Raspberry Pi標準対応3G通信モジュール 「3GPI」 永里氏インタビュー

Raspberry Piはモノづくりハッカソンなどではおなじみで、何かインターネットと繋がる試作品を作ろうとしたら入手することが多い名刺サイズのシングルコンピュータだ。

しかし、試作品レベルを超えて、実は業務でもRaspberry Piが利用されているという話を耳にする。業務で利用しようとすると安定性や拡張性が必要になるだろうし、例えば屋外で使おうとしたらWi-Fiでは目的を果たせないこともあるだろう。

今回はその課題や需要に目を付けた、Raspberry Pi用の3G通信モジュール、3GPIを開発・販売している、メカトラックス株式会社 永里壮一氏に話を伺った。

Raspberry Pi標準対応3G通信モジュール 3GPI 永里氏インタビュー
左:IoTNEWS代表 小泉耕二/右:メカトラックス株式会社 永里壮一氏

 
-御社のサービスを教えてください。

本社は福岡にあり、2005年に人型ロボットの事業化を目指して創業しました。当時、小型の人型二足歩行ロボットをなんとか製品化しようと思い企画・開発したのが、このロボキャッチャーというプロダクトで人型二足歩行ロボットを操作して景品を取るゲーム、クレーンゲーム機のロボット版といったものです。

これを2008年にゲームセンターを対象に出荷しましたが残念ながら販売はあまり伸びませんでした(苦笑)。

理由は色々とあるのですが、家庭用ゲームやスマホの伸張でアーケードゲーム業界の景気が悪くなったというのと、業務用ゲーム機器としての能力が不足していた、単純に言うとゲームセンターがあまり儲からないゲーム機だったんだと思います。

クレーンゲームというのは皆さん「景品が欲しい!、あともう少しだったのに!」といった感情を刺激してどんどんコインを投入させるゲーム機であるべきなのですが、ロボキャッチャーは1コインで30秒~1分は遊べるタイムアタックのゲーム機なので回転率が悪く、またお客さんも1回プレイすると満足しがちで(苦笑)、次のコインに繋がりませんでした。

お客さんは遊んで満足してくださるのでモノとしては良かったのですが、出荷台数自体はそれほど伸びませんでした。一方、博物館やイベントなどで無償でプレイできる際は長蛇の列ができるなどとても喜んでもらえましたのでコンセプト自体は悪くなく、ゲームシステムの作り込みが足りなかったのだと思います。

その後このロボキャッチャーの事業を立て直すべく海外営業したり、ターゲットをゲームセンターから博物館やイベント分野に変えたりと奔走しましたが、縁あって携帯電話モジュールを経由してゲームの売上情報を管理するという提案をゲーム機器メーカーが採用してくれまして、それが僕らがIoT/M2Mに初めて取り組んだ事例になります。

Raspberry Pi標準対応3G通信モジュール 3GPI 永里氏インタビュー
メカトラックス株式会社 永里壮一氏
 

その時はドコモ提供のモジュールで、当然ドコモの回線を借りていたのですが、当時MVNOが低速のデータ通信専用SIMを安価に提供し始めていました。僕らのサービスは、売上情報の送信だけで大きな回線速度は不要なので、そういったMVNOのSIMが使えるモジュールを色々探したのですが、当時の3Gモジュールの調達は、1万個など大きなロットが大半で苦労しました。

その後、何とか小ロットでも購入できるモジュールを探しだして、最初に製造したゲーム機向けの製品の3Gモジュールをリプレイスしたり、その後気象観測の会社の通信経路をADSLから3Gにリプレイスしたりと、3G回線を使用したIoT/M2M機器(cellular IoT/M2M機器)のノウハウを蓄積していきました。

そういう中でオリジナルの製品を作ろうかということで、3GPI(Raspberry Pi標準対応3G通信モジュール)を開発しました。対象となる小型コンピュータボードはBeagleBoneBlackなど他にもスペックが高いものがあり、当初はRaspberry Piというこだわりはなかったのですが、知人にヒアリングした結果Raspberry Piの方が需要がありそうだったので、Raspberry Pi用の製品として3GPIを開発しました。

Raspberry Pi標準対応3G通信モジュール 3GPI 永里氏インタビュー
3GPI Raspberry Piの上部にセットする形になっている

 
-それはいつ頃なのでしょうか。

2014年の春ぐらいから開発を始めて夏くらいに台数限定でサンプル出荷をしたところ、すぐに完売し、これは需要があるのだろうと秋ぐらいに3GPIを正式リリースしました。

Raspberry Pi用の通信モジュールですので、当初はメイカーズの方たちが重要なターゲットとなっていたのですが、そういった方々の中でもどちらかというとハードウェアが専門ではなくソフトウエア・Web系の方を想定していました。ですので、開発コンセプトで明確にあったのが、「ハードウェアを意識させず、ソフトウエア・Web系のエンジニアでも気軽に触れるようにしよう」というものでした。

OSはLinux(raspbian)で、アクセスポイント設定や何らかの理由で通信回線が切れた時の自動再接続など、そういった機能を盛り込んだ形でOSイメージとして提供することで、ネットに繋がっているLinux端末のような感覚で動作させることを目標にしました。

またRaspberry PiからUSB経由で電源供給をすると、場合によってはRaspberry Pi自体が不安定になる傾向がありますが、3GPIはそれらへの対策として、ACアダプターを経由して、3GPIからRaspberry Piに電源を供給しており、安定した動作が可能となっています。

一般的に、ソフトウェア・Web系のエンジニアの方は、ハードウエアに起因した不具合が起こると対処は難しいと考え、当然のように安定して動くという点を重視して開発しました。

