アクセンチュアの調査レポートによると、大半のメーカーが、自社の製品やサービスの質を向上させるために、人工知能(AI)の活用に取り組んでいることが分かったという。
アクセンチュアは、世界6カ国(日本、中国、フランス、ドイツ、イタリア、米国)、6業界(自動車、トラック、自動車部品、産業/電気機器、重機、耐久消費財)のメーカー500社へ調査。
その結果、企業が基幹業務、従業員や顧客の体験、最終的にはビジネスモデルを変革してくためには、AIとモバイル コンピューティングやアナリティクスなどを組み合わせることがカギになることが分かったという。
アクセンチュアでは、こうした変革へのアクションプランとして「インダストリーX.0(エックス・ポイント・ゼロ)」戦略の重要性を提唱しており、企業はインダストリーX.0を推進することでAIによる価値創出を加速できるとしている。
しかし、同レポートによると、アナリティクスや業界ノウハウを用いながら、先進技術と人の創造力を組み合わせる能力、いわゆる“アプライド・インテリジェンス”を活用し、製品のライフサイクル全体にわたって大規模にAIを活用している企業は、ごく少数であることが分かったという。
例えば、調査した企業の98%が、AIを活用して製品の改善に着手し始めている一方で、AI活用に関する全体ビジョンを定めている企業の割合は16%に留まった。
また、AIが組み込まれた製品に開発資源を投入している割合はわずか5%で、AIソリューションを大規模に活用している割合はわずか2%だった。
同レポートでは、AI活用を試みる際に企業が直面する課題も明らかにしている。挙げられた課題は、回答数の多い順に「データ品質」(51%)、「データ セキュリティとサイバー セキュリティ」(45%)、「AI組み込み型ソリューションを“買うか作るか”の判断」(45%)、「データ共有と知的財産の保護」(40%)だった。
アクセンチュアのインダストリアル部門におけるグローバル統括で、シニア・マネジング・ディレクターのエリック・シェイファー(Eric Schaeffer)氏は次のように述べている。
「AIを活用して産業向け製品を再定義する取り組みはまだ始まったばかりで、状況を把握することは容易ではありません。しかし、今回調査した企業におけるAI活用の成功例を見る限り、こうした取り組みは大きな効果が期待できるものであり、産業分野での強力なビジネスケースになることが分かります。」
同レポートでは、企業がAIと他のデジタル技術を組み合わせて製品を再定義することによる効果を紹介。例えば、アクセンチュアの別の調査によると、産業機器メーカーはAIを最適に活用することで、時価総額を25%向上できることが分かっているという。
AI活用のステップ
アクセンチュアは、企業がAI活用の効果を創出するためには、次の4つの段階を踏む必要があるとしている。
- 製品の再定義においてAIがもたらす力に確信を持ち、自社の信念を表明する
- 既存製品にAIを組み込むためのビジョンを構築する
- AIを組み込んだ製品の再定義に向けた経営資源を投入する
- 製品の再定義に向けてビジョンや構想を大規模に実行する
同レポートによって、調査した企業を業界とAI活用段階で分類することで、業界によってAI活用の進捗度が異なることが明らかになったという。
例えば、自動車メーカーは、AI構想を積極的に実行している企業の割合が高く、9%が第3段階に達しており、第4段階まで進んでいる企業は5%存在する。
その一方、耐久消費財メーカーと産業機器/重機メーカーについて、第3段階に達している企業はそれぞれ7%と3%で、第4段階の企業はいずれも1%に留まっている。
業界別で見たAI活用の進捗度
今回の調査によって、16%の企業が、AIを活用して製品を再定義する方法の構想段階にまで達していることが分かっているという。
こうした「ビジョンの構築」の段階に達している企業は、AIを最大限活用するために必要なデータを取得、処理、保護するための投資戦略やエコシステム戦略を策定しているほか、重点を置くべき領域についても仔細に分析している。
このような先見性のある企業のうち82%が、自社の価値を高めるカギとして、「顧客ロイヤリティの向上」と「製品やサービスの使用状況から深い洞察を得ること」を挙げている。
また、同じく82%が、AI活用による顧客へのメリットとして、「安全性の向上」と「ソリューションとサービスのスマート化」を挙げている。
AI構想に多くの経営資源を投入している企業の割合は5%で、そのほとんどがAIの大規模な導入において必要となるIT機能とスキルの構築に注力しているという。
このうち91%が、「アナリティクスとシステム統合のスキルが必要不可欠である」と回答し、64%が「AIの導入によってビジネスモデルが変わる」と回答している。
第4段階の「大規模な実行」に達している企業の割合は2%だった。こうした企業は、エコシステム パートナーと緊密に連携し、顧客への価値提案の一環として、将来にわたって他のデジタル技術と組み合わせるAIの要素を細かく見極めることで、他社との差別化を図っているという。
第4段階に達している企業は、主なAIソリューションの中でも、コンピュータビジョン(画像や映像の認識技術)(73%)、ディープラーニング(64%)、RPA(ロボティクス プロセス オートメーション)(64%)を活用する予定だと回答している。
アクセンチュアのインダストリーX.0調査部門を統括するマネジング・ディレクターのラーガブ・ナルサライ(Raghav Narsalay)氏は次のように述べている。
「今回の調査結果によって、戦略を包括的に練ることと、AIを有効活用することの間に、強い相関関係があることが分かりました。しかし、調査対象となった企業の4分の3が、AI活用の実験段階に留まっており、場当たり的な取り組みを行っている状況です。アクセンチュアでは、近いうちにこうした状況が様変わりし、AIを用いた製品の再定義が本格化すると考えています。」
今回の調査により、業界によって取り組み方に違いがあることもわかったという。例えば、自動車業界では、65%の企業が「収益源の転換」を最優先事項に挙げている。
一方、産業機器業界では、メーカーの分野によって最優先事項に違いがあり、重機メーカーは「製品ライフサイクルを踏まえた販売・マーケティング戦略」(57%)を挙げたのに対し、産業機器/電気機器メーカーは「AI活用によるイノベーション構造の変化への対応」(42%)を挙げている。
【関連リンク】
・アクセンチュア(Accenture)
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