株式会社富士通研究所、国立大学法人九州大学マス・フォア・インダストリ研究所富士通ソーシャル数理共同研究部門と富士通株式会社は、人手によって数日かけて実施されてきた複雑な保育所入所選考において、最適な入所割り当てをわずか数秒で自動的に算出するAIを用いたマッチング技術を開発した。
保育所入所の選考業務では、自治体ごとに決めている申請者の優先順位や、きょうだいの同一保育所入所希望などの複雑な条件をもとに申請者の希望ができる限りかなう最適な割り当てを行うが、申請者全員が不満を持たない割り当てとして自動化することは困難だった。
そのため、これまで各自治体では、人手による試行錯誤により、全申請者の希望を調整しているが、自治体によってはきょうだい同一入所の希望を可能な限り調整することにより選考に数週間かかり、入所申請者への結果通知に時間を要したり、申請者の希望が通らずにきょうだいが別々の保育所に入所することになるなどが問題となっている。
今回開発した技術では、「きょうだいが同じ保育所になることを優先してほしい」「別々の保育所でも良いが、きょうだいの片方しか入れないのなら辞退する」といった複雑な希望条件の依存関係を、ゲーム理論と呼ばれる、利害が一致しない人々の関係を合理的に解決する数理手法によりモデル化することで、優先順位に沿って全員が可能な限り高い希望をかなえられる割り当て方を見つけることが可能となった。同技術を、埼玉県さいたま市の申請者約8,000人の匿名化データを用いて検証したところ、わずか数秒で最適な選考結果を算出することに成功した。
富士通では本技術を、自治体向け保育業務支援システム「MICJET MISALIO(ミックジェット ミサリオ) 子ども・子育て支援」のオプションサービスとして、2017年度中に提供すると共に、富士通のAI技術「FUJITSU Human Centric AI Zinrai(ジンライ)」の1つとして様々なマッチング問題への適用を目指す。
開発した技術
今回、人間の試行錯誤により判断している複雑なルールについて、複数の申請者が各自の希望の達成を望む関係をモデル化することにより、優先順位に沿って全員が可能な限り高い希望をかなえられる割り当て方を自動で判断できるマッチング技術を開発した。
同技術のモデル化に用いられているゲーム理論は、社会における利害が必ずしも一致しない人々の関係を合理的に解決する数理手法で、主に、経済学の分野で研究が進んでいる。この理論を保育所入所選考のマッチング問題に応用することで、すべてのルールを満たす割り当てパターンが複数存在する場合や、1つも存在しない場合にも、優先順位のより高い人の希望が優先されるような唯一の割り当てパターンを見つけ出すことに成功した。
例として、定員2名の2つの保育所(A、B)に、2組のきょうだい(合計4人)を割り当てることを考える。保育所の定員を考慮すると、入所割り当てパターンは6通りある(図1)。ここで、各子どもは保育所Bよりも保育所Aへの入所を希望しているが、きょうだいが別々の保育所に入るよりは二人同時に保育所Bに入ることを希望しているとする。このとき、子どもの優先順位を守りながら、この希望を最大限満たすことが入所判定のルールとなる。
例えば、子ども②にとっては、優先順位の高い子ども①によって自身の希望がかなわない場合は諦めるしかないが、優先順位の低い子ども③により希望がかなわない場合はルール違反となる。
このように、優先順位と希望を同時に考えて、ルールの違反がないかをチェックする必要がある。また、きょうだいの優先順位が離れているケースでは、ルールを満たす割り当てが複数得られる場合がある。ルールを満たす割り当て3、4のうち、優先順位の最も高い子ども①の希望がかなえられる割り当て3が最適であると考える。
図1は簡単な例だが、保育所や子どもの数が増えるとこの表が巨大になる。例えば、8,000人の子供がそれぞれ第5希望まで希望を出すと、5の8,000乗通りの組み合わせが出てくる。計算機を使っても、それらのすべてを一つずつ調べつくす処理を現実的な時間で終わらせることが困難になる。また、調べる順番を工夫することでルールを満たす割り当てを発見できたとしても、その割り当てよりも良い割り当てがないことを保証するのはさらに困難だ。
今回、ゲーム理論のモデルを用いることで、入所割り当て先に応じた利得(好ましさ)を点数化し、その点数に基づいて最適な割り当てパターンを見つける技術を開発した。これにより、優先順位の高い人の点数ができるかぎり高くなる唯一の割り当てパターンを高速に算出することを可能とした。
さらに、同技術を、富士通のAI技術「FUJITSU Human Centric AI Zinrai」の1つとして、保育所入所選考業務のみならず、組織内の均質な人材配置を行うマッチング、作業員のスケジュールマッチングなど、様々なマッチングへの適用を目指す。
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