AIによる価格の適正化、ダイナミックプライシングとは

年末になると、帰省ラッシュがはじまる。

新幹線や飛行機などで一時的に帰郷する人が増えるので、各地の駅や空港が終日混み合うことが予測される。このような移動需要が旺盛なタイミングでは、移動サービスを供給する側からすると、稼ぎ時であり、値段を釣り上げて、閑散期で落ち込んだ収入を取り戻そうとする。

日常的な例でいうと、スーパーのお惣菜コーナーでは、閉店の2、3時間前になると店員がお惣菜の入った容器に「半額」というシールを貼り付けている光景をよくみる。これはお惣菜が購入されるピークの時間帯を過ぎ、需要は減少しているため、そのままの価格設定だと売れ残る可能性があるため、値引きをしている。

このような需要と供給に応じて価格を変動させて、需給をコントロールすることを「ダイナミック(動的な)プライシング(値付け)」という。

もっとも、このようなダイナミックプライシングは、昔から行われてきたことであって、今になって登場した言葉ではない。しかし、昨今AIを用いてダイナミックプライシングを行う事例が、注目を集め出している。

AIによるダイナミックプライシングとは

従来、値付けという業務は3段階のプロセスが必要とされてきた。

  1. データを集める
  2. 需要を予測する
  3. 需要の多い、少ないによって価格を設定する

このうち2段階目の需要予測は、複雑かつ専門的な知見を持っている人でないと難しい業務だ。また、複雑かつ専門的な知見を持っていても、勘違いや計算ミスといったことが起きてしまう。なにより、人の情報処理能力は限定的であるため、最終的には勘に頼る部分もあった。

しかし、AIは迅速かつ正確に大量のデータ(ビッグデータ)を処理することが得意なので、需要予測に向いている。AIに需要予測を任せてしまえば、この業務については人がいらなくなる。もちろん勘違いや計算ミスも起こらないので人よりも正確な予測が可能だ。さらに、迅速な予測もできるため、需要の変化をリアルタイムで捉えた予測ができる。

例えば、インド初のホテルベンチャー「OYO(オヨ)」はイベント、曜日、天気といったビッグデータを活用し、AIによって価格調整を行うが、1日4,300万回以上の価格調整を行っているようだ。これはAIが大量のデータを人間よりも遥かに早いスピードで処理できるため、可能となっている。

もちろんAIが予測した需要にあわせて、人があらかじめ推奨される価格を設定しておけば、AIに値付けまで行わせることが可能となる。

転売の抑止にも使われるダイナミックプライシング

浜崎あゆみのコンサート

エイベックス・エンタテイメントは、2019年12月31日開催する浜崎あゆみのカウントダウンライブのチケット価格の設定にダイナミックプライシングを用いることを発表した。

スポーツ分野では、福岡ソフトバンクホークスとヤフーは2019年の開幕戦からダイナミックプライシングにより価格を決定する「AIチケット」の販売を開始するといった先行事例があったが、音楽分野では初となる。

浜崎あゆみのカウントダウンライブでは、ダイナミックプライシングを用いて、購入者には納得感のあるチケット購入の体験を提供するのと同時に、不当な高額転売の抑止効果を狙っているようだ。

一般的な転売とは、固定価格でチケットを買っておいて、チケットが少なくなったり無くなったときに価格を釣り上げるというものだ。

しかし、そもそもイベントを主催する企業が需給に応じてチケットの価格を変動させていれば、株やFXのように転売業者は安く買って高く売ることをしない限り利益を確保できない。そのため転売に一定の抑止効果があるのでは、と期待されている。

ダイナミックプライシングをビジネスに取り入れるための条件

ダイナミックプライシングのポジティブな側面について触れてきたが、ビジネスで活用するにはいくつかの条件を考慮する必要がある。

まず、AIにどれくらいの頻度で価格設定を行わせるか、を考慮しなければならない。例えば、実店舗で商品の価格をリアルタイムに変動させたいのであれば、電子棚札のようなネットワークを通じて瞬時に価格表示を変更できる機器が必要になる。そういう意味では、実店舗ではなく、ECサイトのような物理的な制約を受けない環境で、AIによるダイナミックプライシングは導入しやすい。

また、需給に応じて価格が変わる「時価」の商品であるということが消費者に受け入れられるかどうかを考慮しなければならない。

例えば、ぜいたく品はダイナミックプライシングが消費者に受け入れられやすい。需給に応じて価格が高くなっても、皆よりお金を多く払うことで、単なる移動や宿泊に快適という付加価値が生まれると考えるからだ。野菜や魚といった、自然環境によって影響を受けやすい商品もダイナミックプライシングが受け入れられやすい。なぜなら、不作や漁獲量の減少といったものは、異常気象を起因としているため、価格が高騰しても消費者は納得せざるを得ないからだ。

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