IoT ホームアライアンスセミナーレポート

5月23日、慶応義塾大学日吉キャンパス1階シンポジウムスペースで、IoT Home Allianceのセミナーが行なわれた。IoTホームアライアンスセミナーは、情報通信技術の活用による「家」に関わる課題を解決し、低減化することを目指し、そのあるべき姿を発信することにより、豊かで安全・安全な社会の構築に役立てることを目的として、2015年6月にスタートしたもので、今回は第6回目である。

デジタルビジネス・イノベーションにおけるプラットフォーム戦略

小西一有氏 特定非営利活動法人CeFIL デジタルビジネス・イノベーションセンター(DBIC)副代表 兼 チーフディレクター 国立大学法人九州工業大学 客員教授
小西一有氏
特定非営利活動法人CeFIL デジタルビジネス・イノベーションセンター(DBIC)副代表 兼 チーフディレクター 国立大学法人九州工業大学 客員教授
CeFILデジタルビジネス・イノベーションセンター(以下DBIC)は、組織がデジタル技術を駆使して、ビジネスにイノベーションを起こし、組織がグローバルな競争力をつけることを実現することを趣旨としている。特に、エコシステム、オープンイノベーションの考え方に基づいてデジタルビジネスを推進する団体で、経団連加盟の27社が参加して2016年5月20日に設立された。

デジタルテクノロジーは、世の中の何に影響するのか

小西氏は、IoTを含む広義なデジタルテクノロジーの進化は、既存の経済構造を大きく揺るがし始めており、例えばデジタル化が容易なモノについてみると、これまでの産業は従来通りでは存在するのが困難になる、と講演を始めた。その理由の一つとして、小西氏が前職のガートナーで行なった世界のCIOの意見を調査した結果、世界のCIOにとってデジタルテクノロジーの影響は「顧客経験値を上げること」であるという回答が最も多かったからであると述べた。ではどのように顧客経験値を上げるのかについて、CIOの意見は「顧客が求める製品・サービスを提供すること」であり、決して「生産やサービスの革新」ではない、と続けた。

小西氏によれば、「デジタルビジネス」とは、デジタルの世界と物理的な世界の境界があいまいになって来ている中で、新たに創造しなければならないビジネスである。今や電子的に取り扱うことができるモノはすべてデジタル化されるデジタルテクノロジーにより、かつてない形でヒトとビジネスとモノが融合される時代が到来することが確実であると述べた。

さらに、デジタルテクノロジーの進化により、従来の製品・サービスがそれぞれ個別に持っていた境界線がわからなくなり、境界が明確であるがゆえに存在していた既存のビジネスは破壊されてしまうとのことである。一方で、既存のビジネスの破壊は、見方を変えればイノベーションであり、新たなビジネスチャンスが生まれると言っても過言ではないと続けた。

さらに、小西氏は、これからは従来のシステムとしてのビジネスからプラットフォームとしてのビジネスに代わってゆなければならない。従来のシステムとしてのビジネスは、ビジネス(企業)を外から見るとブラックボックスで、中に入るとサイロ構造となっており、その価値は企業が持つ資産ということであった。

一方で成功しているビジネスはプラットフォームとしてのビジネスの形態を採るものである。これは「曖昧な境界」で、「多角性を配慮したデザイン」を行ない、「動的に接続および再構成可能」、かつ「継続的な感知、学習、再構成」を行うものであるとした。最後に、IoT時代の新たな「つながりの経済」実現のためのビジネスプラットフォームを構築することの重要性を強調して講演を結んだ。

「つながりの経済」のためのビジネスプラットフォーム
「つながりの経済」のためのビジネスプラットフォーム

Microsoft Azureで始めるInternet of Things – IoT実現を支えるサービス各種

太田寛氏 日本マイクロソフト株式会社 デベロッパーエバンジェリズム統括本部オーディエンステクニカルエバンジェリスム部 エバンジェリスト
太田寛氏
日本マイクロソフト株式会社 デベロッパーエバンジェリズム統括本部オーディエンステクニカルエバンジェリスム部 エバンジェリスト
太田氏は、Microsoft Azureが提供するサービスの説明を行なった。太田氏によれば、従来「電力の見える化」はある程度できていたものの、東関東大震災後には見える化に加えて「分析」が可能になってきた。IoTでは、「モノで構成される実世界」をセンサを使って、制御状態、位置・時間等のデータをITの論理世界に渡し、蓄積し・分析し・活用する。そして実世界への働きかけを行ない、コラボレーションをすることを目指すことである。また、ITの論理世界から導き出されるものとして「他の事業への応用」ということが可能になってくる。ここがポイントであるとした。

