株式会社富士通研究所は、少数のデータしか学習に使用できない場合でもディープラーニングによる物体検出を可能とするAI技術を開発した。
近年、様々な分野でAIによる作業の自動化に向けた取り組みが行われており、例えば、医療分野では、診療画像の分析に異常個所などの物体検出をAIで自動化することなどが望まれている。
診療画像から特定の被写体を切り出す物体検出は、ディープラーニングを用いることが一般的だが、精度を出すためには学習させるための数万枚規模の正解データ付き画像が必要になる。しかし、正解データは専門知識を持つ医師しか作成できないため、大量入手は困難だ。
今回、物体検出ニューラルネットワークが出力する推定位置を元画像に復元する技術を開発(特許出願済み)し、元の入力画像と復元画像の違いを評価することにより、精度よく物体位置が推定された正解データを大量に作成でき、物体検出の精度を向上させた。
開発した技術を、国立大学法人京都大学大学院医学研究科との共同研究で取り組んでいる、腎生検画像からの糸球体の検出に適用し、評価した結果、正解データ付き画像50枚と正解の無い画像450枚を使用した実験で、同数の正解付き画像のみを使用した従来の教師あり手法に比べ、見逃し率10%以下の条件下で2倍以上の精度向上が認められたという。
開発の背景
近年、様々な分野でAIによる作業の自動化への期待が高まっている。富士通研究所は、医療分野において京都大学大学院医学研究科と共同研究を行っており、取り組みの一つとしてAIによる腎臓病の診断支援の研究を進めている。
医療現場では、腎生検と呼ばれる、腎臓の断片を一部採取して顕微鏡で撮影した画像から血液のろ過機能を担う糸球体という組織の状態や数を確認する検査が、診断に使われている。
しかし、画像を拡大しながら目視で糸球体を探す作業にかかる手間や、専門家でも状態の判断にばらつきがあることが知られており、状態診断や糸球体数のカウントの正確な自動化が求められていた。
画像から糸球体候補を自動的に抽出するには、与えられた画像から糸球体の位置を特定する必要があり、そのための手法として、ディープラーニングを使った物体検出がよく知られている。
この学習方法には、画像と、画像に写っている物体の種類と位置の情報(正解データ)が大量に必要だが、正解データは、専門知識を持つ医師が作成する必要があるため大量に準備することが困難だった。
開発した技術
今回、少量の正解データ付き画像と、大量の正解データのない画像からディープニューラルネットワークの学習を行うことで画像の位置特定を可能とする、半教師あり学習による物体検出技術を開発した。
正解データ付き画像を増やすために、大量の画像に対してニューラルネットワークを用いて物体位置を推定させることで正解データを補う方法が考えられる。
しかし、従来技術では、少量の正解データで学習したニューラルネットワークに、実際の物体位置と正確に一致する場所を推定させることが困難であるため、不正確な推定によるデータが学習に加わることで、ますます精度が劣化してしまう。
そこで、今回、検出用ニューラルネットワークの推定結果を手掛かりに、元の画像を復元させる復元用ニューラルネットワークにより、出力された推定位置がどの程度正しいかを検証する技術を開発。間違った推定位置から復元された画像は、元画像と一致しないため、2つの画像を比較することで、推定位置の正しさを検証できるという。
このように推定と復元を大量の画像に対して繰り返し行い、正解データを増やしながら、徐々に正確な推定位置が出力される状態に近づけることで、精度を上げることを可能にした。
効果
京都大学大学院医学研究科との共同研究において、腎生検画像からの糸球体の検出に同技術を適用。正解データ付き画像50枚のみを用いて学習した従来の物体検出ニューラルネットワークと、これに加えて正解データのない画像450枚を活用した同技術を比較した。
その結果、人間と同等である見逃し率10%以下という条件下で、従来の2倍以上である27%の精度を達成。これは、1画像に平均22個含まれる糸球体に対し、前記の見逃し率で検出するために必要な検討箇所を77個の候補まで絞り込み、後処理のコストが削減されたことになる。
このような、精度向上と候補数の削減により、糸球体検出に基づいた、腎臓病全体の研究と診断システム開発の加速が期待される。
今後
京都大学大学院医学研究科との共同研究を通じて、今回行った糸球体検出を応用した、腎臓の定量的な評価手法の実現に向けた研究に取り組む予定だ。
また、同技術は、腎生検画像といった医療などの特定用途向けだけでなく、正解データ付き画像の少ない分野での物体検出に広く応用可能。
例えば、製造ラインの画像を使った異物の検出、インフラ設備の各種センサーによる診断画像からの異常個所の発見、建築図面からの使用部材のリストアップなどへ適用先拡大を想定し、AI技術をAPIとして提供する富士通株式会社の 「Zinraiプラットフォームサービス」 を支える学習モデル構築技術として、2018年度中の導入を目指す。
【関連リンク】
・富士通研究所(FUJITSU LABORATORIES)
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