実装へと進むAI社会 ーTHE AI 3rdイベントレポート

「実証実験」から「実装」へと進むAI

2月13日、株式会社レッジが主催する大型AIカンファレンスである「THE AI 3rd」が虎ノ門ヒルズにて開催された。

本カンファレンスは副題を「AI時代の適者生存 生まれ変わるために”今”すべきこと」とし、実証実験フェーズを終え、AIを本格的にビジネスへ実装をする上での課題や必要な視点が論じられた。

ベンダー側の講演だけでなく、現実的な活用事例をアピールするスピーカーも多く、AIの開発・ビジネス応用の活況さを感じるカンファレンスだった。内容を一部紹介するともに、AIを活用したビジネスの現状に関して考察していきたい。

AIをビジネス活用する上でのアイデアの重要性

筆者の参加した講演の中から、2つの講演の内容を紹介したい。

キャンバスは無限大のリアル空間~ Design AI ~

登壇者:
フューチャー株式会社 Strategic AI Group 貞光 九月 氏
ライブリッツ株式会社 代表取締役 村澤 清彰 氏

AI、IoTをスポーツコンサルティングに応用するというアイデアのもと、プロ野球での事例が紹介された。

投手・走者・打者・審判・捕手・守備など、試合全体から収集したビックデータをチーム戦略や選手のトレーニング方法に役立てている。既に複数の球団に導入され、6年間で合計5回の日本一達成という結果を出しているという。

ウェアラブルデバイスから取得した選手のデータとも掛け合わせることで、さらなるトレーニングの効率向上も可能だ。

ベンダー企業、ユーザー企業それぞれから見たAIプロジェクト

登壇者:
富士通クラウドテクノロジーズ株式会社 ビジネスデザイン本部 データデザイン部 シニアマネージャー 西尾 敬広 氏
ライオン株式会社 研究開発本部 イノベーションラボ 主任研究員 石田 和裕 氏

本講演では口臭ケアサポートアプリ「RePERO」が紹介された。

生活者の約7割が既存の口臭ケアに不安を感じているという調査結果から、実際の口臭レベルを見える化することで口臭ケアへの新たな市場創出を狙い、開発を開始したという。

このアプリでは、口臭と舌の汚れの相関関係に着目し、舌の写真を撮影し画像認識技術で分析することで利用者の口臭レベルを判定することができる。アプリでの判定結果が、利用者の口臭ケア製品購入につながるなど、一定の成果を得ている。

 

これら2つの事例のように実証実験のフェーズから、実際に成果を出す段階に到達した事例が増えてきている。

どちらの事例にも共有することは、AIやIoTを導入し得たデータを活用する中にユニークなアイデアがあったことである。

「スポーツにビックデータ解析を導入してプレイやコーチングを革新する」「口臭と舌の汚れの相関関係から口臭レベルを判定し、自社製品の売り上げにつなげる」といったものだ。

AIのビジネスへの応用には、課題をあぶり出し、AIやIoTをツールとしてアイデアに掛け合わせることが重要となる。

AIの社会実装に向けた課題

本カンファレンス全体を通して、現状のAIのビジネス実装における課題も述べられた。課題は様々な角度から語られたが、これらは以下の3点に集約されると考える。

AIの「自己目的化」

AIを導入すること自体が目的とされるケースが増えている。

他の手段のほうがより簡単に解決できることに、無理にAIを使用しようとするのは本末転倒だ。

ビジネス上の課題は、漠然としていてどこに問題があるかを突き止めるのが困難であることが多い。未知の課題に対して、最もシンプルな解決策を考えていくことが必要な中、理解のないままAIを活用しようとすることは危険である。

「AI人材」の変化と不足

AIの技術自体はコモディティ化が進行している。

オープンソースのものが増え、エンジニアであれば誰でもAIに触れられるようになった。こうした状況下で、今求められているのは、「開発者」と「ユーザー」の間を埋める発想をもった人材である。

この人材の必要条件は、テクノロジーのできることと限界を現在および少し未来を俯瞰して語れるリテラシーと、現業への深い知見だ。これらを併せ持つ人材の供給が市場に全く追いついていない。

ライオン株式会社の講演では、開発をベンダーに丸投げするのではなく、ベンダーと共同して開発自体にコミットすることが最も効率的な人材育成方法であることも指摘された。

実証実験を捉える視点

最終的な課題は、開発結果が実際に使用されるかどうかにある。

使用されず、価値を生み出せないと開発期間・費用を無駄にすることになる。サービスが利用されるシーンの検証を入念に行い、実証実験の確度をより高めていくことが重要である。

一方、実証実験での結果が予想と異なった場合も、結果を柔軟に捉える必要がある。集めたデータを転移学習に利用可能だったり、他者には有用なノウハウである可能性があるからだ。

事例としては、株式会社電通の講演、「AIの「乗りこなし方」:これからのAI活用に必要な視点」でも触れられた、AIコピーライター「AICO」を挙げたい。

当初は社内向けのコピーライティング工数削減ツールとして開発され、現在も使用されている。しかし、クリエーターのスキルを別分野に展開することを意図して、他社からの問い合わせが寄せられているという。

着目した課題の解決ができても、できなくても、実験結果を周知していくことが、完全な失敗の回避につながる。

これからのテクノロジー人材と生存戦略はどうあるべきか

ガートナーのハイプサイクルでは、ディープラーニングは幻滅期に入っている。

今回のカンファレンスで、AIよってビジネスを根本から変革するようなブレイクスルーは、まだ起きていないと感じた。過度な期待と実証実験が一段落した現在、事業における“ダーウィンの海”を越えられるかどうかが試されているといえるだろう。

一方で、技術としてのAIのコモディティ化は進み、テクノロジーだけを知っていて、ビジネスに応用ができない人材や企業の優位性はなくなっていくと予想される。

自社外と組んで開発を進めるとしても、双方に「開発結果からビジネスをどう変えるか」という視点をもっているかどうかは重要となるだろう。

常に新しいテクノロジーはビジネスを変革していく。エンジニアだけでなく、経営者などのビジネスサイドの人間もテクノロジーを熟知し、広い視野から戦略を描くことが絶対必要条件となるだろう。