先週、Microsoft Artificial Intelligence and Research Groupエグゼクティブバイスプレジデントのハリー シャム (Harry Shum)氏が、中国・北京で開催されたFuture Forumで講演した。また今週、Microsoft CEO のサティア ナデラ (Satya Nadella)氏が、ドイツ・ミュンヘンで開催されたDLDと、スイス・ダボスで開催された世界経済フォーラムで、マイクロソフトがどのようにAIを民主化しているかについて講演した。
下記は、マイクロソフトから発表された抄訳である。
人工知能(AI)は、新しい時代のイノベーションの鍵を握っている。このイノベーションとは、コンピューターが人間の命令ではなく、私たちのためにインテリジェントに動作するようになることを指す。テクノロジがより直感的、対話型でよりインテリジェントになり、企業がかつて想像もできなかったやり方で顧客をより良く理解し、サービスが提供できるだけでなく、最終的には世界の最も重要な課題のいくつかを解決してくれる時代が、到来しようとしている。
この AI による新時代は、クラウドのほぼ無限のコンピューティング能力、世界のデジタル化、コンピューターがこれらの情報を活用して人間と同じように学び、推論できる方法がブレークスルーによってもたらされる。AI分野の進歩により、いわゆる第4次産業革命が加速している。これは、すべての企業がデジタル化しつつあることを意味する。
最近 AI のルネッサンスとでも言うべき動向があるが、過去の大きな変化の時代を考えると、まだ私たちはメインフレームの段階にあるにすぎない。つまり、爆発的に普及する強力なテクノロジのまだ初期段階にあるということだ。AI をメインフレームからPC、モバイルの世界へと進化させ、すべての人がアクセスでき、活用できるようにする必要がある。その可能性は膨大だからだ。
AIの可能性は、ゲームをプレイし人間に勝てるコンピューターのレベルに留まるものではない。このテクノロジは、自動車、製造、医療、教育、農業、研究開発、公共セクターといった産業を変革するだろう。
都市はますますハイテク化している。自動車は周囲にある物体を認識して判断できる。オンラインサポートのエージェントソフトウェアは、人間と対話して問題を解決することができる。生産システムは、膨大な量の履歴データを分析し、将来を正確に予測することができる。医療画像システムは、臨床医が腫瘍をより正確に発見するサポートができる。これらはすべて AI のパワーだ。
現在、AIに関する深刻な懸念が散見されているが、AIに対するマイクロソフトのアプローチは、AI が人間の能力を置き換えるのではなく、むしろ能力を向上させ、最終的に一生における最も貴重なもの、つまり、時間の余裕をつくりだすことにポイントがある。
マイクロソフトは、「AIの民主化」にフォーカスしている。これは、AIツールを企業、公共機関、そして開発者の手に委ね、独自のインテリジェンス機能を構築してもらうことを意味する。最終的には、誰もが人工知能の恩恵を得ることができ、そして利益を得るべきであると確信している。
すべての人と組織のための AI
マイクロソフトは、Office 365 や Dynamics 365 といった製品に AI 機能を導入したり、クラウドにインテリジェントなサービスのプラットフォームを構築したり、AIのパワーを活用したエージェントやボットにより人々の仕事を支援すたりすることを通して、AIを民主化することを約束するという。
たとえば、Land O’ Lakes は社員が勤務中にどのように、誰と時間を費やしたかの洞察を提供する Office 365 の機能である MyAnalytics を活用している。会議に費やした時間、メール、就業時間、残業時間に関する詳細情報により、社員は自身の時間をどう活用していたかを把握することができる。勤務時間のフィットネストラッカーのようなものだ。
Volvo、日産、BMW、Harman Kardon といった企業は、車内、ホームオートメーション、生産性、デバイス制御のソリューションをCortana プラットフォームを活用することで、目覚ましい成果を上げている。
また、AI は話し言葉や書き言葉を瞬時に翻訳するなど、グローバルに多大なインパクトを与える魔法のようなことも現実にする。
Microsoft Translator は、複数の言語を話すグループ間で、リアルタイム翻訳を提供し、人々をつなぐとともに言語の障壁を克服できるクロスプラットフォームの無料のツールだ。最大100人まで接続でき、最大9つの言語を話し、50種類以上の言語で作業する。ロンドンでは、The Children’s Society がMicrosoft Translator を活用し、難民や亡命希望者の言語障壁を克服している。
キーボード、カメラ、ビジネスアプリケーションといったあらゆるものにインテリジェンスを組み込むことで、私たちはコンピューターが見て、聴いて、予測し、学習して、行動するように実質的に学習させている。たとえば、Skypeでは、会話ボットによる呼び出し機能により、顧客とのやりとりについてまったく新しい世界が作り出されている。
最終的には、Cortana のようなエージェントが感情的な要素を備え、IQ だけではなく EQ を持つようになるだろう。これがマイクロソフトのチャットボットの取り組みの背後にある考え方だ。このような進化の次の章が Zo だという。
