シミュレーションを行うことで、設備増強が不要となるケーススタディ
通常、設備2がボトルネックで、待ち時間が多いから設備2を能力増強しましょうとなるのですが、これは、乱暴なやり方です。一方でこの情報だけ見ると設備2の能力増強をしましょうと言えば納得してしまいます。
しかし実は設備2を増強しなくても、この後ろのラインがストップしている時間が問題なので、中間在庫を増やしてあげれば、生産能力だけはあげることができます。
加工時間、故障率、一時間当たりの生産数などわかっている数字があればあるほど、ここには細かく数字を入れていけます。コンベアのバッファー能力なども入れて10時間動かすと、これで実際に571個しか作れないことが分かります。こんな簡単なラインでも人間では計算できません。

例えば一旦10個にしてみます。そうすると639個作れるので、中間在庫を増やすだけだと、設備2をフル稼働させている状態でのラインの最大生産量です。

逆に639個よりも作りたいという目標を課せられたら設備2をいじるしかなくなります。
最大値がこれで分かりましたが、本当に知りたいのは630個ぴったり作れ、かつ中間の在庫が最小なものです。そこで最小計算をする際、GAというアルゴリズムで計算し、最適な値を計算しています。
小泉: こんな計算ができるなら、投資対効果も最大化できやすそうですね。

右:IoTNEWS 八子知礼
天野: ところが、実際の工場の場合、設備1課、2課、3課、4課、5課と異なる課がそれぞれでラインを管理しています。自分がもし製造3課の課長で、故障が起きる機械を使っているとします。そうすると、当然故障率を改善することに予算つけることになりますよね。
しかし、先ほどのシミュレーションでも見た通り、実際この工場は、機械をいくら良くしても、スループットは変わりません。こういった問題を切り分けず、ロボット化したい、自動化したいという工場が大半です。
先ほど自動化はなくてもいいというお話しをしましたが、このシミュレーションは、人の作業でも可能です。人が全部作っていたとしても、先ほどのパラメーターは人の能力で入れていけばいいだけです。作業者のレベルも全部細かく設定ができるので、例えば設備2のところで人がこれをやっていれば、人の投入量を最小にして、ということも出せます。
この、ラインシュミレーターというソフトウェアは、数社から出ています。しかし買おうと思うと一千万円以上します。
各都道府県の県庁さんから講演依頼が来ると、私は必ずこれを見せて、「県で取り組まれた方が良い」と話します。そうすれば県内の生産が一目で分かるからです。
そして実際に産業機械をIoTでつなぐと、リアルタイムに県の生産量が把握できます。そうすると海外など外側からの受託をする際にも役立ちます。
一足飛びに下請けの中小企業の会社が、全く違う業態に転身するのは不可能だと思っています。ですから県が補助し、自分たちで生産ラインを決めれば、どこがボトルネックかすぐに把握でき、能力増強したらどうなるかもすぐに分かります。
八子: これはあくまでも製造業中心の話ですが、製造工程に似たような構造であれば応用できますか。例えば農作物など、大量にものが流れてくるもの、多品種少量が流れていくようなものであれば対応は可能でしょうか。
天野: はい、可能です。元々は銀行の待ち列を解消するために作ったアルゴリズムでした。ですからどういった現場にも対応できると考えています。
小泉: 本日は、ありがとうございました。
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IoTNEWS代表
1973年生まれ。株式会社アールジーン代表取締役。
フジテレビ Live News α コメンテーター。J-WAVE TOKYO MORNING RADIO 記事解説。など。
大阪大学でニューロコンピューティングを学び、アクセンチュアなどのグローバルコンサルティングファームより現職。
著書に、「2時間でわかる図解IoTビジネス入門(あさ出版)」「顧客ともっとつながる(日経BP)」、YouTubeチャンネルに「小泉耕二の未来大学」がある。