2015年時点で3,384万人(26.7%)といわれる65歳以上の高齢者は、2020年には3,612万人(29.1%)にも上るといわれている。
一人暮らしの老人や老老介護とよばれる、老人が老人を介護する環境が増える中、介護の問題を解決するIoTサービスは多くリリースされてきた。
ニフティが提供するサービスは、これまでIoTNEWSが取り上げてきたモノとは一風変わっている。
これまで介護の現場といえば、経験・勘・カメラなどで異常を察知し不足の事態を「発見」するものが多かったが、小さなデータの異変を察知しすることで不測の事態を「予防」するというのだ。
このサービスの特徴は、「高齢者自身が気づきにくい体の異変や、室内環境の異常を察知する」という予防のためのサービスであるというところだ。
具体的には、温度・湿度・照度といった室内環境を測定するだけで、カメラなどプライバシーの問題を引き起こすものは利用しない。設置に関しても複雑な設置は不要で、ニフティの提供するMVNOサービス(NifMo)を利用するため設置に手間がかからない。さらに、グラモ社のiRemoconを利用することでヘルパーの事務所から遠隔で空調を操作することができるというのだ。
これにより、暑い夏の日に「クーラーなんかつけない」という老人に対しても外部から空調をコントロールすることができたり、照度センサーによって老人の睡眠サイクルの異常を検知することができるのだ。
熊谷市で行われた実証実験にみる、老人世帯を見守る際に必要なこと

NPO法人日本福祉ネットワーク 日本福祉カレッジ熊谷 山中規光氏によると、猛暑で有名な熊谷市では、猛暑の中クーラーもつけず孤独死する老人が後を絶たないという。
地域のケアマネージャーが数十人いても、老人宅を毎日1回訪問することすら現実的ではないので気づいたらなくなっていたという現実もあるのだという。たとえ同居家族がいたとしても、現実的には老老介護で十分な介護体制とはいいがたい状況なのだということだ。
「IoTで老人世帯の見守りをする」という活動をしているケースをよく見かけるが、遠方の家族がなんらかの危機を察知したからといって駆けつけることはできないし、地域のケアマネージャーが察知したところで、プライバシーの問題があるので勝手に個人宅に立ち入ることはできない。
そもそも、何かあってから気づくのでは遅いのだ。
今回、発表されたニフティの新サービス「おへやPRO」は、「照度センサーが部屋の明るさを測定し」「温度・湿度もセンシングする」というものなのだが、このサービスは法人向けサービスとなっており、例えば地域のケアマネージャーの拠点で複数世帯の情報をまとめてみることができることが特徴だ。
ケアマネージャは、取得した情報からヘルパーを訪問させる指示を出したり、必要に応じて個人宅のエアコンを遠隔操作することができるのだ。
例えば、部屋が暑くなりすぎていることをシステムが察知すると、管理ルームから遠隔操作でエアコンを操作して部屋を煤しくするといった具合だ。
また、照度センサーが取得する情報をみていて、毎日21時には部屋が暗くなるという生活習慣のヒトが、夜中まで部屋を明るくしているという状況がわかったら、昼夜逆転が起きており、徘徊などの可能性も疑う必要がある、ということをモニタリングすることが可能になる。
「今後は、システムからわかる情報をレポートとしてまとめてご家族にもわかるようにしていきたい」(山中氏)ということだ。
介護の現場にIoT機器を導入する際に起きがちな課題
実際に優れたシステムを提供しても、導入の際には様々な問題がおきるのだという。
「おへやPRO」は、ゲートウェイと家電コントローラであるグラモ社の「iRemocon」で構成されている。
ゲートウェイにはニフティが提供するMVNOサービスである「NifMo」を使っていて自宅にインターネット回線がなくても設置するだけで簡単にインターネット接続が可能となるのだ。
実際、セットアップにかかる時間は数分だという。(山中氏)
こんな簡単に設定することができる機器だが、「部屋に電源が足りない」「直射日光がセンサーにあたる場所では適切な温度センシングができない」などということも起きるのだという。実際に設置をする際は、延長コードを持って行って適切な場所を探して設置するなどのノウハウがあるのだという。
様々な見守りソリューションにおいて設置は自分でやらないといけなかったケースが多かったが、テクノロジーに疎い老人が相手だからこそ、テクノロジー自体には詳しくなくても日常生活でわかる範囲の課題さえ解決していれば正しく測定できるということができる、ヒトによる設置が必要なのかもしれない。
置きっぱなしのサービスは多くあるが、専門家がきちんとモニタリングしているのが大事だと山中氏はいう。
おへやプラスPROとは
「おへやプラスPRO」企画背景

ニフティでは、2014年から「おへやプラス」というサービスをコンシューマ向けに提供してきた。このサービスでは離れた家族をやさしく見守るサービスということで、あくまでも老人宅に設置したセンサーの情報は家族が受け取るという前提で作られていた。
これを見た老人介護をしているグループが、介護の現場でも使えるのではないかという話になり2016年1月から実証実験を開始しているというのだ。
昨今、見守り方にも変化がおきていて、データを取得して未然に防ぐということが重要視されている。市場としても390万人が対象になるのだ。
「おへやプラスPRO」でできること

「おへやプラスPRO」の利用イメージは以下のような感じだ。室内の異常を検知したらスタッフにメールが飛ぶという仕組みになっている。
事業者への以下のニーズが解決できるということだ。
・不測の事態
・スタッフの負担軽減
・介護サービスの充実
提供機器は、
・iRemocon Wifi(グラモ社)
・サービスアダプター
・モバイルデータ通信端末(設置工事不要)
管理画面では、どの世帯が温度・湿度的に異常になっているか、照度グラフではどういう睡眠状況かがわかる。
利用方法はNIFTYの法人IDが必要で、利用料金は以下の通り。(一定期間のお試し期間がある)
居宅サービス事業者向けのサービスとしてリリースし、今後、調剤薬局や高齢者向け住宅、団地の管理組合など地域でもつかっていただきたいと考えているということだ。
申し込みは受付を開始しており、デリバリーはゴールデンウィーク明けからスタートするということだ。
参考:
おへやプラスPRO
無料メルマガ会員に登録しませんか?

IoTNEWS代表
1973年生まれ。株式会社アールジーン代表取締役。
フジテレビ Live News α コメンテーター。J-WAVE TOKYO MORNING RADIO 記事解説。など。
大阪大学でニューロコンピューティングを学び、アクセンチュアなどのグローバルコンサルティングファームより現職。
著書に、「2時間でわかる図解IoTビジネス入門(あさ出版)」「顧客ともっとつながる(日経BP)」、YouTubeチャンネルに「小泉耕二の未来大学」がある。