太田氏によると、IoTをどう実現するかについては、自前のサーバではストレージ容量・コンピューティングリソース・応答性能・他のサービスデータとの連携が必要であり、サービス開発・運用・保守費用がかかってしまう。そこで、クラウド(ストレージ容量無限大・自動バックアップ、コンピューティングリソース無限大、サービスデータ連携が容易)とPaaS(公開サービスを必要十分に利用可能、サーバメンテナンス不要)を利用するほうが有効であると述べた。

クラウドとPaaSでIoTを実現するほうがより効率的
クラウドとPaaSでIoTを実現するほうがより効率的
太田氏によれば、組込みシステム制御アプリケーション側からみると、PaaSは単なるライブラリ部品であり、実行されている場所が物理的に異なるだけであり、組込み機器はミドルウェア/ライブラリをSDKを使い、クラウド上で実行される機能を利用するAPIを提供するPaaSを、普通のライブラリ的に利用することが可能であると説明した。
PaaSを使うことの意味
PaaSを使うことの意味
なお、マイクロソフトはグローバル規模でIoTビジネスを支援しており、全世界に100か所以上のデータセンターを海底ケーブル等の専用線で結んでいる。またネットワーク網は世界トップ3の一つで、競合クラウドに比べて地域サポートは数倍であるとのこと。5年前には数100万円かかった技術が、今では最新技術が1万円程度で実現可能になっているので、まず最新技術で何ができるかを考えてほしいとのことであった。

太田氏は私見として、自分は組込み系なので、モノに関わる人がIoTを開発することほうが親和性が高いのではないかとも述べた。最後にマイクロソフトからのお願いとして、Microsoft AzureはITの視点から生まれたIoTなので、組込み系の方々からの多くのフィードバックをいただきたいとのことだった。

システムズエンジニアリングで描くIoTな家へのアプローチ

白坂成功氏 慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント(SDM)研究科 准教授
白坂成功氏 慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント(SDM)研究科 准教授
白坂氏の「専門家は専門領域の外側を見落とす」という話題からスタートした講演は、「人は見たいモノしか見ない」ため、俯瞰的にものごとを捉えるのが難しい。これは、従来は専門家あるいは企業がその役割を担い、世界をつくってきたものの、専門家だけでは専門領域の外を含めて、俯瞰的にものごとを捉えるためには難しくなっている時代である。したがって、専門を束ねる専門性を持った人への教育が必要な時代になっていると考え、2008年に慶應義塾大学システムデザイン・マネジメント(System Design Management:SDM)研究科が新たな実践的学問体系の教育研究の場として設立されたとのことである。

SDM学とは、システムズエンジニアリングやシステム思考、デザイン思考、プロジェクトマネージメント等をベースに構築され、適用範囲は技術システムから社会システムまでと幅が広い、文系・理系の融合型で分野横断型の学問体系である。SDM白坂研究室では方法論としての「大規模システムデザイン」、「イノベーティブデザイン」、「システム安全デザイン」、「高信頼性システムデザイン」、「コンセプトデザイン/コンセプトエンジニアリング」等を研究テーマとしている。

白坂氏は、IoTでは開発の方法論はこれまでと大きく異なっており、「1.ベースを作る(プラットフォーム化)」、「2.ベースにのっかる(プラットフォーム活用)」の2つの方法がある。近年System of System(SoS)が増加してきているが、個々の機器やデバイス個々の振る舞いの総和が、単純な総和とならず予測できない振る舞いが全体として現れてしまう(創発的)、さらに進化的であるため、SoS全体の品質保証が困難な状況にあると述べた。SoSの簡単な例として、カメラとプリンタが直接、あるいは様々なメディアやPC、ネットワークを介してつながっているが、このシステム全体「世話をし・品質を保証する」主体はない。

さらに、大きくIoT開発方法論にはボトムアップ型とトップダウン型があり、また多様なアプローチが存在しているが、どちらも利用者による協創、すなわち利用者が自ら価値をつくっていくものである。そこでは多様な人々が集まり、システムズエンジニアリングを基盤としながら「システム」×「デザイン思考」により創造的な思考によるデザインを行なうということであると続けた。

