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ビルの警備を行うアバターロボット「ugo」で警備の省人化を目指す -Mira Robotics 松井健氏、大成 飯倉翔太氏インタビュー

Mira Robotics株式会社と大成株式会社と品川シーズンテラス株式会社は合同で2019年11月より品川シーズンテラスにて警備ロボット「ugo(ユーゴー)」の実証実験を行っている。

ビルメンテナンス業界でも、特に資格が必要かつ公安委員会による認定の必要がある警備業、現場で活躍する警備員の成り手が不足していることから、テクノロジーを活用した省人化は急務となっている。しかし、従来の単一動作型ロボットでは、ビルごとに異なる環境・仕様やサイズ感に対応が難しく、作業範囲が限定的であるという課題があった。

同社が実証実験を行っている警備ロボット「ugo」は、直感的な遠隔操作と自律走行モードの両方の機能を併せ持つアバターロボットだ。

今回は、警備ロボット「ugo」を開発したMira Robotics株式会社 代表取締役CEO 松井健氏と、品川シーズンテラスでの実証実験で「ugo」を使った警備を行っている大成株式会社 事業本部 セキュリティカンパニー 東京事業部 品川シーズンテラス現業所隊長 飯倉翔太氏に話を伺った。(聞き手:IoTNEWS代表 小泉耕二)

遠隔操作と自律走行を切り替えランダムな状況に対応するロボット

IoTNEWS 小泉耕二(以下、小泉):ロボットはどういう目的で作られたのか教えてください。

Mira Robotics 松井健氏(以下、松井):私たちは元々遠隔操作のアバターロボットという「自分の分身になるロボット」を作っていました。そしてこのアバターロボットを使って、人が場所にとらわれずに働けるような仕組みとして開発しています。

サービス業において人手不足が顕著な問題となっていますが、人がその場所に行かずとも働けるような仕組みが出来ると、より雇用のミスマッチングや、働き手不足が都心部だけで起きるという状況が改善できるのではないかと考え、このようなロボットを作っています。

小泉:ロボット事業をはじめた理由についてお聞かせください。

松井:日本の人口減少と労働者不足が一番の課題と感じておりまして、そこに対して技術で解決できないかという想いがありました。家電やモノはIoTでスマート化していくのですが、使いこなすには人がいなければならないというのが現状でした。それをどうやったら解決できるかとしたときに、このアバターロボットを考えつきました。

現場に人がいない状況でもコントロールする、オーケストレーションできるような、そういったロボットがいると、そもそもその場所に人が行かずとも、ある程度自動化できたり、作業を効率化できたりするのではないかと考えています。

ただ、今のロボットの技術ですべてを自動にするというのは難しいです。AIの技術も発展していますが、特にこのサービス業と言われる業種の仕事は想定外のことが起きる可能性が高いです。想定外の状況においても運営できるようにするためには、やはり人が遠隔地からでも操縦できるという余地を残しておく。そうすることで想定外のことにも対応することが出来ると考えています。

小泉:このロボット「ugo」は自動でも動くし、遠隔で操作もできる、というのが特徴というわけですね。

松井:そうですね、車のマニュアルとオートマのちょうどハイブリットみたいな、切り替えで両方使えるようなものと考えていただければと思います。

ビルの警備を行うアバターロボット「ugo」で警備の省人化を目指す -Mira Robotics 松井健氏、大成 飯倉翔太氏インタビュー
Mira Robotics株式会社 代表取締役CEO 松井健氏

一人で複数のロボットを操作し場所にとらわれず働ける環境を作る

小泉:ロボット「ugo」は全てミラ・ロボティクスで作られているのでしょうか。

松井:ハードウェアからクラウドのプラットフォームまですべて自社で作っております。元々私がハードウェアやIoTデバイスを作る会社をやっていまして、そこでのノウハウを生かしてロボットの開発を進めています。

