株式会社富士通研究所は、東京海洋大学と共同で開発した、船の速度や燃料消費量など船舶性能の推定技術の実証実験を株式会社商船三井、宇部興産海運株式会社と実施した。
その結果、外航・内航の航路両方において誤差1.5%以下での船舶性能の推定が可能であることを実証した。同技術により、運用者は燃費を削減する航路を正確に予測して燃費削減につなげることが可能となる。
富士通株式会社は、同技術を位置情報を活用したクラウドサービス「FUJITSU Mobility Solution SPATIOWL(フジツウ モビリティ ソリューション スペーシオウル)」のメニューの一つとして搭載し2018年中のサービス提供を目指す。
背景
気象・海象によって変動する船の速度や燃料消費量など船舶性能を正確に把握できれば、航路上の気象・海象条件に応じて、燃費や所要時間の面で最適な航路を知るウェザールーティングが実現できる。例えば、最短経路より遠回りをしてでも波・風を避けた方が燃費の良くなる経路などを事前に知ることができる(図1)。
富士通研究所は、2016年5月に東京海洋大学様と共同で船舶性能の推定技術を開発した。同技術は、富士通のAI技術「FUJITSU Human Centric AI Zinrai(ジンライ)」を活用した、富士通研究所の高次元統計解析技術により高い推定精度を実現するものだ。

(水色は波が穏やかな海域、オレンジ色は波がやや高い海域、ピンク色は波が高い海域を表す)
同技術に対して、富士通研究所は、東京海洋大学様の小型練習船で収集した近海での運航データを用いた検証により、船舶性能を高精度に推定できることを確認している。しかし、同技術の実用化に向けて、より様々な気象・海象条件のもとで、実海域を実際の商船が運航したデータを用いて推定精度を検証する必要があった。
技術実証の内容
今回、東京海洋大学の技術支援により、商船三井、宇部興産海運の実運用中の商船が集めた運航データを用いて高次元統計解析技術に基づく船速、燃料消費量の予測を行い(図2)、実測値との誤差を検証した。
今回検証に使用された運航データは以下の通りだ。
- 商船三井
- 船種 : 外航船
- データ : 風向、風速、主機回転数、燃料消費量など30項目
- 期間 : 2015年10月12日から2015年12月13日
- 宇部興産海運
- 船種 : 内航船
- データ : 風向、風速、主機回転数、燃料消費量など14項目
- 期間 : 2016年7月29日から2016年8月22日

(水色の点は実測値を表す)
技術実証の方法と結果
検証に使用した運航データ全体からランダムに全体の9割分のサンプルデータを選択して学習用データとして利用し、残りのサンプルデータを予測用データとして利用して平均絶対誤差率を求めた。この誤差評価を10回繰り返し、それらの平均を実測値との推定誤差の結果とした。
なお、船速についての誤差評価を行う際は、船速以外のデータと船速データとの関係を学習し、その学習結果と船速以外のデータから船速を予測。燃料消費量についての誤差評価も同様に行った。
同技術実証の結果、推定誤差1.5%以下で船舶の性能を予測することが可能であることを確認した。
- 商船三井
- 船種 : 外航船
- 船速の精度(※1) : 1.4%
- 燃料消費量の精度(※2) : 0.8%
- 宇部興産海運
- 船種 : 内航船
- 船速の精度(※1) : 1.1%
- 燃料消費量の精度(※2) : 0.2%
船速および燃料消費量の実験結果の一部を図3および図4に示している。図3(a)および図4(a)は実測値と予測値の時系列を表しており、実測値と予測値がほぼ一致することから、予測精度が高いことが確認できる。
また、図3(b)および図4(b)は実測値と予測値の分布を表している。図に示されるように、赤線の近辺に分布するため、安定した予測精度を実現できていることが確認できる。


※1 船速の精度:1分ごとに実際の船速を計測したものと同技術で推定した船速の誤差の割合
※2 燃料消費量の精度:1航海中に実際に使われた燃料の量と同技術で推定した量の誤差の割合
【関連リンク】
・富士通研究所(FUJITSU LABORATORIES)
・富士通(FUJITSU)
・東京海洋大学(TUMSAT)
・商船三井(MOL)
・宇部興産海運(USL)
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技術・科学系ライター。修士(応用化学)。石油メーカー勤務を経て、2017年よりライターとして活動。科学雑誌などにも寄稿している。