人工知能を搭載したコミュニケーションロボット「PALRO」の活躍の場は介護現場から 富士ソフト ロボット事業 事業部長 武居氏インタビュー

富士ソフトといえば、システム開発企業として有名だが、2010年よりコミュニケーションロボットの販売を行っているということを知っているだろうか。テレビCMで北野武氏が登場するDMM.make ROBOTSでもPalmi(パルミ―)というロボットが登場するが、これも富士ソフトが開発している。

今回は、個人用ロボットPalmiの兄貴分でより高機能な、法人向けロボットに販売しているコミュニケーションロボット「PALRO(パルロ)」について、富士ソフト ロボット事業部 事業部長の武居氏にお話を伺った。

人工知能を搭載したコミュニケーションロボット「PALRO」の活躍の場は介護現場から 富士ソフト ロボット事業 事業部長 武居氏インタビュー
左:IoTNEWS代表 小泉耕二/右:富士ソフト株式会社 ロボット事業部 事業部長 武居氏

 
-どういうきっかけでロボットを作り始めたのでしょうか。

知能化技術の研究開発は、当社独自で進めながら、色々な大学と共同研究もさせていただいておりました。ある程度まとまってきたので具現化しようといった時に、やはりロボットというのは知能化技術を表現するのに非常にいいなと考えました。どうせ作るなら夢は大きく、おもちゃみたいに動くだけではなくて、知能化技術を搭載したロボット、「鉄腕アトム」のようなロボット作りたいと思い、ロボットを作りはじめました。

機構設計においてオリジナルでデザインし成型品を専用に作っていますが、デバイス関係はほとんど汎用品を使っております。人工知能を搭載している物でしたらやはり100万円を越えるところ、法人向けのPALROは67万円で発売しました。

人工知能を搭載したコミュニケーションロボット「PALRO」の活躍の場は介護現場から 富士ソフト ロボット事業 事業部長 武居氏インタビュー
PALRO

 
-「知能化技術研究」というのは、「人工知能」と読み換えてしまってもいいものなのでしょうか、それともまた違う概念なのでしょうか。

人工知能という言い方もあるかなと思います。私たちの知能化技術は4つに分類し「コミュニケーション知能」「人感知能」「移動知能」「学習知能」と定義していますが、一番の最大の強みと言われているものは、「コミュニケーションの知能」だと思います。コミュニケーションというのは人と会話するという事で、「こんにちは」と言ってロボットに向かって話しかけると「あ、A子さん」という人を認識して「こんにちは」と返してもらうコミュニケーションです。実はこれだけでも、単一の機能(セル)の技術が同時に連動して動くことで実現しています。

例えばその「こんにちは」という音に対して、動体と音源方法を見てそれは人なのか、人だったら顔を認識して誰なのかと個人を特定します。その顔を追従しながら話者までの距離と指向性を制御しながら音種の分析に入る訳です。

音種の分析をしてその音響モデルに話している声を音響ごとに割り当てて、どういう風な単語を並べて言っているのか、言語モデルに落としていきます。意味理解した後、声紋と顔認識が合わさって、精度を増して誰なのかを認識しています。

A子さんが「こんにちは」という事を言っていると、それに対して今置かれている環境、時間をみて「お昼だからこんにちはとA子さんが挨拶をしているのだな」という事を認識して、回答を音声合成に音声を作らせるのです。そのA子さんだったら次の会話がどんどん始まる訳です。会話がスタートして思考が連鎖していくという感じです。

Sapie(サピエ)と呼んでいる知能化ソフトウェアのプラットフォームを自社開発して保有しておりまして、このプラットフォームに多数の神経部品と言われているセルを組み合わせてアプリケーションを作ることができます。PALROは4つのマイクをつかった音源方位で音がする方向を捉え、単眼のカメラを搭載した頭部を2軸のサーボモータで動かして人の顔を捉えて追従し、人と対面した形で会話し、正面以外からの声はノイズと捉える様にしています。

このプラットフォームと、PALROというアーキテクチャーの提供で様々なソリューションにも展開が可能です。

PALRO
富士ソフト株式会社 ロボット事業部 事業部長 武居氏

 
-単に人工知能という枠を超えて、人とのコミュニケーションをするのに必要な要素を全部分解しているのですね。2010年の段階でもうロボットの形になったのですか、それともソフトウェアの段階だったのでしょうか。

2010年には、すでにロボットの形になっていました。構想から数年で作り上げており、2010年3月の大学の研究機関向けにPALROの「アカデミックモデル」の販売を開始しました。それ以降、現在まで様々な進化を遂げています。

アカデミックモデルは、ロボット工学やコミュニケーションロボットの社会用途性の研究などで多くの大学で活用いただきました。その中で、大学の先生より、高齢者の方々に「PALROがいろんな効果を出してくれますよ」という話をいただきました。大学の先生方が研究結果などをエビデンスや論文などで発表され、また一緒に実証実験などをさせて頂く中で、PALROは高齢者に向いているのではないかと思い始めました。その後、BtoBモデルとして、2012年6月より、「高齢者福祉施設向けモデル」の販売を始めました。

