NECは、5月9~11日に東京ビッグサイトで開催されたIT専門展「2018 Japan IT Week 春」の「第7回IoT/M2M展 春」に出展。同社のAI技術群「NEC the WISE」を活用したソリューションを紹介した。
良品データの学習のみで不良品を検出、「NEC Advanced Analytics – RAPID機械学習」を強化
「NEC Advanced Analytics – RAPID機械学習」(以下、RAPID機械学習)は、ディープラーニングを搭載した機械学習用のソフトウェアだ。それぞれの用途に特化した、次の3つの製品ラインナップがある。
- 画像解析版~ヒトの判断を支援する画像分類、用途:製品の外観検査、映像監視など
- マッチング版~業務を効率化する人材マッチング版、用途:人材仲介業、企業の採用・人事業務など
- 時系列数値解析版~時系列数値のデータ分類/回帰機能、用途:機器の予防保守
NECはこのほど、「画像解析版」の機能を強化。2018年6月4日より、「RAPID機械学習V2.2画像解析版」として販売を開始する(価格は税別375万円から)。
従来版と大きく違うのは、良品のデータだけで不良品を見つける、「ワンクラス(OneClass)分類アルゴリズム」(※)という技術が使われていることだ。
※1種類の画像データのみを学習させることで、2種類の画像データの分類を行う機能。良品データのみで学習し、異常箇所を検出するモデルを生成する。(NECによる説明)
ヒトの脳を模倣したAIの仕組みであるディープラーニングでは、膨大なデータを学習させることで、その効果を発揮する。しかし、工場の現場などでは、不良品(異常)のサンプルは正常より少ないため、良品(正常)のデータだけで予測モデルがつくれる技術が求められている。
実際に、「RAPID機械学習V2.2画像解析版」をWeb上で操作しながら、担当員の方に説明していただいた(上の写真)。なお、WebGUIは6月4日に発売となるV2.2から新たに利用できるようになる。
「ファイル」、「ラベル」、「前処理」、「学習」、「評価」と、機械学習に必要なプロセスが表示されている。
「ワンクラス」のアルゴリズムで解析を行う場合は、不良品のデータを学習させる必要がないため、手間のかかる「前処理」のプロセスが要らないことがポイントだ。ただし、作成した学習モデルを「評価」する際には、不良品のデータも読み込ませ、精度を確かめるという。
ディープラーニングは、AIが自らそのデータの特徴量を抽出する。たとえば「イチゴ」であれば、「赤い」や「つぶつぶがある」などの情報を教えなくても、それが「イチゴ」であるということだけ教えれば(ラベリングすれば)、こまかなイチゴの特徴を自ら見つけ出してくるのだ。
しかし、AIが見つけてきたその特徴をヒトが理解できないことが、ディープラーニングでは問題となる。
今回のように製品の不良品をチェックするような場合では、AIが不良品とした画像を現場の担当者が見て、どこに不良があるのかわからなければ、判断ができない。
しかし、「RAPID機械学習V2.2画像解析版」には、それがわかる仕組みもあるという。上の写真にあるように、AIが認識した不良品の箇所を可視化してくれるのだ(AIが赤く示した部分は、ヒトが見ても傷だとわかる)。
「RAPID機械学習画像解析版」は、このような製品の品質チェックだけでなく、道路の舗装状態の診断にも応用が可能。福田道路株式会社が導入し、路面の維持管理に活かしているという(「ワンクラス」導入前の事例)。
クルマに乗り、ハンディのカメラで道路の画像を撮影(上の写真)。その静止画像をディープラーニングで学習することで、「わだち掘れ」や「ひび割れ」などの状態を検出するのだ。さらにGPS信号と連動することで、その状態を地図上に可視化する。
なお、「RAPID機械学習マッチング版」も「V2.2」としてバージョンアップし、2018年5月21日から発売予定だ(税別375万円から)。
「インバリアント分析技術」で、設備の故障を未然に防ぐ
「NEC Advanced Analytics – インバリアント分析」(以下、インバリアント分析)は、工場の設備などからセンサで取得したリアルタイムのデータを自動学習し、異常予兆を検知するAIの技術。