小泉:実際に動くモノをつくるとなると、現場ではうまくいかないなど大変なことが多々あると思いますが、どう解決されたのでしょうか。

松井:今まさに多数の課題に直面しています。思った通り動かない、動いたとしてもものすごく音がうるさいなど、実際の現場は色々な環境があるので、ここではうまく動くけど、違う環境ではうまく動かないとか、そういったケースがたくさんあります。現在、これらの課題に対して実証実験を繰り返して徐々にブラッシュアップしているという状況です。

小泉:実証実験の詳細について教えてください。

松井:昨年の11月より品川シーズンテラスで実証実験を開始しております。まず「ugo」初号機を現場の警備員に遠隔操作で操縦していただいて、警備員が現場に行かなくても、巡回や立哨警備(※)が出来るか、実験を行いました。

次の段階として、更にブラッシュアップをして、移動の走行精度を高めたり、駆動音がうるさかったのでサスペンションを入れて静かに走行できるよう静音性を高めたりということをしていました。

現在はロボットに自律移動のLiDAR(ライダー)センサーを取り付けて、巡回警備を自動で行うということに取り組んでいます。それができるようになると、一人の警備員さんで操縦できる台数が増えます。

従来の遠隔操作ロボットといえば操作者一人に対して一台しか操縦できないのですが、「ugo」は部分部分の作業を自動化することで一人で複数台操縦できるようになるというところを目指しています。

警備業界は人手不足ですが、物理的に人が行かなければならない業務となっている立哨警備では一人分の時間が拘束されてしまい、また巡回警備でもこの品川シーズンテラスのような広いビルでは巡回するだけでも何時間もかかってしまっているというのが現状です。

私たちはこの一人で複数台操作できるアバターロボットを活用することで、広いビルでも一人で警備監視業務にあたることが出来るようになるという世界を目指しています。

「ugo」は車輪によって前後左右に移動することが出来る。また、アームを使用してつかむ、押す、敬礼などの表現をするといった動作が可能だ。表情も変化させることができ、警備中などの短い文字列を表示することが出来る。また、「ugo」にはマイクとスピーカーが備えられているため、事前に録音した音声を流せるほか、ボタンを押すだけで合成音声による声掛けができ、また話しかけることで警備室にいる操作者と会話をすることが出来る。

ビルの警備を行うアバターロボット「ugo」で警備の省人化を目指す -Mira Robotics 松井健氏、大成 飯倉翔太氏インタビュー
左から「ugo」初号機、二代目、三代目と改良が重ねられている

小泉:背の高さが違うのは何か意味があるのでしょうか。

松井:この「ugo」は背の高さが変わる昇降機能を持っています。例えば高いところのものを見たり、立哨警備で背を伸ばした状態で監視を行うことで抑止力にもつながったりと、高さを変えることで活用範囲が広がります。

また、背を下げることで、腕を伸ばして床に落ちている落とし物を拾うといったことにも使っていこうとしています。

ビルの警備を行うアバターロボット「ugo」で警備の省人化を目指す -Mira Robotics 松井健氏、大成 飯倉翔太氏インタビュー
左:上部の360°カメラ、右:アーム先端。丸い棒のような部分でエレベーターのボタンを押す

小泉:実際にこのアームを使うシーンはよくあるのでしょうか。

松井:「ugo」はアームを使ってエレベーターのボタンを押します。エレベーターが利用できることで縦の移動が出来るようになりました。従来のロボットのほとんどは横の移動しかできなかったのですが、オフィスビルでは縦の移動が必要になるため対応しました。

エレベーターに乗る際はアームで車いす用のボタンを押してエレベーターを呼ぶ。ビルのハード側がロボットに対応していない場合でもエレベーターを利用し階を移動することが出来る。

小泉:この上部のものはカメラでしょうか。

松井:はい、遠隔操作を基本としていますので、俯瞰のカメラが必要になります。横を人が通りすがることなども見られるよう、360°カメラをつけています。

小泉:近くに人が来たら止まるということもできるのでしょうか。

松井:下部についているToFセンサーで360°衝突検知をしています。

小泉:工場などでは人がいる場でアームが動く場合は安全面を配慮してゆっくり動くよう設定されていることが多いのですが、「ugo」の動作はどうでしょうか。

松井:同じく人がいる環境だと安全面に配慮してゆっくりな動きになりますが、今回実証実験を行っている警備の業務は深夜の時間帯などの人がいない時間帯での作業となります。そういった人があまり働きたくない時間帯でこういったロボットが活躍できると考えていますので、リスクを抑えながら活動できると考えています。