3GPIを出荷して気づいたことですが、試作用途と考えていた法人ユーザーが、Raspberry Pi+3GPIの組み合わせで実際の業務で運用されており、Raspberry Piの業務活用の現状について様々な事例を拝見することが出来ました。そういった事例を踏まえて、次の商品として開発したのが、slee-Pi(スリーピー、Raspberry Pi 向け電源管理モジュール)です。

Raspberry Pi標準対応3G通信モジュール 3GPI 永里氏インタビュー
slee-Pi

会社としては3GPIやslee-Piのように、研究や試作だけでなく、業務用途としても稼働させられるRaspberry Piのモジュールを、これからどんどん提供していこうと思っています。

 
-どういう点が業務用で使えるのでしょうか。

3GPIについてはIoT/M2M分野用としてわかりやすいのですが、slee-Piは、なかなかマニアックなモジュールでして(苦笑)、Raspberry Piを間欠動作(かんけつどうさ、ここではスイッチのオンオフのこと)させることができます。分かりやすく説明すると、Raspberry Pi自体はいったん電源をオフにしてしまったら自分で起動(コールドブート)できませんが、slee-Piを使えばそれが可能となります。

例えば、屋外でRaspberry Piを使ってセンサーからデータを取得したいが電源が確保できない場合、一般的にはバッテリーと太陽光パネルを組み合わせて電源を構成します。その場合Raspberry Piが起動したままだと消費電力も増えますので、データを取得したいときだけ起動し、センサーからデータを取得し終わったら電源を落とすということ(間欠動作)をすると、1日あたりの消費電力が下がります。

試算では、10分に1回の頻度でセンサーからデータを取得して残りの時間は電源を落とした場合、常時稼動と比較して1日あたりの消費電力は8割ほど下がる計算になります。そうなると太陽光パネルやバッテリーのサイズも小さくでき、コストや設置の際に大きなメリットがあります。このように、slee-Piは、けっこうニッチな製品であり、電子回路が作れる人は工夫して自作も可能ですが、これは3GPIも同じコンセプトなんですが、本来こういった機器を使う人は、「機器を作る」ことではなく「機器から得られたデータを活用する」ことが目的のはずです。そういった方々の時間と手間を削減でき、本来の目的に注力できる、そういった「痒いところに手が届く製品」を提供していきたいと考えています。

 
-現在は、3GPI とslee-Piの2種類の取り扱いでしょうか。

現状はそうですが、先ほど述べたとおり今後ラインナップは拡充していきたいと考えています。

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IoTNEWS代表 小泉耕二

 
-最近、3G対応の小型スティックなどがありますが、3GPIはもっと小型化できるのでしょうか。

はい、小型化は可能です。実際3GPIは頑張ればあと半分くらいの面積にはできます。しかし、結局Raspberry Piで利用するのでRaspberry Piより小さくしても意味がないということで、コストの面も踏まえてこのサイズでやっています。

あと、3GPIをはじめとしたセルラーのIoT/M2M機器で問題になるのは、セルラーモジュール(LSI)の価格です。これは、技適(技術基準適合証明等)の取得や調達ロットに起因します。これらは、今後国内でのセルラーでのIoT/M2Mが普及し、国内でも使用できるモジュールの選択肢が増えれば解決していくと思います、あとは弊社がもう少しリスクをとって大量に調達すれば済む話ではあります(笑)

 
-実際の製造はどこでやっているのでしょうか。

国内です。ボードの設計や関連するソフトウェアは弊社で担当し、部品の実装は国内の協力会社にお願いしています。先ほど述べたとおり、弊社はもともとロボット機器をゼロから開発・製造し、これら製品に対しての保守サービスも実施してきた経験があります。一般的な出荷検査だけでなく、お客様のご要望に応じて公的研究機関と連携した各種試験も実施するなど、、安心して弊社ハードウエアを使用いただけるような運用を心がけています。

 
-インターネット業界の方がモノづくりをしたいといった時に、これまで全く経験がないので試作まではできても、量産となるとどうしたらいいかわからないというケースが多く見られます。御社のようにハードウェアを10年やってこられたというノウハウがないとモノづくりは難しいものでしょうか。

どんな業界でもそうだと思います。例えばいきなりぬいぐるみや食品を量産したいと思っても全くわからないのと同じです。幸い、最近はモノづくりだけでなくファンディングなども支援する、ハードウエア・アクセラレータの機能を持った会社もいくつか出てきており、ハッカソンのようなイベントも多数開催されていますし、以前と比べて、相談できる機会も増えているように感じます。ネットや書籍だけでなく、積極的にそういった場を活用されるのも良いかと思います。

Raspberry Pi標準対応3G通信モジュール 3GPI 永里氏インタビュー

 
-今後はどういう事を考えているのでしょうか。

今後、低速のIoT向けLTEのチップやそれらをベースにしたサービスなどが出てくる予定です。そうなると、だいぶ面白いIoTの時代になると思いますし、それら世の中の動向を踏まえながらタイムリーにマーケットに製品を出していきたいと思っています。一方、日本はIoT/M2Mの分野で、世界的にも非常に面白いエリアと考えていて、産業基盤、通信や電力、交通網などのインフラストラクチャー、人口、教育、資本、多様な自然環境、これらが高いレベルで、それもこれほど稠密なエリアで展開している国は無いと思います。弊社が位置する福岡でもこれらがある程度そろっていますし、アジアにも近い立地を活かして、日本で培った製品やノウハウを海外にも広めて行ければと考えています。

 
-本日はありがとうございました。

【関連リンク】
メカトラックス

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