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失敗しないDXには、顧客のメリットに着目することが重要 ーマクニカセミナー パネルディスカッションレポート

株式会社マクニカが主催するセミナー「コロナ禍に挑む! 製造業が勝ち抜く為のデジタルツイン活用術 〜事例と具体的なアプローチ方法〜」が2020年8月27日に開催された。

本稿では、同セミナーでのパネルディスカッションに関して紹介する。このパネルディスカッションでは、プラントシミュレーションの実際の操作方法から、デジタルツインやDXがなぜ広まらないのかという幅広い議題に関して議論を行った。

【登壇者】

  • ウイングアーク1st株式会社 Enterprise統括部 製造企画営業部 IoT推進グループ グループマネージャー 小林 大悟氏
  • シーメンス株式会社 ポートフォリオ開発本部 MFE&MOM スペシャリスト 小林 憲貴氏
  • 株式会社マクニカ インダストリアルソリューション事業部 事業部長 阿部 幸太氏
  • IoTNEWS 代表/株式会社アールジーン 代表取締役 小泉 耕二(モデレーター)

プラントシミュレーションで何がわかるのか

シーメンス小林氏によるプラントシミュレーションの操作の様子。ライブラリから設備を配置し、パラメーターを入力しただけで簡単なシミュレーションがその場で行われた。
シーメンス小林氏によるプラントシミュレーションの操作の様子。ライブラリから設備を配置し、パラメーターを入力しただけで簡単なシミュレーションがその場で行われた。

冒頭、IoTNEWS 小泉から、マクニカの阿部氏に、「講演の中で、70〜80%の精度でまずは始めれば良いという話があったが、具体的にはどのようなことが見られる精度なのか」と質問した。

すると、阿部氏は、「だいたい傾向がわかり、事実とそんなにずれていないということだ」と述べた。

例えば、シミュレーション上で在庫が貯まっていたとする。その場合、現実の工場でも、タイミングが少し違っていたりするものの在庫が貯まるといった具合だ。「ざっくり把握できたり、感覚的に正しいということはあるが、細かく現実を反映できているわけではない」というくらいの精度だという。

そこで、プラントシミュレーションによってどのように予測ができるのかということについて、シーメンスの小林氏が、実際に操作しながら設定方法を解説した。

シーメンスのプラントシミュレーションでは、基本的なライブラリ(装置のイメージ)があるため、配置し、パラメーターを設定することでシミュレーションが可能になるという。

ライブラリから、設備や搬入口を選択し、ドラッグアンドドロップで配置し、設備間をベルトコンベアで接続する。それぞれの設備には予めどのようなパラメーターを設定できるかが決まっていて、プロセス時間や歩留まりなどのパラメーターを設定する。これだけで簡単なシミュレーションは出来てしまうという。生産量や各設備の稼働状況などが結果として表されるのだ。

プラントシミュレーションの操作イメージ。左上から時計回りに、設備の配置、設備間のコンベアの配置、パラメーターの設定、シミュレーションの実行となっている。
プラントシミュレーションの操作イメージ。左上から時計回りに、設備の配置、設備間のコンベアの配置、パラメーターの設定、シミュレーションの実行となっている。

しかし、これだけでは70〜80%の精度とは言えないという。まずは、「それなりに把握できるレベルにする」ということが重要であり、ある程度「見たい情報」に対して、「仮設を立てた上で設定を行う」必要があるのだという。

しかしこの部分のすべてを利用者が実際にやろうとすると大変なので、マクニカでは、現在、シーメンスのプラントシミュレーションで使える、「インプットとアウトプットが明らかになっているライブラリ」を作成しているという。これにより、同じような製品を作っている工場であれば、同じテンプレートを使用することで概ね見たい情報を短期間で得ることができるのだ。

次に小泉から、ウイングアーク1stの小林氏に対し、「講演では、多角的に診断を行う必要があるとあったが、現場の視点をさらに多角的に見るにはどうしたら良いか」と質問した。

ウイングアーク1stの小林氏は、「稼働率を金銭面の指標として見たいという人がいる」とした。

例えば、シミュレーションの結果、リースで購入した100台のフォークリフトの内、あまり稼働していないフォークリフトの数がわかれば、リースの契約を止めるということができるはずだ。

このように、単純に稼働情報として現場の改善に止まらせず、経営的な視点を持つことで、シミュレーションデータをより多面的に活用することができるのだ。

これに関してマクニカの阿部氏は、「プラントシミュレーションを使うことで、実際に変更を加えた時にどうなるのかということを、多面的にコミュニケーションできることが良い点である」とした。

プラントシミュレーションで改善を行う方法

シーメンス 小林憲貴氏
シーメンス 小林憲貴氏

そして、小泉は「プラントシミュレーションを使用した時、これまでやっていた仕事はどうなるのか」と質問した。

これに対しシーメンスの小林氏は、「デジタル工場が出来ていたとしても、人間が検討する項目がなくなったわけではない」という。

検討するという作業自体は残っていて、その検討をデジタル工場で行うことができる。そして、プラントシミュレーション上には、「自動最適化」という機能もあり、ユーザーが設定したパラメーターを最適化することもできるのだ。

実際に改善を行う場合、「どこが悪いのか」を判断する必要がある。その上で、設備の配置変更や新規設備の導入などといった改善案をいくつか用意し、モデルに組み込んでシミュレーションを行う。設備だけではなく、部材の滞留状況や作業者の動線をシミュレーションすることも可能だ。