さきほどの製品の品質チェックと同様、設備機械も故障することが少ないため、「異常データ」を必要としないAIの技術が求められている。
インバリアント(invariant)とは、「不変関係」という意味だ。大量のセンサ間に存在する「不変関係」を自動抽出し、設備の”いつもの状態”を自動モデル化。その”いつもの状態”と違う動きをした設備に「異常」があるとして検知するため、わざわざ「異常データ」を集める必要がない。そもそも、従来のAIに必要な、「学習させる」というプロセスがいらないのだ。
ヒトには見えないセンサ同士の関連性を抽出するため、専門家でも気づきにくい関係性を見つけたり、過去事例のない未知の障害も検知したりできるという。
上の写真は、工場内を可視化した図だ。故障の予兆があると考えられる設備が赤い円筒で表示されている。青色の丸は”いつもの状態”であることを示しており、それらをつなぐ線は、互いに「不変関係」にあることを示している。
なお、「不変関係」は「流量」「電圧」「振動」「圧力」「温度」などさまざまな種類のセンサデータを統合してつくられる。設備の種類やメーカーも問わないという。
すでに電力プラントや製造業、石油化学業などで300件以上の事例がある。中国電力島根原子力発電所では、さまざまな設備に3,500個のセンサを設置。稼働状態を「インバリアント分析」によって管理し、予兆検知を実現しているという。
また、航空機や宇宙船のメーカーである米ロッキード・マーティン社は、NECの「インバリアント分析」を昨年より導入。宇宙の気候が電子機器に与える影響などを「インバリアント分析」で検知し、製品開発に活かすため検証を進めているという。
なお、「インバリアント分析」をパッケージ化した製品が、4月23日より発売されている。
NECの顔認証クラウドサービス「NeoFace Cloud」
NECの顔認識向けAIエンジン「NeoFace」。同社は「NeoFace」と画像データを保存するデータベースの2つを、クラウドサービス「NeoFace Cloud」として提供している。
コンビニやスーパーでのレジのいらない仕組みなど、店舗の自動化を進めるには「顧客が誰か」を認識する必要があるため、顔認識のソリューションが使われることが増えてきた。
「NeoFace Cloud」は、そのようなサービスを提供したい店舗や商店街の運営者が、「顔認識」を簡単に導入できる仕組みだ。
顔認識の場合、そのデータはヒトの顔という個人情報であるため、セキュリティを徹底しなければならない。そのためのシステムを事業者が自前で用意し、運用するのは大変だ。
しかし、「NeoFace Cloud」ではデータベースもセットで提供されるため、そのコストを抑えることができる。
上の写真にあるのは、スマホアプリによるスタンプラリーの画面だ(本年4月に広島市で開催されたアーバンスポーツのイベント「FISE Hiroshima 2018」で実際に使用された)。スマホのカメラで「自撮り」すると、自動的にNECのデータベースに画像が保存される。
一度認識してしまえば、さまざまなポイントで個人が特定され、パーソナルなサービスを受けたり、認証を簡単に済ませたりすることができる。
クラウドを使うメリットの一つは、顧客の動線がわかることだ。たとえば、ある顧客がスタンプラリーで商店街のA地点からB地点へ移動するような場合に、その動線のデータもクラウドに蓄積される。「顧客がどのような動き方をしているのか」、その動線データを事業者に提供するサービスも、「NeoFace Cloud」には含まれているのだ。
なお、NECは「NeoFace Cloud」からデータベースエンジン(PostgreSQLとMySQL)だけを切り離し、Database as a Serviceとしても提供している。
【関連リンク】
・「AI技術群~NEC the WISE~」
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技術・科学系ライター。修士(応用化学)。石油メーカー勤務を経て、2017年よりライターとして活動。科学雑誌などにも寄稿している。