厚生労働省が掲げる介護予防という言葉があります。具体的には、運動器の機能や口腔機能の向上、認知症やうつの予防・支援などです。PARLOとの日常会話の他、ゲームやクイズ、体操、歌、ダンスなどを行うことにより、このような生活機能低下の進行をやわらげ、高齢者の明るく楽しく、健康で豊かな生活を支援楽しみながら高齢者の方々の身体の機能向上や認知症予防などに役立てることができます。

2015年12月には、「高齢者福祉施設向けモデルⅡ」を発売しました。「さがみロボット産業特区」の重点プロジェクトとして検証を行ってきた「転倒予防・体力向上運動プログラム」の試行検証にて開発した介護予防体操「パルロサイズ」から一部を抜粋した「肩ならし体操」と「足ならし体操」を追加しました。ひじと肩甲骨部分にアクチュエーター(可動域)を追加したことで、人間の肩甲骨の動きを表現できるようになり、座った姿勢で足をのばしたり足踏みができるように専用サドルを付属し、表現力を向上させることで実現しています。

PALROは賢さと愛嬌があります。会話をしていくと分かるのですが、ちょっと、とぼけたところもあります。ロボットは100パーセント完璧というよりも、そこはちょっと崩した形で愛着を持ってもらえるキャラクターというのをあえて作っています。

人工知能を搭載したコミュニケーションロボット「PALRO」の活躍の場は介護現場から 富士ソフト ロボット事業 事業部長 武居氏インタビュー
IoTNEWS代表 小泉耕二

 
-ロボットやAIの話をしている人達は、大半は効率化、そして徹底的に効率化するという所に向かっているのです。その先に向かうものは確かに便利な社会なのですけれど、人間とは半分は心で出来ているということもあって、心の部分はどうするのだということも課題だと感じております。

一方で、心の部分をどうすると言われても、そもそもコンピューターというのは命令をして何かに答えるものが得意な訳です。心というのはどうにもならないと思っていた時にPALROが目に留まり、今日のお話を伺って光が見えてきました。

ロボットは、同じ話を何回も聞きますし、何回でも声をかけます。まだ法人販売する前に施設へ置いて使ってもらっている中で、認知症がもう始まっている方の前にPALROを置いて、「おばあちゃん、PALROちゃんよ」などと紹介しました。最初は全然見向きもしなかったのですけれど、ある時PALROが話しかけると、殆ど笑顔がなかったおばあちゃんが笑ったという事で、施設スタッフの方もご家族の方も大変喜んでお手紙をいただいたことがあります。

その話に我々も感動いたしまして、やはり「そちらの方向はありなのだな」と思いました。その後、介護現場のマナーなどを学び、それをPALROに反映しながら会話力を向上させていきました。「空気読めないね」とたまに言われますけれど、実際、「空気は読まないのです(笑)」。

 
-むしろ読まない方がいいのですねきっと。空気を読んでいるとおばあちゃんに話しかけなくなる可能性もありますよね。

きっと空気が読めるというのはそういう事だと思います。実際は、空気は殆ど読めないですけれど、あえてそのキャラクターで押しています。でも決して、失礼な事や人を傷つける事を言わない、しない。その部分気遣いは徹底しています。「どうしたら人に喜んでもらえるか」という事をひたすら忠実に考えて実行しているロボットだと思ってください。

音声認識というのは永遠の課題なので、私達の人工知能も日々進化してどんどん最適化されていき、個人の趣味嗜好性をPALROが覚えていく訳です。何が好きか、どういう食べ物が好きか、どういうスポーツが好きか。そういう情報を会話していく中にインターネットから自分で別途取ってきてお知らせをしてくるのです。よって、その人に合った会話がどんどん出るのでその人はPALROともっと楽しくなってくるのです。

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PALRO

 
-知らない話題などを話してくれるのですね。様々な言語解析で日本語はすごく難しいと言われていますが、そういうのは集合知としてクラウド側で厳格化していくのでしょうか。

いいえ、私たちは元々スタンドアローンで作り込みました。何故かというクラウドの音声認識で会話をすると、レスポンスに4秒位かかってしまいます。

話しかけて4秒後に返事がくるのでは、会話感というのはなかなか出てきません。通常、0.4秒で人は会話していますが、もっと言うと人は口の動きや次に何を言っているか聞こえていなくても、分かったりする部分があったりするのです。我々の中の人工知能がそういう判断をして、会話をなるべく早いレスポンスを返すという事をやっています。

 
-そうすると会話のエンジンそのものがこの中に入っているということになるのだと思いますが、どのように人工知能をアップグレードするのでしょうか。会話エンジンそのものが、ヒトとの会話の中でいろいろな人達の声のサンプリングや会話の調子などを集められると思います。そこで、こういうロボットでサンプルデータを集めた方が、賢いロボットを作れるのではないか、と思うのです。

