サプライチェーン上の課題に俊敏に対応するSaaS「RapidResponse」 −キナクシス・ジャパン 金子敏也氏 インタビュー

昨今、新型コロナウイルスや半導体不足、為替の変動といった、製造業を取り巻く環境変化が、急激におきている。製造業は、現在、こういった変化に対し、俊敏な意思決定が必要になっている。

そこで、営業状況の変化に対して生産計画を立て、部材の状況や在庫数などを可視化し、高速コンピューティングを活用したSaaS「RapidResponse」を使って、製造業のサプライチェーンをサポートする、カナダを本拠地にするキナクシス・ジャパン株式会社 社長 金子敏也氏にお話を伺った(聞き手:IoTNEWS 小畑俊介)

DXに不可欠なサプライチェーン

これまでも、ERPシステムや各種ソリューションによって、需給のバランスをとるシステムは提供されてきた。しかし、その多くはソリューションのブランド名が統一されているものの、買収等で機能追加をしてきた経緯もあり、機能モジュールはそれぞれ別々のシステムでできていて、連動して動作するものも多い。

その結果、演算処理が重い、あるいはバージョンが統一されていない場合、モジュール間のデータ連携では何度もエクセルのエクスポートとインポートというフローから抜け出せない状況に陥っている。

また、多くのデータを集めて、様々なビジネスシーンにおける予測処理を行おうとした場合、データ量によっては処理時間が数時間以上かかるといった製品も多かった。

サプライチェーン上の課題に俊敏に対応するSaaS「RapidResponse」 −キナクシス・ジャパン 金子敏也氏 インタビュー
従来の計画立案の仕組みと問題点:モジュール間をエクセルでやりとりをしている

その一方で、基幹システムを入れ替えたからといって売り上げが上がるわけではない。「素晴らしい製品を作り、いかに安く、いかに正しく、顧客に提供するかが重要である」ということに、多くの経営者が気付き出していて、そういう経営者はサプライチェーンに熱い視線を送っていると、金子氏はいう。

サプライチェーンに注目が集まる一方で、昨今は、調達から製造、販売の流れがグローバル化していたり、自然災害や少子高齢化、為替レートといった外部環境リスクが増大していたりする。また、ニーズの多様化による製品ライフサイクルの短期化や製品数の増大など、製造業を取り巻く経営環境はますます複雑かつ深実になっているのだ。

こういった局面においては、「可視性」「俊敏性」「回復性」の3つが重要になる。

まず、サプライチェーン全体を可視化することができれば、予測不能なリスクが軽減でき、迅速な対応が可能になる。もちろん、予測ができているわけだから対応も迅速になる。

そして、プランニングを自動化することで、コストを削減し、生産性を向上することで、回復性も高まるのだ。

キナクシス社のデジタルサプライチェーンソリューションである「RapidResponse」は、S&OP(セールス・アンド・オペレーション・プランニング)、需要計画、供給計画、在庫計画、といった従来別々のモジュールとして作られていたソリューションを、SaaS型のワンシステムとして提供することで、同時並列計画(コンカレント・プランニング)が実現できるのだ。

サプライチェーン上の課題に俊敏に対応するSaaS「RapidResponse」 −キナクシス・ジャパン 金子敏也氏 インタビュー
バケツリレーをやめ、同時並列処理を行うことで、変化に対して俊敏な対応が可能になる

また、クラウドの資源を活用していることから、これまでのモジュール化されたシステムでは10時間程度かかっていた予測処理も、15分程度で終了することができ、さらなる細かなシナリオ変更では数秒という単位で予測が可能になるのだという。

イメージがつきにくい方のために、例えば、ある日災害が起きた場合の予測を3通りについて行うとする。

まず、1つ目の予測は「災害が起きない状態での需給状態」に対して、2つ目が「災害が起きた場所にある工場での生産を別の工場に振り替える場合」、3つ目が「お客様に分割納品した場合」といくつものシナリオを立て、シミュレーションを行うのだ。

こういったシミュレーションにおいて、これまでは数時間かけて1つ目の予測を行うことになっていた。2つ目ももちろん膨大な時間がかかってしまうため、1つ目の予測が終わったデータを活用してエクセルで必要な情報を抜き取り、手作業で予測値を計算している担当者も多かったのだという。

これでは、予測システムを導入した意味がない。

しかし、同時並列計画が立てられる「RapidResponse」では、それぞれの予測が数秒で終わるため、担当者はエクセルの手計算や、シミュレーションの待ち時間から解放されるというのだ。

カシオの場合

例えば、カシオ計算機の場合、従来はバッチ型のSCMソリューションを使っていたので、夜間バッチで計画を立てると翌朝結果がでるという状況だった。計画担当者は、この結果を信頼するしか手立てがないので、朝になって営業から変更の要請があったり、部品を代替してほしいという要求がきたりすると、急いで手作業で修正しなければならなかったのだという。

