理化学研究所(理研)は、株式会社東芝、日本電気株式会社(NEC)、富士通株式会社と4月1日に革新知能統合研究センター(理研AIP)に連携センターをそれぞれ開設することを、3月9日に決定した。理研AIPにおける人工知能分野の先端技術の知見と、各社が保有する顧客基盤に基づく人工知能関連技術の開発経験を融合し、重要な社会課題に対応するための、基盤技術開発から社会実装までの一貫した研究に取り組むことで、社会イノベーションの創出を目指すという。
理研AIPでは2016年4月14日の設立以来、次世代人工知能基盤技術を開発するための研究体制を整備してきた。その一環として、研究開発成果の実用化加速のために産業界等との連携についても検討し、東芝、NEC、富士通とは、具体的な研究テーマや実施計画等の設定までの議論を重ねてきた。その結果、各社と連携センターを設置することで合意した。
これらの連携センターにおいて、各社が携わるソリューションを対象に、社会イノベーションの創出を目指して、人工知能技術の活用および次世代人工知能基盤技術の開発から社会実装までの一貫した研究を行うという。
- 所在地 ※各センターとも同じ
理研革新知能統合研究センター内 - 設置期間 ※各センターとも同じ
2017年4月1日から2022年3月31日まで - 各センター名称
理研AIP-東芝連携センター(RIKEN AIP-TOSHIBA Collaboration Center)
理研AIP-NEC連携センター(RIKEN AIP-NEC Collaboration Center)
理研AIP-富士通連携センター(RIKEN AIP-FUJITSU Collaboration Center)
理研AIP-東芝連携センター
東芝では、理研AIPにおける人工知能基盤技術を深耕すると共に、自社が保有する実データを用いた技術実証を行うことで、複雑化する製造工場・社会インフラにおける「革新的生産性を実現する自律学習AI(自ら学ぶAI)」の確立に向けて研究開発を推進していく。研究課題は以下の通り。
- プラント生産性向上
工場や発電所などのプラントでは、システムの大規模化・複雑化に伴い、不具合発生の原因究明が困難になるなど、人による管理の限界が問題となっている。そこで、大量かつ多様なデータに基づき、システムを自動分析・最適化する技術を開発することで、プラントの自律操業による生産性向上を目指す。 - 知的生産性向上
熟練技術者の減少に伴い、貴重なノウハウを継承できないことが問題となっている。そこで、大量の作業記録やデータから知識を抽出し、さらに、人が気付かなかった知識を発見する技術を開発することで、知的活動支援による生産性向上を目指す。 - モビリティ自動化・ロボット化
インフラ点検や物流で用いられるロボットなどの移動体の制御において、雑多な障害物や、雨・風などの外乱により安定して機能しないことがある。そこで、多様な環境変化にも堅牢に自律判断・動作する技術を開発することで、インフラ点検や物流の自動化を目指す。
理研AIP-NEC連携センター
NECでは、安全・安心な社会の実現に向けて、これを脅かす災害・事故・事件など頻度の低い事象を認識可能にする基盤技術や事故の予兆等を発見した際の人の意思決定に役立つ基盤技術の確立、および複数のAI間での円滑な自動交渉を支援する基盤技術の確立を目指している。同連携センターは、AIに関する基本原理の解明から実世界への応用まで連携して研究開発を行うことで、AI研究のさらなる加速と産業への貢献を推進する。研究課題は以下の通り。
- 少量の学習データで高精度を実現する学習技術の高度化
サーベイランス、防災、インフラ保全などのさまざまな分野において、多数のカメラなどの実世界からのセンサー情報から時々刻々大量のデータを収集することが可能になりつつある。しかし、異常データなど頻度が低く、データの蓄積が十分では無い場合や、大量のデータをすべて見切れずラベルが付けられない場合など、ラベルの付いた学習データが多くは集められないケースがある。そこで、このような少量の学習データに適用可能な機械学習技術の研究を実施するという。 - 未知状況での意思決定を支援する学習/AI技術の高度化
事故・事件などの非常時の意思決定や、会社経営における判断などは、過去データの十分な蓄積がなく人や組織の価値観・環境に依存した対応が求められるため、限られた情報からは最適解の導出は困難だ。このような問題に対し、限られた情報から人に提示するための妥当な仮説を自動生成し提示できる論理推論AIが有効だが、その実現のために必要となる、仮説生成・仮説検証の圧倒的高速化、に関する研究を実施する。 - 複数AI間の調整に関わる強化学習の理論的解析
