第5回 IoT/M2M展 レポート その3 ーIoTを支える組込みシステムの品質向上

IoT/M2M展のレポート、第3回は、IoTのエッジ側は組み込みシステムが制御する。IoT時代に組み込みシステムはどう作っていくべきか、という点について、日本大学 理工学部 応用情報工学科 教授 平山 雅之氏に伺った。

平山 雅之氏

1986年(株)東芝に入社。システムソフトウェア技術研究所、研究開発センターなどを経て2011年より現職。この間、(独)情報処理推進機構ソフトウェアエンジニアリングセンター主査、東海大学専門職大学院組込みシステム研究科客員教授などを歴任。専門はソフトウェア品質・信頼性技術。品質管理学会会員、情報処理学会フェロー

-IoTを構成する要素としての組込みシステムの役割と重要性は高いと思います。組込みシステムの品質向上についてこれまで様々な議論がなされてきたと思いますが、IoT時代になり、新たに求められる組込みシステム開発にはどのようなことが必要とされると考えておられますか。

 
平山氏

IoTシステムは社会とつながり、社会を支えるシステムであるケースが多いものです。図1の例は典型的なものです。この例では、橋の老朽化や傷み具合を無人で常時監視するもので、橋梁上に様々なセンサを配置し、センサから得たデータを通信でコンピュータに送り、コンピュータ側に蓄積された過去の大量のデータと常時比較しながら、橋梁の不具合を早期に検出するというものです。この例のように、IoTは安心・安全のために社会インフラに使われるケースが多いとも言えます。

 
平山氏

IoTの構成をみると、ITシステム側と組込みシステム側でそれぞれ役割分担があります。これまで組込みシステムはそれだけで存在するという閉じたものが多かったのですが、IoTでは様々な組込みシステムが状況を把握・センシングして物理的なデータを取得することで、いわばデータ源となります。そして複数のITシステムが組込みシステムから送られた複雑で多様なデータを解析・分析し、判断します。さらに新たな価値を創造して付加することもあります。これを組込みシステムに送り、様々な組込みシステムが多様な物理制御を行います。このことができるようになった背景は、従来に比べて通信のバリエーションが増え、大量のデータが低コストで手軽に送れるようになり、敷居が下がったからと言えます。最近ではIoTプラットフォームといったものも出てきています。

 
平山氏

IoTシステム開発を行うためには、組込み(ET)システム開発とITシステム開発それぞれの仕様段階・設計段階での摺合せと相互確認を行うことが重要になってきます。その際は基本としてIT/ETシステムの双方の開発者が理解できるように、図や表を用いた表現をとる必要があります。さらにIT側との接点を明示することが大切です。また、「ET-IT連携メカニズム開発」は通信部分の開発と言ってもいいと思います。図3の中でシミュレーションによるシステム統合前テストがありますが、このシステムはシステム導入コストが高いもので、一部の自動車メーカや大企業以外では採用するのが難しいと思います。身近かなIoTシステム用に作れるような低価格のシミュレーションツールは今のところまだないのですが、どうすればいいかについての研究も続けています。

 
平山氏

IoTシステムはITシステムとETシステムの融合体です。これは複数の企業や開発組織をまたいで企画され、開発されるものです。このためシステム全体が把握しにくく管理しづらくなります。ここではプロセス品質(開発過程で適切なプロセス・品質チェックがなされているか)とプロダクト品質(成果物が要求どおりの品質レベルに達しているか)が重要になります。

世の中に組込みシステムはすでにあるから、それらをくっつければいいと考える人が多いように思いますが、それほど簡単にはいきません。現状はITシステム開発者とETシステム開発者、IoTシステムインテグレーションではそれぞれの使う言葉ですら異なっています。それぞれのお互いが理解しようと努力することが大変重要です。その意味ではそれぞれの「人を意識的に連携させる」ことが重要です。人対人の連携そのものです。そのために、連携の場・仕組みをつくること、情報・意見交換を行うことを事前に予定に組み込みこんでおくことです。

 
平山氏

何度も言うようですが、IoT開発ではそれぞれの開発に比べて多くの人が介在してきます。IoT開発におけるリスクは、ITとETの双方から見てわからない技術面・プロダクト面でのリスク(システムに導入される新しい要素に関するリスク、つながることに関するリスク等)があります。さらに、開発組織面・プロセス面でのリスクがあります。従来の組込みシステムではハードウェアとソフトウェアでよかったのですが、IoTではこれらに加えて通信、ITと開発者だけでなく様々な人の数が飛躍的に増加します。大企業では1社でもできるでしょうが、中小の場合ではジョイントで開発することになります。IoT開発でのリスクを回避するためには、チームでのプロセスの共有化や情報の共有化がより重要になってきます。なぜならIoTは人が介在してシステムを開発するからです。そのためにも、チームのコミュニケーションがより重要になってきていると思います。

 
平山氏

IT側には優れた人工知能やデータマイニング能力があります。これと連携するためにET側では取り込む情報やITに渡すデータ制御の品質を確保しなければなりません。IoTではETとITの融合によるシステム領域が拡大することで、従来の組込みシステム開発以上に留意すべき点が増えています。さらに、ネットワークと組込みシステムが繋がることによるシステムの肥大化・複雑化の問題、IoT利用者の拡大に伴うユーザビリティの問題等の課題もあります。ですが、①品質を考える、②品質を見えるようにする、③技術者の地道な努力、といった組込みシステム開発の行動原則は、IoT時代になっても、IoT時代以前と変わらないと考えており、これらによって解決していくしかないのではないかと思います。

-ありがとうございました。

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