本稿は、Microsoft Asia プレジデントのラルフ ハウプター (Ralph Haupter) 氏が同社のブログより発信した内容である。
人工知能 (AI) が普及することで、企業の生産性向上とイノベーションの加速を促し、社会における最も難しく長期的な課題である、疾病、飢饉、気候変動、自然災害の解決につながることが期待されている。
既にアジア太平洋地域の多くの組織において、AI は明確な経済的な恩恵をもたらしている。
たとえば、グローバルな海運業大手 OOCL は、AI を自社のビジネスに適用することで年間 1,000 万ドルのコスト削減を実現している。また、インドの Apollo Hospitals は患者における心臓病の発生の予測のために AI を活用している。
AI がもたらす恩恵について驚嘆するのは当然として、その破壊的影響、特に雇用の減少に対する影響についても考慮しなければならない。実際、アジア太平洋地域の CEO や政府機関のリーダーとの議論で常に挙げられる重要議題は AI のワークフォースに対する影響だ。
AI が作る未来における雇用
まず大局的視点から見てみよう。いかなる産業の革新においても大規模な破壊的変化が課題になる。
250 年間にわたるテクノロジの変化から明らかになったことは、テクノロジが雇用の創出、減少、進化に大きな影響を与えるということだ。
たとえば、私が初めて就職した時、オフィスにはたくさんのタイピストがいることが通常だった。明らかに、パーソナルコンピューティングの普及により今日のオフィスではタイピストは必要なくなった。AI の発展も同様に雇用の形を変えていくだろう。
最近、マイクロソフトは大手テクノロジアドバイザリ企業である IDC の協力により、アジア太平洋地域におけるデジタルトランスフォーメーションの影響を評価した。
“Unlocking the Economic Impact of Digital Transformation in Asia Pacific(アジア太平洋地域のデジタルトランスフォーメーションの経済的影響を最大化する)” というタイトルの報告書では、アジア太平洋地域の 15 の経済圏の 1,560 人のビジネスと IT のリーダーへの調査を行っている。
これにより、今後 3 年間にアジア太平洋地域の雇用の 85 パーセントが変革の影響を受けることが示されている(トップ写真)。
調査結果をさらに詳しく見てみると、回答者は雇用の 50% 以上が新たなポジションに再展開されるか、デジタルトランスフォーメーションに向けて再教育されることになると回答している。
同調査で興味深い点は、雇用の 26% がデジタルトランスフォーメーションによって創出されることで、アウトソースまたは自動化されるであろう 27% の雇用が相殺されているということだ。
すなわち、ワークフォースに対する全体的影響は概ね中立的だ。
企業の組織作り、人々の求職の方法、求められるスキルが劇的に変化していくという明らかな兆候がある。おそらく、今後 10 年間にこの変化はさらに加速していくだろう。
AI による仕事の特性の変化が続く中で、人々が将来の職業に向けた準備を行い、企業が成功のために必要な人材にアクセスできるようにするために、私たちは教育、スキル、研修について再考していく必要がある。
そして、従来型の雇用モデルが変化する中で、新しい働き方に備えて法的枠組みを最新化し、労働者への適切な保護と社会的セーフティネットを提供していく必要がある。
共により良い未来を創る
AIがもたらすこの難題を政府そして企業のリーダーが理解するために、プレジデント兼最高法務責任者のブラッド スミス (Brad Smith) とMicrosoft AI and Research Group担当 エグゼクティブバイスプレジデントのハリー シャム (Harry Shum) の監修により最近出版された “Future Computed:AIとその社会における役割” を一読されることをおすすめする。
同書は、AI とその仕事と雇用への影響について以下の 3 つの結論を述べている。
第一に、AI の競争で最も有利になる組織や国家は初期導入者だ。その理由は単純だ。
AI は知性が求められるあらゆる領域で有用であり、ほぼすべての人間の営みにおいて生産性を向上してくれ、経済成長をもたらすからだ。簡単に言えば、新たな雇用や経済成長はこのテクノロジを取り入れる者にもたらされるのであって、それを拒絶する者にもたらされるのではない。
第二に、AI が多くの点で日々の生活を向上し、重大な社会的問題の解決を支援してくれると考えられる一方で、それがもたらす課題を無批判に見ることはできない。
AI の展開と同様に重要なのは、強力な倫理基準、法制度の改定、新スキルの教育、さらには、労働市場の改革などによって、社会とワークフォースを差し迫る変化に対して準備させることだ。
この新たなテクノロジを最大限に活用するためには、これらの要素すべてが必要だ。
第三に、AI の恩恵を最大化し、その好ましくない影響を最小化するためには、テクノロジ企業、そして、官民の組織の共同責任による対応が必要だ。マイクロソフトは、AI の民主化が必要と考えている。
これは、マイクロソフト創業時における、あらゆる人が PC にアクセスできるようになるべきという信念と同様だ。
コンピュータービジョン、音声認識、推論といったマイクロソフトが提供する AI の構成要素があらゆる人に提供され、独自のAIソリューションを構築可能にすべきであると考えている。
AI は少数の企業のみによってコントロールされるべきではない。AI の未来は、AI が社会と経済にもたらす恩恵についてのビジョン、そして、課題への対応方法を理解しているあらゆる人によって構築されるべきだ。
AI の未来は明るくなることも暗くなることもあり得る。私は、破壊的変化は常に起こるものであり、それに対応していくことを当然ととらえるべきと考えている。
そして、急速に変化する AI の未来に適合するためには、労働者、企業、政府といったあらゆる利害関係者が、より多くの時間をかけて互いの意見に耳を傾け、共に新たな知識とスキルを継続的に学んでいく必要がある。
【関連リンク】
・マイクロソフト(Microsoft)
無料メルマガ会員に登録しませんか?
IoTに関する様々な情報を取材し、皆様にお届けいたします。