独りで出来ることが増える「Seeing AI」
会見では視覚障碍を持つ一般社団法人セルフサポートマネジメント代表理事 石井暁子氏(トップ画像左)が登壇し、マイクロソフト・大島氏からの質問に受け答えする形で、「Seeing AI」の使い心地についての意見を述べた。
石井氏は30歳のときの手術がきっかけで全盲になり、現在は一般社団法人を運営しながら子育てを行っている。
「どのような場面で「Seeing AI」が便利だと感じたのか」という問いについては、以下のようなシーンを挙げた。
1つは「娘がなかなか寝ないな」と感じた時。「Seeing AI」のライト機能を使って、部屋の明かりが付いているかどうかを確認すると、電気が付いていることに気づいた。つまり明かりが付いていたために、子供が寝付かなかったのだ。
また、調味料を購入した時にも「Seeing AI」を活用したという。それぞれの調味料が入ったボトルが全て同じような形状であり、どれに何が入っているのかを確認しなくてはいけない。そこで「短いテキスト」機能で調味料の名称を読み上げることで確認できたという。食品関係では「風景」機能で冷蔵庫に入っている物を認識することにも役立てたそうだ。
さらに「短いテキスト」機能で読ませて良かったものがあるという。石井氏は一型糖尿病を患っており、「リブレ」と呼ばれる装置で血糖値を測っている。しかし、この「リブレ」には音声に対応していないため、血糖値を測る際は夫に数値を読み上げてもらっていたという。そこで「Seeing AI」の「短いテキスト」機能を使う事で、1人でも血糖値を読めるようになったそうだ。
「「Seeing AI」が使いやすいと思う所はどこか」という質問に対しては、「1つのアプリに沢山の機能が付いていること」だと答えた。機能が複数のアプリにまたがる場合、ひとつひとつの操作を覚えるのに時間がかかる。しかし「Seeing AI」であれば、それ1つ立ち上げるだけで済んでしまう。この点は非常に大きいという。
複数の機能をまたいで活用する例も紹介された。例えば子供の保護者会や運動会のお知らせを確認する際、まずは「短いテキスト」機能で簡単に内容を把握し、「ドキュメント」機能で詳細をじっくり読む、といった利用法もあるそうだ。
最後に石井氏は「独りで出来ることが増えた。食品の確認など、日常の生活に密着した使い方が出来るので、視力があった時と同じような感覚を持てるようになった」と発言した。
「AI for Accessibility」と「Xbox Adaptive Controller」
会見では「AI for Accessibility」の新たな取り組みについても発表があった。
「AI for Accessibility」とは、障碍のある方に向けたAIプロジェクトについて、マイクロソフトとして助成を行うというものだ。これはワールドワイドな取り組みであり、各国のベンチャー企業や大学機関などから応募を受け、審査した結果、助成を行うという。
その「AI for Accessibility」の助成プロジェクトとして、日本で初めてのプロジェクトが出来たそうだ。
1つは東京工業大学による、瞳孔変動を用いた重度障害者用意伝達システム「PuCom」。これは閉じ込め症候群で目の動きによるコミュニケーションも難しくなった患者に対し、瞳孔の大きさの変化を見て、イエスかノーのどちらを見ているのかを判断するプロジェクトだ。このプロジェクトではマイクロソフトのマシンラーニングを、イエスかノーかの判断の精度・スピード向上に活用しているという。
二つ目の合同会社シーコミュによるAIと人とのハイブリッド情報保障システム「AIミミ」。例えば現在、講演会などで聴覚障碍者に向けて講演内容をテキストに起こす、といった情報保障の取り組みがされているが、その際には文字を起こす作業者のスキルなどが問われることになる。
そこで「Cognitive Service」で認識したテキストと、プロのオペレーターによる修正を合わせて正しい文字情報を素早く配信させる、というのがこの「AIミミ」の取り組みだという。
最後に発表されたのは「Xbox Adaptive Controller」である。これは障碍者でもゲームがプレイし易くなる工夫が施されたコントローラーだという。
上記写真にある実物を見ると、巨大なボタンが二つ付いているのが分かる。これは通常のゲームコントローラーでは使いにくい障碍者が、例えば足で踏んでプレイすることができるようになっているのだ。
また、コントローラーの後部には様々なスイッチを付けられるようになっているという。中には息で吹きかけてスイッチを押すような仕組みを使っているユーザーもいるそうだが、「Xbox Adaptive Controller」はそうしたあらゆるケースに対応できるようになっているそうだ。
「Xbox Adaptive Controller」は「Xbox」本体とパソコンにつなぐことができるという。日本では近日発売とのことだ。
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1986年千葉県生まれ。出版関連会社勤務の後、フリーランスのライターを経て「IoTNEWS」編集部所属。現在、デジタルをビジネスに取り込むことで生まれる価値について研究中。IoTに関する様々な情報を取材し、皆様にお届けいたします。