ビルの警備を行うアバターロボット「ugo」で警備の省人化を目指す -Mira Robotics 松井健氏、大成 飯倉翔太氏インタビュー
左:下部のToFセンサー、右:胴部分にもカメラがついている

現場の声を反映し、導入しやすいロボットへ

小泉:今後どういった取り組みを行っていきたいとイメージされてますでしょうか。

松井:例えば、立哨警備であれば腕は要らないので外して提供するなど、なるべくシンプルな機能として提供していこうと考えています。現場の警備員さんのフィードバックをいただきながら製品をブラッシュアップしていますが、ロボット自体の値段が高くなってしまうと導入する側もコストに見合わなくなってしまいます。ロボットは現場で使っていただけないと意味がないので、ハードウェアはなるべく安く作りつつ、現場の方が使いやすいモデルを作りこんでいるところです。

小泉:ありがとうございます。それでは実際に警備で利用されている方にも話を伺いたいと思います。まず初号機のときの印象をお聞きしたいのですが、操作は簡単にできるものでしたでしょうか。

大成株式会社 飯倉翔太氏(以下、飯倉):この「ugo」はゲームのコントローラーで操作することが出来ます。私は結構ゲームリテラシーがあったのですんなり動かすことが出来ました。

操縦する際はゲームのコントローラーを使用する。ジョイコン(360°どの方向にも倒すことができるスティック)で前進、横移動、後退などが出来るほか、画面右手に並んだボタンから決められた音声を流す、表情を変えることなどが出来る。また、複数の「ugo」のカメラ映像を同時に表示し、並列して監視・操縦が可能となっている。

小泉:むしろ楽しく操作が出来そうですね。ロボットが操作型から自律型に変わっていく中で業務の負担というのは減ってくるものなのでしょうか。

飯倉:現在は実証実験の段階なのですが、やはり私たちが一台一台操作するとなると神経が必要になるのでそれが軽減されるというところで自律型にはメリットがあると思います。

小泉:トラブルがあったときは実際にその場に駆け付ける必要があると思いますが、その場にいないことがもどかしいと思うことはないのでしょうか。

飯倉:最初の頃は現場にいないもどかしさ、すぐに行けたらなという思いはあったんですけども、「ugo」を代わりに行かせるということで楽になる部分もかなりあります。そこで住み分けをしつつ使っていけるのではないかと思います。

ビルの警備を行うアバターロボット「ugo」で警備の省人化を目指す -Mira Robotics 松井健氏、大成 飯倉翔太氏インタビュー
大成株式会社 事業本部 セキュリティカンパニー 東京事業部 品川シーズンテラス現業所隊長 飯倉翔太氏

小泉:今後追加して欲しい機能はありますでしょうか。

飯倉:ビルの巡回警備では落とし物があったりゴミがその場に落ちていたりするので、アームの特徴を活かしてセンサーでモノを見つけて拾うといったことができるといいと思います。あまり機械に詳しくない側からすると簡単に出来るのではないかと思ってしまうのですが、やはりなかなかうまくいかないところもあります。

小泉:こういったロボットと一緒に作業をしていくというのが、もう少ししたら当たり前になるのかもしれませんが、先駆者となると課題も多いのではないでしょうか。

飯倉:そうですね、こちらに3台の「ugo」がありますが、それぞれバージョンアップしています。こうやって次々新しいものが出ると次はどんな機能が追加されるのかと楽しみに、また充実してやらせていただいています。今後の開発に期待しています。

小泉:本日はありがとうございました。

※立哨警備:ビルの入り口などの決められた場所で立って監視を行う業務。

動画解説

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