なめらかで心地よいユーザー体験のために、AI技術を使いこなす ―LINE AIカンパニーCEO 砂金信一郎氏インタビュー【後編】

企業:

ユーザー体験を重視した技術開発がひろがってきた

小泉: 砂金さんは、(内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室 CIO補佐官として)政府と協力して、日本のDXを推進していくような仕事も担われています。

そこでお聞きしたいことがあります。最近、人が日常生活の中で感じる「スマートさ」とは何かということを、日本のテックベンダーが理解し始めてきたような実感があるのですが、砂金さんはどう思われますか。

砂金: 同感です。私は、ユーザー体験の「スマートさ」というのは、そのUXの心地よさや、なめらかさにあると思っています。たとえば、LINEが発売しているスマートスピーカーは、現時点ではコマンドを言う前に、「ねえCLOVA」と声をかけなければなりません。

これは、あくまでシステム側の都合です。本当は、もっと自然なUXの方が人間にとって心地よいということはわかっているのですが、まだ解決しなければならない技術的な問題があるのです。ユーザーがどんなふうに働きかけても、柔軟に対応できる懐の深さをシステム全体としてもてるようになると、世の中が大きく変わってくると思います。

小泉: 御社のように、UXの心地よさが何かということを理解していれば、あとは技術的な解決を目指すことになります。一方で、そうしたことに気づけないという課題もありますよね。

砂金: おっしゃるとおりです。私が思う日本のDXの課題は、SIerのエンジニアと、自らプロダクトサービスを創りだしているエンジニアとの間に、まだ大きな「考え方」の隔たりがあるということです。

正直なところ、仕様書通りにプロダクトをつくるという環境の中にとどまっていては、社会を変えるようなサービスを生み出すことは難しいと思います。LINEにも当然まだまだ課題はありますが、それでも自分たちで創ったプロダクトに関してユーザーのフィードバックを受け取り、ユーザーは何が心地よくて、何が心地悪いのかを理解した上で、システムを改善していこうという(アジャイル開発の)プロセスがあります。

この方法を続けていきさえすれば、非効率な山の登り方はすることがあったとしても、必ず高みへと登っていけるはずです。ところが、こうしたアジャイルのしくみがなければ、結局は同じところをぐるぐると回っているしかなくなるわけです。

小泉: どうして、まだ隔たりがあるのでしょう。

砂金: 仮説を立ててプロトタイプをつくり、サービスを少しずつ育てていくというロールモデルがまだ少ないからではないでしょうか。そのため、プロダクトを自ら創り、その体験をユーザーと共有するということに、人生のリスクをかけようとは思えない。しかし、本当は従来の考え方にとどまっていることがリスクであるということを、もっと多くの人に気づいてほしいと思います。

ただ、少しずつ良くなっているとは思います。むこう1~2年くらいが勝負ではないでしょうか。

小泉: その点では、LINEのAIカンパニーがやろうとしていることは、非常にわかりやすいモデルだと思います。今はスマートフォンの中にとどまっているさまざまな技術や機能が、あらゆるデバイスや場面に実装される世界を創っていくということですから。

砂金: ありがとうございます。AIカンパニーでやりたいのは、既存のUXではまだちょっとわずらわしい部分を、AI的なアプローチで解決するということです。音声認識が広く使われるようになったといっても、まだテキストの方がやりやすいという人もいますよね。問題はその微妙な心地よさの差なのです。

また、未来に目をむければ、スマートフォンを出すという行為自体も、エレガントではなくなる時代がいつか来るわけです。お店に入ってスマートフォンを出し、QRコードを読みこむことで注文や決済が完了するというしくみは、今は便利です。でも、そもそもスマートフォンを出す必要がなく、顔認識と音声認識だけで完了すれば、もっと便利ですよね。

もちろん、音声認識や顔認識を導入する上で、プライバシーの問題は別途解決しなければなりません。しかし、そこをクリアしさえすれば、スマートフォンをポケットに入れたまま、色々なこと(決済など)が快適にすませられるようになります。

なめらかで心地よいユーザー体験のために、AI技術を使いこなす ―LINE AIカンパニーCEO 砂金信一郎氏インタビュー【後編】
LINE株式会社 執行役員/AIカンパニーCEO 砂金信一郎。内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室 CIO補佐官も兼務。

私が思うのは、「中国の深センや上海が進んでいる、日本は遅れている」などと言っているうちは、一生彼らには勝てないということです。彼らには彼らの文化、法制度、技術力があり、それらを総合しての中国モデルがあるはずです。私たちがやるべきことは、あくまでユーザーが――日本であれば日本人が――心地よいと思えるようなサービスを創ることです。少なくともLINEの社員はそういう気概でやっているし、またそういう人たちが最近では増えているなという機運は感じます。

小泉: 今後はAI技術を社内に展開するだけではなく、メーカーなどとも協業していくのでしょうか。

砂金: もちろんです。技術提供に限らず、たとえば先程(前編で)ご説明したボイスUXのデザインなど含め、どういうプロダクトのつくり方や改善をしていくと、ユーザーに愛されるサービスになるのかということについては、私たちの知見を活かせるのではないかと考えています。

小泉: AIカンパニーはまだできたばかりの組織ですよね。人材はどれくらい募集しているのですか。

砂金: たくさん募集しているのですが、まだまだ足りていません……。AIカンパニーが求める人材は、優秀な人と一緒に仕事がしたいと思うリサーチャーやエンジニアです。LINEもNAVERも、とても優秀なリサーチャーとエンジニアをそろえており、とてもいい研究環境だと思います。

また、音声認識や言語処理の分野はそれなりにメンバーが充実していますが、コンピュータビジョン(画像認識)の分野については特に人が足りていません。世界的に見て、この分野の人材が日本では比較的少ないのと、LINEに入って画像処理で何をするのかイメージがわかないという人が多いからでしょう。逆にいえば、この分野を得意とする方がLINEに入社してくれたら、すぐに活躍できるかもしれません。

小泉: AIカンパニーのよさは、LINEのブランドやサービスに寄りすぎていないということですよね。さまざまなサービスの間にいて、それらをコネクトし、なめらかにする。そういう点では、今後画像認識で何ができるかということは、非常に面白いテーマだと思います。

砂金: 自分でいうのもなんですが、伸びしろはものすごくあると思います。技術の進化を指数関数のグラフで表すことがよくありますが、LINEが今進めていることは、その指数関数的に急成長する手前の位置にあると言えます。早いうちに、私たちとチャレンジを始めた方がよいのではないでしょうか(笑)。自分が創った技術が、直接ユーザー体験に活かされるということにときめく人がいれば、ぜひ一緒に仕事をしたいと思います。

小泉: 貴重なお話をありがとうございました。