シーメンスの小林氏は、経験上「計画が曖昧なまま、工事を開始してしまったり、実際に設備の配置を変更してみたものの結果が出なかった」という話を聞くことがあるという。

現場を動かすということは、コストもかかるし、その間工場を止める必要がある場合もある。そこで、こうしたムダを無くすためにも、「シミュレーションで検討してから実際の現場で作業を行ってほしい」と語った。

こういった、様々なことが実現できるプラントシミュレーターだが、ソフトウエアの買取価格で約250万円程度、さらにマクニカの提供する月額サービスを利用した場合は7万円/月で利用できるという。

プラントシミュレーションとMotionBoardの関係性

ウイングアーク1st 小林大悟氏
ウイングアーク1st 小林大悟氏

次に小泉から、ウイングアーク1stの小林氏に対し、「このプラントシミュレーションとウイングアーク1stのBIツールであるMotionBoardの関係性はどの様に理解したら良いか」と質問した。

ウイングアーク1stの小林氏は、「見える化するものは「実績データ」が多い。その一方でシミュレーターから出てきたデータは「未来のデータ」であることが面白い」と述べた。

更に、「70〜80%の精度でシミュレーションした結果、シミュレーションと実際の現場での結果に差異が生まれることが面白い」という。シミュレーションの素になる、ある意味理想的なデータと実際の現場での結果のズレが改善のネタになるからだ。

数値に対して基準値があるから、その数値に対して良し悪しの判断ができる。工場では、標準サイクルタイムや標準原価といったような基準値があり、こうした基準を作るもののひとつとしてシミュレーションの結果があるのではないか。ウイングアーク1stの小林氏は、「シミュレーションの結果から新しい標準を作成できるのではないか」とした。

シーメンスの小林氏は、「改善を行うためには、良くするための指針が必要であり、計画時には出来ているが実際には出来ていないということを改善していくべきだ」とした。

実績データにも誤差がある場合があり、実績データから分析する場合もシミュレーションの精度を向上させる場合も、データが曖昧であることを認識した上で、データを投入してみる。そうすることで、現実と乖離している部分が明確になり、その部分を解決するためにIoTを活用し、実績データもシミュレーションの精度も向上させていくことができるだろう。

DXやデジタルツインがなかなか広まらない理由と打開するためには

マクニカ 阿部幸太氏
マクニカ 阿部幸太氏
最後に小泉から各登壇者に対し、「DXやデジタルツインが広まらない理由はどういったところにあるのか」と質問した。

阿部氏は、「難しく言ってしまうからだ」と回答した。本来であれば、テクノロジーがすごいと言う必要はなく、どういったことが実現できるのかということを説明すれば良いはずだが、どうしてもテクノロジーが先行してしまっている印象があるという。

「経営者は、何をやりたいかが明確になっていて、何を使ってやるのかというテクノロジーの部分は気にしていない」という。現場のどこを変更したら結果がどう変わるのかという比較の話がしたいのであって、それを便利にするのがテクノロジーの役割であるのに、テクノロジーの話をしてしまうからうまくいかないのだろう。阿部氏は、「逆にその部分を変えたプロジェクトはどんどん進んでいく」という。

ウイングアーク1stの小林氏は、「料理と同じだ」と述べた。料理の重要な点は、その料理が美味しいかどうかであり、ツールである包丁がすごいかどうかということを気にしている人はいない。さらに料理が美味しいという中にも、肉料理が好きな人、魚料理が好きな人といったような好みがある。

企業や工場の中にも様々な人がいて、多種多様なことを言ってしまうのでうまくいかないのだろうという。情報を見せる人に対して、その人が喜ぶ切り口に変換してあげるということが重要だ。ウイングアーク1stの小林氏は、「稟議を通す上で協力してくれる人や組織の中で重要な役割を持つ人を見つけ出し、その人に伝わる様に変換して見える化してあげることが重要だ」とした。

しかし、データを掛け算しても直接金銭的なデータにはならないが重要なデータというものがあり、ここが難しい部分だという。例えば、人の生産性が上がったとしても、注文が溢れているような状況でなければ、生産数は変わらない。金銭面は変わらないが、その人の時間的な余裕が生まれる。8時間かかって生産していたものが7.5時間で生産できるようになったとしてもその人の賃金は上がらないだろう。この時にこの30分という余裕をどう活用するかということを提案できるようになればベストであるが難しいだろう。

シミュレーターはビジネスモデルを組み立てる上でも役に立つのかもしれない。

シーメンスの小林氏は、「製造業の訪問先ではプラントシミュレーションのことを高級なEXCELだと言っている」と述べた。確実に成果を出せると思っているので、導入してもらうためにそういった話し方をしている。相手に合わせて話し方を変えることが重要だ。

最後に、マクニカの阿部氏は、「社外、特に顧客のメリットに目的を持ったプロジェクトは、エネルギーが減衰しない」と話し、顧客に提供する価値のディスカッションから入ることが重要なのではないかと語った。

参考:このイベントの他の記事は次のリンクから見ることができます。
株式会社マクニカのウェビナー「コロナ禍に挑む! 製造業が勝ち抜く為のデジタルツイン活用術 〜事例と具体的なアプローチ方法〜」

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