「システム思考」×「デザイン思考」
「システム思考」×「デザイン思考」
白坂氏によると、デザイン思考は世界的な潮流であるが、世界と日本ではアプローチに違いがあり、世界ではより汎用的であるとのことであった。例えば、ドイツではIndustrie4.0の下でモデルベースシステムズエンジニアリング研究を、大学間ネットワークを構築して行なうという事例を挙げた。特に欧州では機能安全等のシステムのISO国際標準化、価値から技術までの広範囲なライフサイクルを考える、といった総合的なアプローチであるのに対して、日本ではドメイン専用で、通信標準等の個別標準といった単一の技術でのアプローチになっているとのことである。一方、日本にはこれまでの製品開発の歴史があり、製品は素晴らしいものであることを認めつ、これからはよりデザイン思考アプローチが重要になり、必要になってくるとのことであった。

ホームエネルギーマネージメントとIoT

備前達生氏 株式会社村田製作所 エネルギー事業統括部パワーモジュール事業部 事業部長
備前達生氏 株式会社村田製作所 エネルギー事業統括部パワーモジュール事業部 事業部長
村田製作所は、セラミックコンデンサやコイル、抵抗器に代表される電子部品を材料から製品までの一貫生産体制をとり、電子産業の発展とともに、小型、高機能、薄型化を図ってきた。現在製品の90%以上は海外で販売されているグローバル企業である。単一機能部品以外にもコネクテッドカー向けの各種モジュールの製造、ヘルスケア・メディカル事業にも参入している。少し前だが、テレビコマーシャルで自転車をこぐロボットや、ボールに乗って何体もの人形がチアリーディングをする映像が放映されていたことを覚えている方も多いと思う。

村田製作所は2013年4月に横浜スマートコミュニティが提唱する次世代型スマートハウスのコンセプトにもとづいた、横浜スマートセルにモデルベース開発手法を用いた自律協調型エネルギーシステムの実証実験機を開発し、実験機とワイヤレス見守りシステムを設置し、実証実験を開始した。このシステムの開発は、モデルベース開発手法や機器を提供するdSPACE Japan株式会社とエネルギーシステムに関するコンセプト、システム構成、制御モデルに関するコンサルティングを行う株式会社スマートエナジー研究所らとともに、「地産地消エネルギーシステム」として共同で行なった実証実験である。

横浜スマートセルの「地産地消エネルギーシステム」 出典:村田製作所ホームページ
横浜スマートセルの「地産地消エネルギーシステム」 出典:村田製作所ホームページ
このシステムは双方向DC-DCコンバータや双方向DC-ACインバータなどを組み合わせ、太陽電池、蓄電池、系統電力などとシステムとして統合することで、双方向でのエネルギーの制御、融通、モニタリングを可能にするものである。そのため、それぞれの電力をどのように家電製品に振り分けるかなどの指令を直接受け取ることができ、エネルギー制御が可能となっている。

これにより、スマートハウスに求められるエネルギーを「創る」、「蓄える」、「賢く使う」システムを制御し、見える化をしながら、効率的にエネルギーを活用することができるようになっている。また、クラウドとの連携は、株式会社ユビキタスが開発した(図参照)。講演では、実証実験の結果を表示した。なお、現在は所期の目的を果たしたとして2016年2月に閉館した。

実証実験は成功し、必要なデータを入手
実証実験は成功し、必要なデータを入手
村田製作所はビジネスのベースがセンサや通信モジュールであり、これらIoTデバイス群を組み合わせることで、BEMS(Building Management System)、HEMS(Home Energy Management)、ヘルスケア、生体情報検知、オーラルケア等、新しい「価値」を提供し、さらにCEMS(Community Energy Management System)へと活用してゆくとしている。

備前氏によれば、村田製作所のエネルギー事業の目指すところは、安心安全・快適性・経済性である。現在、村田製作所のIoTビジネスはまだ小さいものであるが、小さいことはこれから大きな成長があるということを意味しており、今後積極的に事業を推進していくとのことであった。
【関連リンク】
CeFIL
マイクロソフト
慶応大学SDM研究科
村田製作所
dSPACE
スマートエナジー研究所
ユビキタス

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