NTTなど、デジタルアーカイブによる食文化継承、おいしさ解明の共同研究を開始

日本電信電話株式会社（以下、NTT）、全日本・食学会（以下、食学会）、立命館大学（以下、立命館）は、「食のデジタルアーカイブ、おいしさの解明に向けた共同研究開発」に取り組む事を発表した。

このプロジェクトは、人間の五感伝送、五感コミュニケーション技術をはじめとする最新のデジタル技術を活用し、食を人間の面から科学的に解明・記録・表現することによる食文化の継承・発展、時代により変容する志向など様々な人にとってのおいしさの解明や、アフターコロナ時代を見据えた飲食業界の新たな価値創造に向けた取り組みなどについて、検討するというものだ。

背景

ライフスタイルの多様化に伴って、食の志向は経済性志向、グルメ志向、健康志向など多様化・複雑化の一途をたどっている。また、日本では豊かな自然と四季折々の食材を活かした様々な食文化を生み出してきたが、高度成長期から食の大量生産、グローバル化、少子高齢化などに伴う食生活の多様化によって、これまで培われてきた食文化が失われつつある。さらに、現在、新型コロナウイルス感染拡大の影響により存続の危機に見舞われている飲食店がある、という問題もある。

このような背景から、文化価値としての料理や集いの場を五感による基礎データとして蓄積することは、多くの料理人の夢と希望、喜びにつながる見込みがある。

一方、高速大容量のネットワーク通信、ビッグデータ分析を可能にするAI、人とモノをつなぐIoTデバイスなどの発達により様々な分野で技術革新が起きている。

食学会は、日本の料理の発展を図るため、様々な分野の料理人が集い、卓越した匠の技を共有し、日本の食・食文化に関する教育、技術開発並びにその普及活動に取り組んでいる。

立命館は、食の総合研究の学部「食マネジメント学部」を日本で初めて開設し、経済・経営を基盤として、食の文化やテクノロジーを融合した新しい食科学の創造を目指している。

NTTは、デジタル技術を駆使したデジタルトランスフォーメーションによる社会的課題の解決に、様々な分野で取り組んでいる。同社は農業分野においても、課題解決と新たな価値創出をめざし、NTTグループ各社のサービス及び研究所の先端技術の活用と、ビジネスパートナーとの密な連携により、「生産」から「流通・販売」「食」までをデジタル情報で一気通貫につなぐNTTグループのフードバリューチェーンの構築に取り組んでいる。

しかしこれまでは、フードバリューチェーンの中でも「生産」、「流通・販売」のフェーズを主な取り組み対象とし、知見が乏しい「食」のフェーズについては十分に取り組めていなかった。そこで、食学会、立命館の食に関する知見、分析ノウハウ等とNTTが有する最先端のデジタル技術を組み合わせ、フードバリューチェーンの最後のフェーズである「食」における新たな価値提供をめざした取り組みを開始した。

取り組み概要

食を通じたウェルビーイング（人が身体的、精神的、社会的に良好な状態であること）の実現に向けて、共同研究では、以下の2点に取り組む。

食のデジタルアーカイブ化

食文化の中心は料理であるが、現在、新型コロナウイルスの感染拡大による飲食店の営業自粛が長引くことで、飲食店で料理を楽しんできた人々が離れ、食文化の喪失につながりかねない状況になっている。

そこで、料理の体験や思い出を五感で刺激して高臨場に再現し、まるで料理を味わっているかのような体感を仮想的に与えることで、飲食店への再訪の意欲をよみがえらせる「食のデジタルアーカイブ」を目指す。そのことによって、食文化の継承、発展を目指す。

おいしさの解明

人がおいしさを感じる事には様々な要素が絡んでいるため、現状、そのメカニズムは未だ解明されていない部分が多い。そこで、おいしさの解明について以下の2点に取り組み、様々な人がおいしさを感じられる食体験を目指す。

おいしさを形成する要因とそれらの関係性：おいしさの要因にはどのようなものがあり、各要因がどのように関係しあっておいしいという感覚を生み出しているのか、といった事を多因子の相関分析を行う技術などを活用し解明する。例えば､料理や食品のおいしさをより一層感じられることや、偏食を少なくすることにつながるような知見の獲得を目指す。

おいしさの個人差を生み出す要因：食品の地域や時代による違い、変容を解明する。例えば、日本全国各地でどのような食材、調味料、料理が好まれているか、なぜ好まれるのかなど地域に伝わる情報（ビッグデータ）の分析を通じて解明する。

参加企業の役割

NTT

触感伝送技術、AIなどを用いたシミュレーション技術等最新のデジタル技術の提供を行う。

食学会

食に関する知見提供や料理人、料理に関するデータ収集環境提供を行う。

立命館

食に関する心理実験ノウハウや環境提供、歴史資料の調査や分析を行う。

今後の展開

先行的に、食学会所属のプロの料理人の一部のレシピを公開して、調理した料理のおいしさや、調理方法などを体感できるようにし、外出自粛の生活を楽しめるような取り組みを行う予定である。また、将来的には、おいしさと健康との関係性解明にもテーマを拡大し、健康を維持しながら個人の好みに近づけるような調理方法の推奨など、健康の観点を盛り込んだ形での食を通じたウェルビーイングの実現を目指し、さらにはESG経営への貢献、企業価値の持続的な向上にも取り組んでいく予定だ。