「イノベーション型」で攻めのデジタルシフトを実現する ――デジタルホールディングス代表取締役社長 野内敦氏インタビュー

上流ではなく、下流からデジタルシフトの波を起こす

小泉: グループ経営ということが御社の一つの特徴であり、強みであると思います。グループ内のシナジーを起こすために、何か工夫されていることはありますか。

野内: プロダクトを一緒につくることが重要です。各企業が餅は餅屋で役割分担し、一つの共通目標に対して一緒に進んでいくのです。単独の企業やチームで行うと、その内部のKPIだけで運営してしまうので、グループ経営のよさが出にくいです。

かといって、シナジーを意識しすぎると管理が強くなりますし、これはバランスが重要です。グループシナジーはこれからの課題です。まだ弊社も成功している域にはまったく達していないと考えています。理想としては、それぞれの企業が互いに自然と手を組み、新しい事業を提案しあうような文化をつくりたいと考えています。

小泉: 「コワーキングスペース」なども、本当はそのようなしくみにした方がいいのかもしれませんね。

野内: まさにそうですね。コワーキングスペースは物理的な接点にとどまっていますが、そこに何らかの意志決定が働く方がうまく機能するかもしれません。もちろん、企業それぞれのガバナンスとのバランスなので、一概には言えませんが。

小泉: 実践的にスタートアップを立ち上げてきた経験のある御社から提案を受けると、顧客も説得力を感じると思います。

野内: そのノウハウはかなり活かせる部分です。私たちは、お客様にデジタル事業の提案を行うときは、まず組織を別にしてくださいと言います。組織を分け、責任者にすべての権限を渡すくらいで進めないと、イノベーションが起こらないことをわかっているからです。でも、これは先ほどの話に戻るのですが、やはり経営者に拠るところが大きいのです。先端的なことを理解している経営者のいる企業は幸せだと思います。でも、そういう企業は多くはありません。

小泉: 非常に少ないと思います。

野内: ですから、現場からイノベーションが起こるようなしくみを企業内、また社会全体でつくることが重要です。

小泉: 小さな成功モデルがあちこちで出てくると、そうした事例がない企業は「うちは小さなモデルすら出てきてないぞ」と焦ってきますね。そうすればいっきに増える予感がします。そもそも、オープンイノベーションやコワーキングスペースの発想の原点は、そういうことにあったのではないかと思うのですが。

野内: おっしゃるとおりです。過去の約5年間は、そうしたイノベーションの本質に気づけずにもがき苦しんだ苦悩の5年間だったと思います。企業はデジタル事業を立ち上げないといけない、でも社内には人材がいない、だからコワーキングスペースに入ったり、オープンイノベーションのプログラムをつくったりする、でも結局うまくいかない。その理由は、やはり大企業の理論でやってしまうからです。この5年間でそういったことを経験し、ようやく今多くの人が、何がよくて何が悪いのかに気づいてきたと思います。

そこで、弊社が見出した勝ち筋は、現場にイノベーションのパワー(私はこれを「民主権」とよんでいます)を渡し、「事業が自然に立ち上がるようなしくみ」をつくることです。この「自然」をどう定義するかが問題で、これから知恵をしぼっていかなければならない部分です。

小泉: 苦悩の時期が続いていたタイミングで、新型コロナウイルスの感染拡大が起きましたね。この影響はどうお考えですか。

野内: 新型コロナウイルスの感染拡大は、むこう3~5年はかかると思われた企業のDXの流れを早めました。従来のアナログ事業だけでは社会に適合できないことが明らかになったわけです。さすがにもうやるしかない。でも、武器がない。今はそういう状況だと思います。

「イノベーション型」で攻めのデジタルシフトを実現する ――デジタルホールディングス代表取締役社長 野内敦氏インタビュー
株式会社デジタルホールディングス 代表取締役社長グループCEO 野内敦氏

小泉: これまでのDXは、バリューチェーンの上流が基点となり、事業を変革していくというパターンが多かったと思います。しかし、御社は下流の先端、つまり顧客と最も近いマーケティングの領域からそれを行っていくということですよね。これは新しいですね。DXがすごく進んでいくイメージが持てました。

野内: ありがとうございます。DXを語っている企業は多いと思いますが、弊社のようなタイプは他にないと思います。従来型のDXではなく「攻めのデジタルシフト」を、しかもコンサルティング型や受託開発型ではなく、「イノベーション型」で生み出すことができたら、世の中は変わると思います。

小泉: なるほど、イノベーション型ですか。

野内: ええ。かつて広告業界にインターネット広告代理店が参入したときのような、新しい風が吹くといいなと思っています。

小泉: メーカーを取材していて思うのは、商品開発の部門にはわりと革新的なマインドを持っている人が多いということです。ただ、結局は製造工程にボトルネックがあってうまくいかないというケースもあります。こういう場合はどう対処していくべきでしょうか。

野内: 単独の製造ラインを別に用意した方がいいと思います。「中」でやるとイノベーションは生まれないからです。

小泉: なるほど。バリューチェーンを切り出して、別に一本つくるということですね。

野内: そういうことです。そうすると、その成功モデルがいつか本丸になるときがきます。そうすれば、既存の事業の人たちも、それに合わせていかなければならない。「中」にいる人にイノベーションを求めても、それは「イノベーションのジレンマ」が働いて、簡単にはできないのです。できないのにやろうしても、やはりできません。だから切り分ける必要があります。これはイノベーションを生み出すための王道です。

小泉: 本日は貴重なお話をありがとうございました。

明日(25日)は、2020年4月に設立された株式会社オプトデジタルの代表、野呂健太氏のインタビュー記事を掲載する予定です。

無料メルマガ会員に登録しませんか?

膨大な記事を効率よくチェック!

IoTNEWSは、毎日10-20本の新着ニュースを公開しております。 また、デジタル社会に必要な視点を養う、DIGITIDEという特集コンテンツも毎日投稿しております。

そこで、週一回配信される、無料のメールマガジン会員になっていただくと、記事一覧やオリジナルコンテンツの情報が取得可能となります。

  • DXに関する最新ニュース
  • 曜日代わりのデジタル社会の潮流を知る『DIGITIDE』
  • 実践を重要視する方に聞く、インタビュー記事
  • 業務改革に必要なDX手法などDXノウハウ

など、多岐にわたるテーマが配信されております。

また、無料メルマガ会員になると、会員限定のコンテンツも読むことができます。

無料メールから、気になるテーマの記事だけをピックアップして読んでいただけます。 ぜひ、無料のメールマガジンを購読して、貴社の取り組みに役立ててください。

無料メルマガ会員登録