マイクロソフトの成功したチャットボットである中国のXiaoIce (シャオアイス)と日本の「りんな」の基盤となったテクノロジ・スタック上に構築された Zo は、人間のやり取りから感情的かつ知的に反応することを学ぶ。現時点では、Kik上でZoとやり取りすることができる。将来的には、Skype や Facebook Messenger などの他のソーシャルな対話チャネル上でも Zoが利用できるようになる。
マイクロソフトは、AIを民主化するという大きな目標を追求する上で、これらの機能を一連のAPIとして、すべての開発者が利用できるようにするとともに、他社が製品やサービスにインテリジェンスを組み込むことができるプラットフォームの構築を目指している。
マイクロソフトは、これらのAI機能に対するオンデマンドのアクセスを提供する一連のサービス群をCortana Intelligence Suite と総称しており、ヘルスケア、パーソナライズド・メディシン(個別化医療:一人ひとりの個性にかなった医療を行うこと)、農業といった多様な業界で活用され、UBERやMcDonald’sなどのユーザー企業も活用している。
エレベータ-会社 ThyssenKrupp はじめ、予測インテリジェンスを活用して、ビジネスのやり方を根本的に変革している企業もある。Rolls-Royce は、Cortana Intelligence Suite を活用し、データから洞察を発見することで、エンジンの保守コストを下げながら、航空機の可用性を向上させている。
また、77,000 人以上の開発者が、マイクロソフトのBot Framework を使用したボットを登録した。高知銀行、Rockwell Automation、Australian Department of Human Services などの様々な企業や組織が、Slack、Facebook Messenger、Office 365、text/sms、Skype、Kik といったチャネルを横断して自社のビジネスを変革するために、このテクノロジを活用している。
最後に、このテクノロジを支えるために必要な基盤構築のために、マイクロソフトはシリコンからクラウドに至るまでのインフラのイノベーションを行ない、Microsoft Azure 上に世界初の AI スーパーコンピューターを構築した。
拡大する強力なコミットメント
マイクロソフトはAI の領域で豊富な実績があり、25年間にわたってAI の進化に貢献するとともに先導してきた。これは、1990年代初頭に Microsoft Research を設立し、自然なコンピューティングの次のフロンティアは音声処理であるという信念に基づく投資を行った時から始まっている。
30年近くにわたり、マイクロソフトは、人間よりも正確に言葉や画像を認識するテクノロジを開発してきた。このテクノロジは、リアルタイム翻訳の進歩をもたらし、工場の機械が、製造された部品と人間の手を区別したり、自律走行車が、転がるボールとよちよち歩きの子供を区別したりできる能力を実現するだろう。
マイクロソフトは、AIに関する専門リソースの拡充を続けている。昨秋には、研究部門とエンジニアリング部門を横断して世界中から5,000名の社員を結集した組織Microsoft Artificial Intelligence and Research Group を設立した。また、最近では、OpenAI と新たなパートナーシップを結び、AIにフォーカスした Microsoft Ventures ファンドを創設した。
また、カナダのモントリオールに拠点を置き、自然言語理解において最も広範な研究を行なっている企業のひとつである Maluuba を買収し、深層学習の世界第一人者である Yoshua Bengio を迎えた。さらに今週、マイクロソフトは、Maluuba をいっそう拡大する指針、そして、カナダでのAI研究にさらに700万ドルを投資する計画を発表した。
AI がある未来
マイクロソフトは、AI が雇用を奪ってしまうという懸念を認識している。過去と同様、テクノロジの爆発的成長に、人々が取り残されてしまうリスクはある。総合的には、教育、イノベーション、テクノロジによる新しい雇用の創出のためのテクノロジ活用を進め、強力な生産性の向上を目指す必要がある。
ここで投げかけるべき質問は、人間の能力を強化し、成長を促進するためには、どのような設計原則を採用すべきかということだ。マイクロソフトは、倫理と設計の整合性が重要だと考え、AIの設計原則に関する自社の考え方を公開した。そこでは、透明性が高く、安全なインテリジェンスによってテクノロジを構築すべきこと、プライバシー保護には最高の水準を求めるべきこと、そして、すべての人を等しく尊重すべきことが強調されている。
基本的に、マイクロソフトはテクノロジに対して明るい見通しを持っている。また、人々の力というものも信じているという。この新しいテクノロジを活用し、以前は想像もできなかった方法で世界を変革していくのは人間の独創性と情熱だからだ。
【関連リンク】
・マイクロソフト(Microsoft)
・ボルボ・カーズ(Volvo Cars)
・日産(NISSAN)
・ビー・エム・ダブリュー(BMW)
・ハーマン・カードン(harman/kardon)
・ティッセンクルップ・エレべーター(thyssenkrupp Elevator)
・ロールス・ロイス・モーター・カーズ(Rolls-Royce Motor Cars)
・高知銀行(BANK OF KOCHI)
・ロックウェル・オートメーション(Rockwell Automation)
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