクルマ、AFFILAには、マイクロソフトの生成AIが搭載され、車内で利用者が車と対話する「対話型エージェントの搭載」を発表していた。
また、小売大手、ウォルマートの基調講演でも、マイクロソフトのサティア・ナデラ氏が登場、検索機能に生成AIを活用することで、顧客のデジタル購買体験をよりよくするとしている。(トップ画)
具体的には、「子供のために、ユニコーンをテーマにした誕生日パーティーを計画している親は、『娘のためにユニコーンをテーマにしたパーティーを計画するのを手伝って』とAIに頼むだけで、検索プロセスが合理化され、より効率的になる」としています。
また、従業員向けMe@Campusでは、生成AIの機能となる「MyAssistant」を搭載、長い文書の要約から、コンテンツ制作まで支援してくれるという。
さらに、AzureMapに位置情報を提供しているTomTomは、利用者が見るための情報や、位置検索や車両操作コマンドシステムとの連携などのために、会話型自動車向けAIアシスタントを開発した。
これにより、ドライバーはクルマと自然に会話し、AIアシスタントにためのば、ナビゲーションができたり、ルート上の特定の場所を検索したりすることができる。
また、車載システムを音声で操作して空調を設定したり、窓を開けたり、ラジオ局を変更したりも会話でできるようになるのだ。
自社のPC事業にしても、年初にCopilotキーがPCにつくことを発表したマイクロソフト。
AIに対する投資は、OpenAI社に対するものにとどまらず、自社製のクラウドサーバ向けチップの開発など、その力の入れようが物凄いことはいうまでもない。
現状、自然言語対話程度の話題しかなかった生成AIのトレンドだが、今後どんな展開が考えられているのか、産業界を巻き込んだビジョンをCESのような場でも示して欲しいところだ。
多方面に広がるAIの波
ビューティーテックでキーノートに登壇したロレアルも、生成AIを利用したチャットボットを紹介。スマートフォンで肌の写真を撮ることで、「ビューティ・ジーニアス」と呼ばれるチャットボットが肌の状況をAIが判定し、最適な化粧品をユーザーに提案する機能などを紹介した。
しかも、実際に試す必要はなく、メタバース空間上で確認できるものを提案していた。
AIの活用自体は不可逆な流れで、今後もさまざまなプロダクトに活用されていくことはいうまでもない。
単なる画像認識や音声認識、音声合成、自然言語対話、など、ありもののAIの技術を単純に組み込んだプロダクトは他にもたくさん登場していた。
その一方で、「生成AI」に限定して言えば、特に自然言語対話に関して、用途に応じた特別な学習を施した、AIアシスタントがたくさん登場しそうな状況で、2024年から2025年にかけて我々生活者の体験や習慣が、大きく変わるのではないかという予感がした。
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IoTNEWS代表
1973年生まれ。株式会社アールジーン代表取締役。
フジテレビ Live News α コメンテーター。J-WAVE TOKYO MORNING RADIO 記事解説。など。
大阪大学でニューロコンピューティングを学び、アクセンチュアなどのグローバルコンサルティングファームより現職。
著書に、「2時間でわかる図解IoTビジネス入門(あさ出版)」「顧客ともっとつながる(日経BP)」、YouTubeチャンネルに「小泉耕二の未来大学」がある。