社会インフラや流通システムなどがAIにより自律的に制御されるようになると、ある自律制御システムと別の自律制御システムの挙動が競合し、全体として正しく機能しなくなる場面の頻出が予想される。ここではAI同士が交渉を行う(自動交渉)という新たなプロセスが必要になる。そこで、自動交渉というテーマに対する理論的限界を明らかにするために、その限界値を得ることができるアルゴリズムについて研究を行う。
現在、人工知能分野の研究開発については、政府主導のもと、文部科学省・経済産業省・総務省が互いに連携して相乗効果を発揮する体制(以下、3省連携)で進められている。上記各課題についても、3省連携の枠組みに則り、3省研究機関と協調することで研究開発および社会実装を加速していくという。
理研-富士通連携センター
富士通では、環境の不確実な変化に対しても、的確な未来予測に基づいて人のより良い判断を支援する「想定外を想定するAI技術」の実現を研究テーマとした共同研究を行う「理研AIP-富士通連携センター」を設立する。研究テーマに関連する理研AIPのPI(Project Investigator:研究プロジェクト長)と富士通の研究者が複数参画し、複雑化する社会・経済的課題の解決に向けて、多様な社会経済的要因を考慮した未来の社会変化の可能性を予測できる力と、どのような変化に対しても人間の意図を的確に反映した対策を打てる力を持つAI(Human Centric AI)の研究開発を行う。
同連携センターの設置から3年目までを第1フェーズ、4年目から5年目を第2フェーズと位置づけて共同研究を推進する。第1フェーズでは、以下の3つのプロジェクトを推進する。
- 「ロバストな機械学習」:いかなる環境でも的確に未来を予測
環境変化に柔軟に対応し、的確な未来予測を行うための、ロバストな機械学習の研究開発に取り組む。従来の機械学習は、膨大なデータ量や質の高い完全データがなければ十分な予測能力を発揮できないという根本的課題がある。そのような課題を克服するため、少量のデ-タや不完全なデータであっても、的確に未来を予測できる機械学習の革新的基盤技術を開発する。また機械学習では、AIによる予測結果がどのような因果関係から導き出されたのかを明確に示すことができないことが、社会実装の促進に向けた大きな壁となっている。同プロジェクトでは、そのような課題に対し、因果推定・因果推論の新たな原理・技術の開発に取り組み、予測結果の説明能力の向上を目指す。具体的には、ものづくり分野やセキュリティ分野で、様々な現場のデータを用いた技術実証を行うという。
- 「シミュレーション・AI融合」:未知の環境の創出
「京」を始めとする世界トップクラスのスーパーコンピューターおよびそのアプリケーションの開発経験などを生かして、未知の環境やデータ取得が困難な環境をシミュレーションモデル化し、そこから得られたデータをAIに学習させることで、より高精度な未来予測を実現するAIの研究開発に取り組む。加えて、AIを活用することでシミュレーションモデルの妥当性や信頼性の向上を図り、シミュレーション結果の高速推定や自動解析、不十分なデータに基づくシミュレーション時の高精度な結果推定などを実現する。具体的な応用分野として、ものづくり分野やヘルスケア分野などを対象に、AIによって高度化されたシミュレーターの開発を目指す。
- 「大規模知識構造化」:より良い施策の立案
複雑な社会的・経済的課題に対して、AIを活用することで効果的な施策の立案を可能にするため、大規模知識構造化の研究開発に取り組む。AIで扱える状態に構造化されていない膨大な情報から、AIで活用できるように構造化して知識を抽出するための基盤技術開発を行う。さらに、複合的な課題の解決や業際・学際的なオープンイノベーションの実現に向け、各種の産業分野や学術分野に依存した知識の融合や転移(他分野への応用)を可能にする基盤技術の開発を行う。 具体的には、化学・創薬・食品などの業際や、ホワイトカラーの生産性向上および働き方改革に向けて応用することを目指す。
第2フェーズでは、これら3つの研究プロジェクトの研究成果を統合した基盤技術の研究開発を進め、「想定外を想定するAI」の実現を目指すという。
【関連リンク】
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