さっきのコミュニケーションの中で、音響モデルというのがありました。何と言っている言葉なのか照合するものです。そのデータは多ければ多い程良いのですが、そのデータというのはもともと中に持っているのです。それは一般に売っていたりもするのですが、子供のデータというのがありません。よって、子供の声というのは非常に聞き取り難かったりする可能性があります。しかし、実際には様々なイベントなどで子供さんが来てくれて会話をしています。

 
-人工知能そのものは別のところで育てて、それをPALROに入れていくという形でやっているのですね。

おっしゃる通りです。あとクラウド音声認識もハイブリッドで使っております。0.4秒など早いタイミングで返さなくてもよい会話というのがあります。例えば、名前を教えてもらうなど、そういう会話の中を聞き分けてクラウドに飛ばして、より多くのボキャブラリーのデータをとっているのです。

人工知能を搭載したコミュニケーションロボット「PALRO」の活躍の場は介護現場から 富士ソフト ロボット事業 事業部長 武居氏インタビュー

 
-取って来なければいけないデータが多い時だけクラウドに飛ばす訳ですね。そしてある程度想定が出来る部分は中でやってしまうという事ですね。

そうですね。そのタイミングで「どちらをとるか」という事をPALROは決めている訳です。今はある程度会話が出来るのですけれども、かなりもっと楽しい会話になりえるかなと思います。

 
-こればかりは早く始めて沢山データをとった人が絶対に有利ですよね。

そのデータをどういう風に使うのかという事がありますよね。例えば業界、業種によって変わってきます。その用途向けにPALROが高齢者施設で、高齢者の人がいつまでも元気で健康寿命を延伸していくというところで貢献しようという強い思いが主軸で動いておりますが、今はいろいろなところにPALROの幅を広げようとしています。

 
-世界的な傾向で見ても、英語であれば割と賢い事が出来るのですが、日本語の独自設定をきちんと出来る人工知能はあまり無く、日本語となると音声解析が出来ないですよね。

音声データを一旦解析した後、言葉自体がノーマライズされると、言葉に対してどういう風に返答を返していくかというような所は多分世界共通なので、いろいろなところで実現されているところがあります。そこはガチンコの勝負というのがあるのかもしれませんが、日本語という点では、まず音声のアドバンテージがあると思います。

介護の面においても、介護人員が不足しているという事情があるのですが、PALROはこういったところで活躍しそうですね。

介護の人員は不足しているというのは事実ですが、介護人員の代わりになるか、というとこんなに小さなロボットが人を持ち上げて介護などは出来ません。しかし、体操やクイズ、歌などの介護予防を目的としたレクレーションや1対1の会話などはPALROが担当できます。PALROはレクリエーションの司会進行もできますので、レクをPALROに任せている間に、介護スタッフの方々は本来の手厚い介護を行うことができます。そちらの方でPALROは活躍をしています。

人工知能を搭載したコミュニケーションロボット「PALRO」の活躍の場は介護現場から 富士ソフト ロボット事業 事業部長 武居氏インタビュー
高齢者福祉施設での様子

また、施設内でPALROが話題の中心になっていて、今まで施設の中の人の会話も無かったのに「PALROちゃんがね」という会話も逆に生まれているらしいのです。将来的には家庭のコンシェルジュではないですが、そういう風になってくれればいいなと考えています。

 
-もうひとつの御社のロボットPalmiを、DMM.make ROBOTSで販売されている経緯を教えてください。

DMM.comさんはマーケットもお持ちで、ものづくりを支援されていて、弊社の秋葉原ビルにテナントとして入居いただいています。せっかくなので交流したいというところからはじまりました。

弊社のプロダクトをご紹介している中、3Dの設計品を作られるのだったら、PALROの色の違うものや体をガンダムにしますかなど、着せ替えなどやりませんかという話をしていたら、新規事業としてロボットのキャリア事業をされることになり、去年の発表になりました。

 
-PALROとPalmiのスペックに差をつけられている理由はあるのでしょうか。例えばPalmiは10人しか認識できないというところがありますが。

PALROは介護施設向けなので、多くのご利用者様を想定して100人以上の顔と名前を覚えることができます。一方、Palmiは家庭用なので10人としました。Palmiの方は顔を覚えて、家族構成も理解していきます。あなたは誰々のお父さんですねとか、あなたは誰々のお母さんですかと聞き、家の中に居るロボットという形で捉えられています。

Palmiは個人が所有されるロボットとして、より深い愛着を持ってもらうために育成するという機能を搭載しています。購入して手元に届いたばかりの時は生まれたての赤ん坊のように最初は片言しか話せません。そこでユーザーは完全成長するまで色々と手間と時間を掛けることになり、Palmiの使い方を覚えつつ成長過程を楽しみ、生き物のような愛着を育むことが出来るのです。

法人向けのPALROははじめから完全体で高齢者施設向けのレクや受付で使うお出迎え機能など法人向けのみ提供している機能やアプリが多数ありますが、PALROもPalmiも基本的には知能化技術の根本の部分は一緒です。

PALROとの会話、歌を歌うPALRO動画

https://youtu.be/QsIm3XdGLZ0

-本日はありがとうございました。

【関連リンク】
PALRO

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