「AI技術はサッカーの可能性をひろげてくれる」 ―白石尚久氏インタビュー

目標は、監督としてUEFAチャンピオンズリーグ優勝

白石: さらには、「加速スピードと減速スピードが同じだから、とても働く選手だ」、「加速はよくても減速は悪いこの選手は、スペースにむかって走っているだけで、ボールを失うと歩きがちだ」といった選手の傾向も分析をすればわかります。

また、コンピュータビジョンやとディープラーニングなどの技術を使えば、選手のプレーの「視野」も推測できるはずです。そうした様々なデータを用いることで、選手の将来を予測することができます。

たとえば、24歳の選手Aと元日本代表かつブンデスリーガ(ドイツのプロリーグ)でプレー経験のある30歳の選手Bを分析し、同じレベルの数値が出ていれば、選手Aは将来、日本代表になり、海外で活躍できる可能性があるかもしれない、と予測できます。「その根拠は?」と聞かれれば、様々な数値や映像からディープラーニングを中心とする技術を活用し、数値を示す時代が来ると予想されます。

一方、選手のメンタルは数値化できません。そこは選手本人や分析官、監督・コーチ、代理人などさまざまな人にヒアリングを行い、異なる視点から情報を分析します。

小泉: あらゆる情報がデジタルデータ化できるIoT時代ですから、予測の可能性はどんどん広がりそうですね。

白石: 本田選手の分析官としてミランにいる時に彼らスタッフが言っていたのは、「フィットネスでは数値しか信用しない」ということです。「なるほど」と思いました。

今、「スポーツサイエンス」の分野では、バイタルデータを取得する技術が向上してきたこともあり、データをもとに選手のフィットネスを分析するノウハウがかなり充実してきています。

たとえば、こんな例があります。選手のフィットネスの数値を見る限りでは、もう体力の限界をむかえている。でも、なぜかまだ走れている。

身体の中の「筋肉グリコーゲン」(運動のエネルギーとなる成分)のうち70%が55分~60分で枯渇するはずなのに、どうして後半でもこれだけ走ることができるのか。その能力は、どうやったら伸ばせるのか。スポーツサイエンスでは分析することが可能です。

また、試合の映像データを分析する「ビデオアナリシス」もサッカーにおける重要な領域です。これら2つが、サッカーにおける主流の分析領域です。しかし、今はもうその時代ではないと私は考えています。フィットネスだけでもだめ、映像分析だけでもだめで、それらをつなげるテクノロジーとしてAI技術のような先端技術が必要です。

「AIはサッカーの可能性をひろげてくれる」【白石尚久氏インタビュー】
白石尚久氏:SBVエクセルシオール(オランダ1部)アシスタントコーチ/テクノロジーストラテジスト。高校3年生から本格的にサッカーを始め、大学在学中にアルゼンチンに渡りサッカーを学ぶ。大学卒業後はフランスなどでプレーし、27歳で現役を引退。その後、海外のトップクラブでサッカーのコーチングを学び、2008年にはFCバルセロナ(スペイン)のスクールコーチに就任する。2010年からCEサン・ガブリエル(スペイン)のユースチームでコーチや監督を歴任。2012年には同クラブ女子チームの監督を務め、欧州1部リーグでは男女両リーグを通じて初のアジア人監督となる。2017年3月から本田圭佑選手の専属分析官を務め、2018年6月からはSBVエクセルシオール(オランダ1部)のアシスタントコーチ/テクノロジーストラテジストに就任。著書に『何かをやるのに遅いということは決してない。』がある。

小泉: 選手にとっては、どれくらいのテクノロジーの理解が必要でしょうか?

白石: 選手には、テクノロジーの理解は求めません。なぜなら、多くの情報を与えすぎると足が止まってしまうからです。選手に見せるのは映像のみです。こまかいことを説明しても意味がありませんし、そもそも考えながら運動はできないからです。

サッカーでは、「眼で見た瞬間に体が動く」、この瞬間のスピードが勝負です。そのスピードを向上させるためのトレーニングを、選手が知らないところで僕らはテクノロジーを使って開発していくわけです。「なぜそれをやるのか?」と聞かれれば、もちろん答えます。映像を見せながら「こういう理由だ」と伝えます。

ただし、余計な情報は入れません。大事なことは、選手の目線で選手と対話しながら回答を引き出してあげることです。「質問や指示の方法」を変えるのです。そうじゃないと、ヒトが育ちません。企業でも同じだと思います。

小泉: 白石さんの今後の目標について教えていただけますか。

白石: まずはヨーロッパ1部リーグの監督、そして2020年には「次世代の監督」になることです。「次世代の監督」とは何かというと、AIがはじき出した知見をアシスタントコーチに把握させ、その知見と現場の状況をもとにリアルタイムに判断できる監督のことです。

小泉: 監督は直接、分析の結果を見ないのですか?

白石: そうです。アシスタントコーチにiPadを持たせ、私は「生の試合」を見ます。試合は生きているものですから。2020年以降、5Gが実現すると、試合の状況をAI技術を活用してリアルタイムに分析できると思います。通信スピードがサッカーの試合のスピード感に対応できるかが問題ですが、映像をリアルタイムで解析して10秒後に状況がどう変わるかを予測するアルゴリズムを開発できるなら、かなり使えると思います。

2020年に、そうしたAI技術や5Gなどの最先端のテクノロジーの活用をビジョンにかかげるチームに、私は「次世代の監督」として就任したい。しかも、そのテクノロジーは「メイドインジャパン」のものでやりたいと考えています。

いま私が所属するSBVエクセルシオールではSports Technology Lab(※)という日本の企業と共同でディープラーニングを活用した新しい分析研究も進めています。そういったテクノロジーを武器に戦っていきたいですね。

その次は欧州の1部リーグの監督。そして、ゆくゆくはビッグクラブの監督になり、チャンピオンズリーグで優勝することが目標です。

小泉: 楽しみにしています。貴重なお話をどうもありがとうございました。

(※)株式会社博報堂DYホールディングスと株式会社博報堂DYメディアパートナーズが2018年11月に共同で設立。ディープラーニング技術を有する株式会社Preferred Networksとの共同で、革新的なスポーツアナリティクスソリューションの開発を進めている。

【関連リンク】
白石尚久 – アミューズ オフィシャル ウェブサイト

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