そこで、「RapidResponse」にリプレースしたところ、計画担当者は、朝出勤してからでも様々なシナリオを模索することで、質の高い生産計画を立案することができるようになったということだ。

現在では、G-ShockのECオーダーにも活用されているのだという。

コニカミノルタの場合

コニカミノルタは、コロナ禍の初期段階で、生産停止に追い込まれる工場がでてきたことで、大きな問題に直面していた。

そこで、「ある工場が止まったとしたら、世界中の拠点のどこにどういう影響が起きるのか」をシミュレーションする必要があったのだという。

そこで、「RapidResponse」を導入した結果、船便から航空便に変更することで納期遅れを回避することができるということがわかったのだという。また、こういった変更には通常コスト増がつきものだが、RapidResponseでは、セールスオーダーによる売り上げ予測と、コスト要素による利益状況もデータとして持てるため、コスト増が許容範囲かどうかの判断をすることができるシミュレーション結果を弾き出したのだという。

サプライチェーン上の課題に俊敏に対応するSaaS「RapidResponse」 −キナクシス・ジャパン 金子敏也氏 インタビュー
シナリオプランニングのイメージ:事業上必要なKPIに対して重み付けを行った上で、複数のシナリオを同時にシミュレーションすることができる

現在では、安全在庫の基準を最適化したり、最新の販売状況を週単位の生産計画に即座に反映したりすることができ、複合機分野だけでなくヘルスケア分野にも導入を拡大しているということだ。

RapidResonseを導入する際の工程

「RapidResponse」はSaaSなので、システムを活用する前に、利用企業は、まずサプライチェーンのあるべき姿を明確にすることが重要だ。

S&OPや需給、在庫の最適化というテーマに関して、方針が明確である必要がある。

その上で、BOMのアイテム数や深さなど、現在あるデータを見直す。金子氏によると、「やりたいことに対してデータが揃っていない場合は、部分的な対応からスタートする場合もある」ということだ。

この場合、短期的に実施可能な対応を進めながら、必要なデータを準備するという事になる。

データに関して、製薬会社のように、原材料の消費期限がある場合は古い方から提供するなどのルールが必要な場合も、RapidResponseでは、そういう「業界特有の考え方をあらかじめ把握しているため、カスタマイズの必要がないという特徴がある」と金子氏はいう。

この辺はSaaS型で提供されるソリューションを採用する際の重要なメリットであるといえる。

また、「導入時には現場のキーパーソンと現在の業務について認識を合わせることも重要」なのだという。

通常業務で忙しいキーパーソンとの時間は簡単には取れないが、早い段階でモデルを作って、クライアントに動きを見ていただきながら作り上げていくという、アジャイル型の導入が可能なため、膨大な検討期間にキーパーソンを振り回すことなく、短期間でも効果をあげることができるのだ。

そして、外資系企業のSaaSを導入する際、国内企業はデータの置き場所を気にする場合があるが、RapidResponseの場合、国内のデータセンタを利用可能であるため、そういった懸念も生じないのだということだ。

サプライチェーンの課題へのさらなる挑戦

社内の問題はここまでの内容で解決がつきそうなイメージが持てたのではないだろうか。しかし、サプライチェーンの最適解を求めようとすると、どうしても外部企業とのデータ連携や、外部環境の変化をシミュレーションにどう取り込むか、といった問題が発生する。

例えば、昨今問題となっている半導体不足について、RapidResponseでは何ができるのだろう。

半導体不足となることで、需要と供給が合っていない状態になるわけだが、そういう場合、注文数を中心に考えるだけでなく、利益がどれくらい出るか、に注目することができるのだという。

例えば、部品が供給されないのに、注文順で製造をしていると、「本当は違う順番で製造をした方が儲かる」といったケースでは損をする。そこで、RapidResponseを使うと、ある部品が供給不足となった時に、利益が出やすい製品はどれなのか?といったシミュレーションが簡単にできる。

自動車メーカーにおけるCO2排出削減というテーマに関しても、どの車種をどれくらい作れば、どのくらいのCO2排出量となるか、が予測できるので、「企業が目指すCO2排出量にあった製造はどういう状態なのか」ということをシミュレーションすること容易だ。

為替の変動に対しても、同様に「どういう利益がでるのか」ということもわかる。

さらに、RapidResponseは、代替案を提示することもできると金子氏はいう。

何か問題が起きた場合に、「こういった代替案があります。」ということまで教えてくれるのだ。計画担当がケースを想定して仮説検証のためのシミュレーションをするという従来のやり方からすると、計画担当者の経験不足も補えそうだ。

こういった様々な不確実性に対するシミュレーションを行うことができることが、今後ますます不確実性が高まるビジネス環境に対応するのに必要なソリューションとなるのだ。

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